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間章 SWの夏祭り!・一

「ああ、やっぱり今年もやるんだ、夏祭り」



 異界研の掲示板に張られたチラシを見て、そう呟く。



「夏祭り?」



 隣にいたアイが、聞きなれない単語に首を傾げた。



「それって、出店とかが出る、あの夏祭り?」

「そう。だけど、これはSWの夏祭りだから、毎年変な盛り上がりするのよね」

「へえ……」



 興味深そうにアイはチラシを見つめた。



「楽しそうだね?」

「行きたいの?」

「うん」



 ……正直ね。


 まあその素直さに免じて……というかもともと行くつもりだったしね。



「いいわよ。じゃあ、今年は皆で行きましょうか?」



 私と、アイと、それに嶋搗と皆見も。



「うわ、なんだか今から楽しみになってきた」

「まあ精々、期待し過ぎて肩すかしにならないように気をつけなさいよ」



「去年は夏祭り、行かなかったからなあ」

「あら、そうなの?」

「うん。私は去年の今頃はまだ能村姉弟とも会ってなかったから、一人でひたすら異次元世界を駆けまわってたし、夏祭りなんてものが開催されてること自体気付く余裕もなかったから」



 うん。それを考えると去年はもったいないことをしたなあ。


 夏祭りなんていかにも楽しそうな……。


 よし、今年は行こう。



「なら佳耶。今年は一緒に――」

「うん。皆で行こうね」

「皆……能村姉弟も?」

「当然でしょ?」



 今更なんでそんなことを聞くのだろう。


 皆と言えば私とリリーに能村姉弟と相場は決まっているのだ。



「……そうね。まあ、そういう子よね、佳耶は」

「……?」



 何言ってるんだろ。


 まあいいや。



 というわけで、夏祭り当日。


 かなり安全で、かつアースと限りなく環境状態が同じ異次元世界で、その祭りは行われていた。



「うわー、凄いね……!」



 アイが、周りを見てそんな言葉をもらす。


 まあ、確かに凄いわよね。


 SWっていう人種の特性上、こういう変なイベントでは自然と気分が盛り上がる。そうなれば、当然祭りのグレードも上がって来るわけだ。


 そうでなくとも、この日に全世界から国籍問わずにSWが集まって来る。規模はかなり大きいものになっている。


 さらに出店の数も尋常ではない。


 なにせ使える敷地は異次元世界なだけあって無限とも言えるのだ。


 どんなに馬鹿馬鹿しい出店であっても許可が出されるので、大小合わせて軽く五百以上の店が並んでいるだろう。上空から見下ろせば、小さな京都みたいになっているのではないだろうか。


 ちなみに、流石生きていれば金には困らないSWということか。出店だけでなく、祭りの中でBGMを流す音響設備や装飾なども、大分派手なものになっている。


 さらに向こうの方では、延々花火が打ちあがっている状態だ。


 ああいう花火って一発打ち上げるのも安くなかった気がするけど……まあでも、多分色々な人から花火玉が寄与されたのだろう。かくいう私も実は一発だけ寄与した。参加記念みたいなものだ。



「ここは混むから、もう少し先に行くぞ」



 賑やかしい喧騒の中、嶋搗が言った。


 この祭りの為に設置された六基の大型の《門》は、すぐ後ろにある。今も次々に人が現れている状態だ。


 確かに、このままここに留まったらいろいろと迷惑だろう。


 まずは、集中的な人混みから抜ける。


 そこでやっと、お互いの姿を認識できるくらいにはなった。


 嶋搗と皆見は、着流し姿。で、私とアイも浴衣姿である。


 これは皆見の提案で、雰囲気から出そうと言うことでこうなった。


 珍しく皆見も渋い紺色の着流しだ。てっきり金色とか着てくるかと思った。それを尋ねたら「詫び寂びが日本の心なんだぜー」という答えが返ってきた。まあ間違っちゃいないけど。


 嶋搗は普通にシンプルな黒い着流しだ。


 アイは赤に少し金の模様が入った浴衣。髪も赤いだけあって、やっぱり似合う。



「そういえば、これ、どうかな?」

「おー似合ってるぜアイアイ」

「似合ってないというやつはいないだろうな」



 ……む。



「嶋搗、私はどうかしら?」



 思わず尋ねていた。


 私の浴衣は、少し濃いめの水色のものだ。



「普通じゃないか?」

「普通って何よ?」



 つまらない反応ね。アイとなんか違う。



「いや、普通に似合ってるだろう、って言ったんだが?」



 ……。



「ありがと」

「ひゅーひゅー」

「よかったね、悠希」



 そこの二人、にやにやしない!


 まったく、なんなのよ……。


 さて、と。じゃあ気を取り直して。



「それじゃあ、どこに行く?」

「あっち行こーぜ。あっちの方が輝きが違う」



 皆見の言葉に、なんだそれ、と思うが、特に断る理由もない。これだけ出店があると、全部回ろうなんて気にはならないし、だから基本的には気ままに適当に回るのだ。


 歩き出してすぐに、アイが近くの出店に近づいていった。


 そして、



「うわぁあっ!?」



 びくぅっ、とその身体がのけぞる。



「どうしたの?」



 覗くと、その出店はどうやら……ミニサイズの人面魚の踊り食いだったらしい。


 水槽にまさに人面魚と呼ぶべき魚がうじゃうじゃ泳いでいた。


 ……うえ。


 これはないわ……イロモノすぎ。



「おっちゃん買った!」

「三万円だ」



 三万円とか……。


 しかし皆見は迷わずにカードを取り出すと――基本この祭りって高額商品目白押しだから、大抵の屋台はカードで支払える――それで支払いを済ませた。



「おっしゃ行くぜ!」



 そのまま皆見は人面魚が数匹入った紙製のお椀を一気に煽った。


 うわぁ……。



「……明彦、ある意味凄い」

「あんなのは頼まれても食う気にはならんな」



 アイと嶋搗は普通の神経してて良かった。本当に。もしこの二人まで乗り気だったら私も流れで強制的に食べさせられていたところだろう。



「……うむ」



 一気に飲み込んで、皆見はこくりと頷く。


 かっ、と目を見開いて、叫んだ。



「微妙な泥臭さがたまらんね!」



 素直にマズいと言え。


 お椀を近くに置かれたゴミ袋に放り込んで、皆見が清々しい顔をした。



「だがあんな変なもの食えて、後悔はない」

「それはよかったな。次行くぞ」



 悦に浸る皆見は置いてさっさと先に行く。一度はぐれたら二度と合流できないであろうことを分かっているのか、皆見も慌ててついてきた。



「あ、射的だ」



 アイがまた何か気になる出店を見つけたらしい。


 確かに、彼女が指さす方向を見ると、その出店の前では何人かの人間がライフルを構えていた。


 ……あれ、気のせいかな。


 普通に発砲音が聞こえるんだけど。本物の銃の。



「……さすが夏祭り。とち狂ったものがあるな」



 嶋搗がぼそりと呟いた。


 ……まあ、おおよそ同意だ。


 まさか、こんなものまであるとは恐れ入る。


 確かにその店は射的をやっていた。


 ただし、銃は本物。


 その先にあるのは、広い檻の中を縦横無尽に駆け回るフェレットに少し似た生き物が数匹。フェレットよりも遥かにグロテスクで、大きさは数倍あるが。俊足で、しかも足を止めると一緒に心臓も止まってしまうということで有名な生き物だ。


 あれに檻の柵越しに銃弾を命中させるのが目的というわけだ。



「猟奇的なゲームだなー」



 皆見が呟く。


 まあ、SWだからこそ許されるゲームよね。アースでやったら倫理的にアウトだろう。


 こういうことやってるから世間様にSWはいつまでたっても浸透できないんだろうな。まあ、私には関係ないことだけど。



「というかあのフェレット……なのかな? グロい」



 アイがげんなりとした様子で肩を落とした。


 まあ、フェレットの皮を剥いだ状態と考えてもらえばいいだろうか。あと口が肩の辺りまで開くというアンバランスさ。



「あれ、賞品見てみろよアマリン」

「ん?」



 ……あー。


 店の奥に並ぶ賞品の中に、それを見つけた。


 高級マンションの一階層まるまる贈呈とか、むしろマンションそのもの贈呈とか、スケールが他とはなにかと違うわねー。



「銃弾一発三十万だとよ」

「やっぱり高い……」



 まあ、でも賞品を比べると割安か。もしこれ一発で賞品ゲットしたら店は涙目よね。


 と、よくよく見てみると、違和感を感じた。


 あの銃……微妙に弾の進み方がおかしい……?


 どうやら銃口になにか細工をしているらしく、まっすぐ狙いがつけられなくなっているようだ。


 ……泣かせたくなってきた。



「よーし」

「あ、やる気?」

「軽くマンション手に入れて転売してくる」



 世のサラリーマンが聞いたら激昂しそうなことを良いつつ、私はその店の前に立った。



「おい見ろよシーマンあの店主の涙目」



 皆見がどこかから買って来たたこ焼きをほおばりながら笑う。


 ちなみにたこ焼きといいつつ多分、中身の具は普通ではないのだろう。それは一見して窺えた。


 なんかたこ焼きから突き出てる。


 ……なんだその黒いの。


 深くは問うまい。藪蛇だ。


 件の店では、天利が次々にフェレットもどきを打ち抜いている。完全にコツは掴んだらしい。


 むしろ涙目どころか店主は泣いて天利に退場を懇願しているが、それを聞く天利ではなかった。


 十分もしないうちに、その店主は真っ白な灰となってしまった。



「みてみて、ほら」



 天利が鍵の束やら何かの権利書が納められたファイルやらを掲げながらこちらにやってきた。



「凄いね、悠希。さすが」

「そんなに褒めても一室くらいしかあげないわよ?」



 いや、あげるのかよ。




こんな祭りに参加した、と思ったけど、一般人には出店の商品を買うだけの金が出せないことに気付いた。

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