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間章 天利悠希の恋愛事情・三

「……おはよ」

「……おう」



 私が公園についた時には、既に嶋搗は噴水のところに腰を下ろして待っていた。


 ……あれ。おかしいな。


 私、なんだか今朝は凄く早く起きちゃって、しかもどうしてだか落ち着かなくて、髪がたとか服のチェックとか、滅多にしない化粧――薄化粧だ――をしたりして時間を潰して、それでも約束の時間まで余裕があったけど他にすることもないから仕方なく、大分早く家を出たのだ。


 公園に設置されている時計が示す時刻は、八時四十八分。


 十時までは一時間以上の余裕がある。


 なのに、嶋搗が来ていた。


 ……なんで?


 十時よね、約束って。


 ……うん。間違いない。何度記憶をさかのぼっても、十時という結論以外は出ない。



「早い、わね?」

「お前に言われたかない」

「いや。でも私より先に来てるし……」



 言うと、嶋搗はむっとした顔で、



「仕方ないだろ。目が覚めてすることもなかったんだ。遅刻して文句言われてもあれだし、早めに来ただけのことだ」



 あ。私と同じだ。



「ちなみに、いつ来たの?」

「ついさっきだよ」



 そうなんだ……。


 でも、どうしよう。



「約束の十時でもないのに、移動していいのかな?」

「あー、やめといたほうがいいだろ。これでまだ、お前に告白したやつが来てなかったら笑い話にすらならない」

「それもそうね……」



 元々これは大和をどうにかするためのデートのふりなんだっけ。


 忘れてた。


 ……あれ?


 大本の目的を忘れてて、なんで私はいちいち嶋搗とデートしようと思ってたんだろ……。


 んー?


 ……まあ、無意識には覚えてたってことかしらね。



「じゃ、とりあえず十時まで適当に雑談でもしようか」

「好きにしろ。まったく、面倒くさい……」



 む……。



「そういう言い草はデートの相手に失礼だと思う」

「そんなことを気にする間柄か」



 嶋搗が苦笑し、



「それもそうね」



 私も、合わせて笑む。


 嶋搗の隣に腰を下ろして、その仏頂面を覗きこむ。



「ま、幸いにも共通の話題は尽きないし、適当に時間を潰しましょ」



「ねえ、明彦」

「隊長と呼べ、補佐官!」



 ……補佐官?


 まあ、いいや。



「それじゃあ隊長。結局、臣護って本当にさっき来たばっかりなの?」



 ちなみに、私は悠希の後を追って来て、皆見は臣護を追って来た筈。



「それがなー……」



 ぽりぽり、と。明彦が頬を掻く。


 その表情はげんなりとしていた。



「シーマン……アマリンよりもさらに一時間早く来てた」

「……え?」

「危なかったぜ。念の為に約束の二時間以上前からシーマンの家を張り込もうと思ったら、張り込み始めたとほぼ同時に家から出てくるんだからよ。あと数分張り込み始めるのが遅かったら、無人の家を見張るとこだった」



 約束の二時間前……!?



「さ、流石にそれは……」

「補佐官の考えていることはよく分かる。だかな、多分シーマンも、それにアマリンも、自分がどうして約束より早く来たのか自覚してないぞ、あの顔は」

「……うわ」



 確かに。


 物陰から、噴水のとこに腰を下ろして、偶に笑みや呆れ顔を交えながら会話をする二人を窺う。その様子からは、デートだから早く来てしまった、という浮足立った感じはない。


 早く着いたから会話してる。本当に、そんな感じだ。



「ここまで自覚がないといっそ感動するよね」

「全くだぜ」



 明彦と溜息をつく。


 あの二人……お似合いなのに。


 こうしてる今も、きっと周りからは、少し若い夫婦、みたいに見られたって不思議じゃない。


 と、周りからと言えば……。



「隊長。例の人は?」



 確か……大和銀河、だっけ。



「ああ。それならほれ、多分あれじゃね?」



 明彦が指さしたのは、私達とは別の物影から二人の様子を窺っている少年。


 手にはなにかの本を持って、それを読んでいるかのように装ってはいるが……視線は確実に二人に向いている。



「あれだね」

「あれだよな」



 うん。これは間違いない。



「それじゃ、あっちもしっかり見張っておかなくちゃね」

「あん? なんでだ?」

「隊長は馬鹿だなあ」



 まったく。


 確かに、彼が悠希と臣護が付き合っていると思って退散してくれる分にはいいよ。


 けれど。



「もし自棄になってデートの妨害とかされたら、困るでしょ?」

「あー、なるほどな」



 まあ、そういうことをする人には見えないけれど……人間、外見だけじゃ分からないことなんてたくさんある。



「しっかりと二人のデートを成功させるんだから……!」

「おう!」



 ……あれは、嶋搗臣護。


 天利さんと同じクラスで、同じSWの……。


 付き合ってるのって……彼、なのか。


 彼に容姿で自分が負けているとは思わない。


 けれど……多分、そういうのとは違うんだろう。


 天利さんが、嶋搗君と言葉を交わし、微笑む。


 その姿に、学校では滅多に見せることのない、心を許した表情に、打ちのめされた気分になる。


 ……もう少し。


 もう少しだけ……見てみよう。



 十時になって、ようやく公園を出ることが出来た。


 どこからか視線を感じるし、ついてきてるのは間違いないだろう。問題は、一体どこから視線をそそがれているのか、はっきりと分からないことだが……。


 まあ、それはともかく、俺達はぶらりと近くのゲーセンに寄っていた。


 本当は店先に出ていたクレーンキャッチャーをやる予定だったのだが、



「このぬいぐるみ、どうなのよ」



 という天利の不評から若干の修正が入ることとなった。


 俺も腹にでかい口がついている熊のぬいぐるみなんて、そのセンスは信じられなかった。あれは、一体どういうコンセプトで作られたものなのか。ただのイロモノのような気がしてならない。


 で、今は俺達は並んで銃を象ったコントローラーを片手に、モニターに向き合っていた。


 どこのゲーセンにもあるシューティングゲームだ。ゾンビを撃ち殺すやつ。


 天利としては、銃だから、という安直な理由で選んだのだろう。が……。



「っ、なにこれ、絶対標準合ってないでしょ……!」



 そりゃ現実に使うのとゲームじゃ、勝手が違うにきまってる。


 あくまでもゲームなのだ。


 重力や風速も関係なければ、ポインターがズレることなんてままある。


 そこをこいつは理解してなかった。



「っ、この……!」



 徐々にライフが削られていく。


 しかも相手はただの雑魚だ。



「っ、あ……死んだ」



 ……はあ。



「なによ、これ……詐欺?」



 お前が馬鹿なだけだ。


 ちなみに俺も足を引っ張られる形でゲームオーバーになっている。



「嶋搗、コンティニュー!」

「はいはい……」



 逆らうのも面倒だった。


 財布から硬貨を取り出し、追加料金を払ってゲームを再開する。



「よし……慣れてきた……」



 熱中する天利を横目で見ながら、俺は軽く溜息。


 ……ったく。


 これ……最終ステージまでやるのか?


 前に皆見とやったことあるが……少し長いぞ。



「おー。高得点どんどん出してくぞあの二人」

「慣れてきたら強いねー」

「ボスをノーダメージクリアとか、けっこう凄くね?」

「そうなの? やったことないから分からないな」

「んじゃ、今度また別の機会に来るか?」

「んー。そだね。今は、あの二人を見守るのが先決だし」



 ……やっぱり、仲よさそうだな。


 天利さん……。


 ゲームにちょっと躍起になっている彼女の姿を、遠目から見つめる。


 …………。



「んー。いや、ぶっ殺したー」



 天利のラスボスを倒して最初の一言がそれ。


 こいつは将来、こんな乱暴で結婚できるのだろうか。


 そんなの俺には関係ないけどな。



「この後は……」



 携帯電話を開いて、昨日皆見からメールで送られてきた予定を確認する。



「昼飯だな。最近オープンしたカフェだとさ」

「ああ、それ知ってるかも。あの駅前をちょっと外れたところにあるやつ?」

「多分、それだな」

「それじゃ、早速行きましょうか」

「ああ……」



「いや、ぶっ殺したー」

そんなところに痺れる憧れるぅ!

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