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5-21


 夕食を食べ終えて、私達は露店風呂につかっていた。ちなみに貸し切り状態。


 広い風呂が、これだけの人数いると流石にちょっと窮屈に感じる。



「ちょ、リリー! やめてよ!」

「佳耶と一緒にお風呂だなんて、夢のようだわ」



 そして、ちょっと騒がしい。


 主に麻述とリリシアが。


 っていうか、あの二人って……やっぱり……。


 気にするのは止めよう。そういうのは、うん、個人の自由だと思うから。



「なんだか生温かい視線を感じる!?」



 麻述が湯船の中を逃げながら叫んだ。



「ほら、捕まえた」

「え、きゃ――!」



 不意をついてリリシアが麻述の腰に腕をまわし、バランスを崩した二人は湯船の中にそのまま勢いよく倒れ込んだ。


 先に麻述が浮かんできて、再びリリシアとの逃亡劇が始まった。


 ……まあ、騒がしいのも悪くないかなあ。


 なんて思いながら、顎のあたりまで沈む。


 気持ちいい……。


 ぼんやりとしている、と横に誰かが近づいてきた。


 ルミニアだった。



「どうだ、臣護とは仲直り出来たか?」

「へ……?」



 にやりとした顔で唐突に問いかけられて、間の抜けた声がもれる。



「その様子なら問題なさそうだな」



 くっ、と咽喉をならして、ルミニアは私のことを横目で見た。



「仲好きことは善きかな、だ」

「いきなり、何を言っているの?」



 脈絡がなさ過ぎて、ルミニアとの会話についていけない。



「いやなに、一応のきっかけである妾としては、このまま貴様と臣護が仲違いしたとなっては後味が悪い。それだけのことだ、気にするな」

「……?」



 よく分からないけど、まあ気にするなというなら気にしなくていいか。


 っていうか私と嶋搗が仲違いって……いつ私達が仲違いなんてしたのよ?


 分からないわね。



「話は変わるが、臣護はいい友を持った……少し、羨ましいよ」

「はあ?」



 いい友って……私とか、皆見のことだろうか?


 だとして、なにが羨ましいと言うのだろう。



「おかしなことを言うのね、貴方」

「ふむ? 妾の発言のどこにおかしなところがあった」

「おかしいわよ」



 羨ましい、って……そんなの。



「羨ましがってるだけじゃなく、手を伸ばせばいいじゃない」



 簡単なことだ。



「羨ましいなら、手に入れればいい。嶋搗がいい友人をもって、それが羨ましいなら、貴方もその友人と仲良くなればいいじゃない」

「……」



 ぽかん、と。


 ルミニアは目を丸めていた。



「それに、今日一日付き合わせておいて、それで私達は何なのよ? これだけ遊んでおいて、まさか赤の他人なわけがないでしょう?」



 友人の定義とか、別にそんなのあるわけじゃないけれど。


 それでも、はっきり言える、



「私達って、もう友人って言えるんじゃないの?」



 だから、ルミニアの言葉は的外れだ。


 羨ましがる必要なんてない。


 嶋搗と同じものを、ルミニアだって手に入れたんだから。



「……は、はは、ははははは!」



 ルミニアが、急に笑い出した。



「な、なによ? なにかおかしなこと、言った?」

「いや、いいや、悠希は何もおかしなことなど言わなかったさ」



 ちゃっかり下の名前で呼ばれた!


 別にいいけど。



「なるほど、友人か……それは、初めてだな」



 嬉しそうに笑んで、弾んだ声でルミニアが呟いた。


 その微笑みは、素直に綺麗だと思えて、見惚れてしまいそうになる。



「初めて?」

「ああ……側近や世話役はいても、友人などというものを持ったのは初めてだよ」



 ……あ、そっか。


 すっかり忘れてたけどルミニアって、マギのお姫様なんだっけ。


 だから、いろいろあるのかな。


 もしかして私、凄く失礼なこととか言ってた?



「悠希」

「な、なに?」



 もしかして怒られる?



「ありがとう」

「――」



 素直な感謝の言葉に、少しだけ身体が硬直した。


 ありがとう……か。


 友人になったくらいで、感謝の言葉をもらえるなんて思わなかった。


 ……そのくらい、ルミニアの立場が私達とは違うってことなのかな。


 友人一つとして、得難いものなのだろうか。


 でも、それでルミニアが喜んでくれたようで、それならよかった。



「だが、しかし困った」



 途端、ルミニアが腕を組んで唸った。



「どうしたの?」

「いや……友人に隠し事というのは、なかなか気が引けるものなのだな、とね」

「隠し事?」

「ああ。それも、それなりに大きな隠し事だ」



 わざわざ隠し事とか言われると、気になるのが人情。



「なにを隠しているの?」

「……しかし、これは妾一人のことではないしな……迂闊に口にしていいことでもない」



 だったらそもそも、隠し事とか言うな!


 すごく気になってきたじゃない。



「ふむ……知りたいか?」



 頷く。



「後悔するかもしれないぞ?」

「構わないわよ。後悔しない人生なんてないんだから、一つ二つ今更後悔したところで何も問題はないわ」

「……なるほど、臣護が気に入るわけだ」



 あれ、今なんかルミニア呟いた?


 ……気のせいだろうか。


 まあいいや。



「そうだな……だったら悠希。これは私の独り言だが……今夜皆が寝静まった後、我らは集まる。それに第三者がついてきたら……いろいろ露呈してしまうかもしれんな」

「え……?」



 問い返す前に、ルミニアはすーっ、と私から離れて行ってしまった。


 えっと……それって、つまり……どういうこと?



「いぇー!」

「あはー!」



 皆見と能村のテンションがおかしい。



「ジェントルメーン! アンド、ジェントルメーン!」



 とりあえず皆見を湯船に沈めたいと思った俺は間違ってない。



「フェライン、彼は……どうしたのですか?」



 シオンが若干引き気味に尋ねて来た。



「気にするな。ただの汚物だ」

「汚物……ですか」



 それならば納得、という顔でシオンが頷いた。


 ……納得するのか。



「ふーはー!」

「ひゃはー!」



 そろそろ誰か、こいつらを止めてくれ。



「……」



 じじいが立ち上がって、二人に歩み寄った。


 まさかじじいが、止める気なのか?


 近づいてきたじじいに気付いて、皆見と能村が動きを止める。


 三人の視線が交わり……固い握手。


 ――は?


 固い握手?


 って、なんでだよ……。



「うぬらの信念、わしの力を貸すに相応しいと見た!」

「じいさんあんたはまだ漢だぜ!」

「桃源郷は俺達の目の前にある!」



 ……誰か助けてくれ。素直にそう願った。


 ヴェスカーさんを見ると……そうですか、我関せずってやつですか。


 ヴェスカーさんの視線はずっと夜空に向いていた。


 残念なことに、ヴェスカーさんと違って俺は目の前でこんな馬鹿が騒いでいて落ちつけるほど人間出来ていない。



「お前ら、少しは落ち着け……」

「ぬぅうん!」

「ふぉおお!」

「はぁああ!」



 変な掛け声を始めるな。変態どもめ。



「それでは、これより――」



 皆見が能村とじじいを一瞥し、大きく頷いた。



「覗きを始めます!」



 本当に変態だったとは……。



「能村! ミュージックスタート!」



 と、能村が口笛で、某三分でクッキングなBGMを吹き始める。


 口笛が上手い事に少し驚いたのは胸に秘めておこう。



「フェライン。何故でしょう、今僕はひどい胸騒ぎがするのですが……」

「奇遇だな、俺もだ」



 とりあえず皆見達から距離はとっておく。


 なんだか不吉な雰囲気がするし。



「取り出すのは、これ!」



 どこからともなく皆見が取り出したのは――錐?


 あれで何を――。



「これを、こうします!」



 皆見はそれを、仕切りにあてた。


 ――って、まさかあいつ……。



「で、作業開始でございます!」



 やりやがった。


 あいつ、仕切りに錐で穴をあけて女風呂を覗きこむ気か……。



「小僧、今こそ力を見せる時だ!」

「イェッサー! 大佐殿!」



 じじいはいつから軍属になったんだろう。


 ……っていうか、一つだけ忠告してやるか。



「もうやめといたほうがいいぞ」

「シーマン! 止めてくれるな! これは男の聖戦なんだ!」

「嶋搗! 俺は、俺は自分のほとばしる情熱を止めらんねえんだ!」

「そうじゃぞ臣護! 女子の裸に興味を持たぬなど、むしろ失礼に値する!」

「そ、そうだったんですか!? 女性の裸は覗くのが礼儀だと?」



 シオン騙されるな。


 いくらなんでもそんな礼儀はマギにだって存在しないだろう。


 っていうか、皆見……それは聖戦というより性戦だ。能村もそれは情熱じゃなく性欲がほとばしってるだけだろうし、じじいに関してはもはや根本的な所からイカれてる。


 ……まあ、そういうものに興味を持つのは同じ男として分からないでもないが、いくらなんでもそれは馬鹿の真似だ。



「フ、フェライン、僕達はどうすれば……?」



 おろおろとするシオンに、俺は溜息で答えた。



「もう終わるだろ」



 刹那。


 仕切りに錐で穴を開けようとしていた皆見の脳天に、何かが落ちた。



「ぷぎっ」



 変な声とともに、皆見が崩れ落ちる。


 皆見の頭に落ちたものが、地面に転がる。


 桶、だった。


 木で出来きた、それなりに上等そうな風呂桶だ。


 どうやら、女風呂の方から投げ込まれたものらしい。


 風呂桶といってもそれなりの重量はあり、さらにどうやら角が命中するように投げられたらしく、その威力は油断できそうにない。


 狙いの正確さからして、投擲したのは天利だろうか。


 ……ああ、うん。まあこうなるよな。


 だって、こいつら大声で覗くとか宣言してたんだぞ?


 そんなの、向こうにバレるに決まってるだろ。馬鹿か。


 そして天利は、声の出どころから皆見達の位置を把握した、ってところか。耳いいな。


 続いて、第二射。飛んできた風呂桶は困惑する能村の登頂に落ちた。



「ぶべっ」



 若干、哀れだ。



「……」



 じじいは音をたてないように仕切りから離れようとして――その頬を掠めて地面に三つ目の風呂桶が落ちた。


 じじいの顔から冷や汗が滲む。



「今のは左頬を掠めたぞ。もう少し右に修正だな」

「し、臣護!?」



 俺が仕切りごしに声をかけて、じじいが顔を青くする。



「はっちゃけすぎだ、少し反省しろ」

「第一席……きっと、酒に酔っているのです。目を覚ましてくださ」



 俺とシオンの助けは見込めないと察したか、じじいはヴェスカーさんに視線を向けて、ただ夜空を眺めるその背中に全てを悟ったらしい。



「我が生涯に、一片の悔いなぶっ」



 すこーん、と。


 四つ目の風呂桶によって馬鹿は駆逐された。



やばい……最近、寝不足かも。ゲームとかで。

……え、ゲームやるな?

ご無体な。

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