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5-20




 右隣でなんだか雀芽がダークになっている。


 ……あれー?


 なにかさっき、ちょっと嶋搗さんと話してからこうだ。


 こう……怒りのオーラがこっちにまで来てる。


 君子危うきになんとやら。


 とりあえずスルーしておこう。


 刺身を一切れ、わさび醤油につけて口に運ぶ。


 ん、ぷりぷりしてて美味し。


 やっぱり美味しいものって、食べてるだけで幸せになるわよね。うん。



「おーう。オレの刺身も食うかい?」



 すると、左隣から刺身の皿が差しだされた。



「ん?」



 そっちを見ると……えっと、確かこの派手な人は……。



「皆見明彦だ。あっくん、って呼んでくれ」



 ウィンクしながらそう自己紹介してくれた。



「わかった、あっくん」

「なんて斬新な返し方!?」



 え、いや。なんで驚いてるの?


 自分でそう言ったんじゃん。



「それであっくん、刺身食べないの?」

「ごめんなさい皆見って呼び捨てでいいです。なんか背中がこそばゆい!」



 ……?



「じゃあ皆見。刺身、いいの?」

「おう。オレ、魚を生で食べれない人種だから」

「ふうん。まあそう言うなら貰ってもいいけど、後でなにかお礼とか要求しない?」



 びくぅっ、と。


 皆見の身体が跳ねた。


 …………。


 覗きの前科があるから、一応尋ねてみたら……ビンゴか。



「な、なんだそのまるで刺身のお返しにキッスを要求しようとしている変態野郎を見る様な白い目は!」



 自白ありがとう。



「私、素直な人って好きよ?」

「え、マジ? オレもカーヤン愛してる!」



 突然両手を広げて抱きついてこようとする皆見の顔面を裏拳を頬に叩き込んで吹き飛ばす。


 その際に皆見の手から落ちた刺身の皿は、きっちりキャッチ。



「貰った、じゃなく、奪った、なら別にお礼は不要よね?」

「……仰る通りでございます」



 皆見がさっさと元の姿勢に戻る。


 ……気絶させたかと思ったけど、力加減を間違えたかしら?


 それとも、皆見が丈夫なだけ?


 まあどっちでもいいか。


 と、それと一つ気になること、さっき皆見言ってたわね。



「カーヤンって、なに?」

「ユーのニックネーム」



 ……まあ、いいけど。


 変な名前ね。



「なんか皆見って隼斗に似てる。主に殴っても罪悪感がないところ」



 皆見の向こう側に座っていた隼斗の肩が軽く震えた気がする。



「おー、そうか? まあ、オレと能村は既に心の友だからな」

「……そうなの?」



 やっぱり類は友を呼ぶのだろうか。



「にしても、皆見は派手だね」



 今は浴衣着てたけど、さっきまで虹色のアロハシャツみたいな意味不明な格好だったし、髪も目が痛くなるくらいの金髪。あとはピアスとかつけてたり、結構周りの目を引く外見だ。



「おお、そりゃそうだ。人生一度きりだぜ? だったら、自分の存在周りにアピールしなくてどうするよ?」



 胸を張って皆見が言う。


 アピール、か。


 へえ……そういう考え方は、冗談抜きで好きかな。



「なんかカーヤンにフラグが立った気がする!」



 まあ考え方だけで、この皆見の性格は全然好きじゃないけど。



「安心して。私はフラグブレイカーで有名なの」



 皆見の頬――さっきと同じところを裏拳で殴りつけた。



「……リリシアさん、怖いんですが?」

「なにか言った?」

「ひぃっ、すみませんでしたっ!」



 俺がそっと言うと、リリシアが俺を睨んだ。 


 それだけで心臓が止まりそうになる。


 な、なんで俺がこんなプレッシャーになさらされなきゃならないんだ。


 原因は……佳耶と皆見だな。うん。間違いなく。


 特にさっき皆見が冗談でも「愛してる」だなんて言った時は……リリシア、手に持った箸が軋んでたぞ。


 嫉妬ですね、分かります。


 ……えっと。


 …………ご飯が、おいしいなぁ!


 俺は現実から目を逸らすことにした。




「貴方はフェラインとは親しいのですか?」

「……いきなりね」



 真正面に座った少年――シオンが不思議そうに尋ねて来た。



「いえ。どうしても、フェラインが誰かと親しくしているという光景が相応できないんです」



 フェライン……嶋搗、のことよね。



「彼は、良い意味でも悪い意味でも独りなのだとばかり思っていました」

「独り?」



 それって、どういうことだろう。



「はい。彼は、なんというか……能力が高すぎて、他の者を寄せつけない雰囲気があります。それに彼自身あまり、他人と触れ合いそうではないので」

「確かに、そういう印象はあるかもね」



 特に、他人と触れ合いそうじゃない、ってのはよくわかる。


 いっつも難しい顔してるし、反応とかも淡泊だし。


 まあでも……シオンの意見って、まだまだ嶋搗のうわべだけしか知らない人間の言葉だと思う。



「でも、あれでも結構優しいところとか、あるのよ」

「優しい? フェラインが、ですか?」



 怪訝そうな表情をするシオンに、思わず苦笑。


 どうやら嶋搗はシオンにとってはとことんそういう印象らしい。


 まあ、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。



「ええ。あいつは、人付き合いが嫌いなんじゃなくて、苦手なのよ。ぶっきらぼうなのよね」



 初めて私たちが合った時も、そうだった。


 最初私は、SWって仕事を舐めてた。ろくな装備も揃えずに実地研修に向かうつもりだった。


 そこで嶋搗は、私のことを馬鹿だとか自殺志願者だとか言いながらも、一千万も貸してくれたり――あの守銭奴が、だ――少なくとも私を見捨てたりはしなかった。


 普通、そこまで他人の面倒を見たりはしない。


 けれど普通と違って、それが出来てしまうところか嶋搗の優しさだと、私は思う。


 あとは……なんだかんだ言って、あいつって誘うと一緒に異次元世界とかにもきちんと行ってくれるしね。


 少なくともあいつは、あいつから他人を避けようとしたことはあっても、拒絶しようとしたことはない。


 そういうやつなのだ。



「……分かりませんね」



 シオンは納得できないらしい。


 仕方ないことかもね。私だって出会った当時に同じこと言われたら、きっとシオンとおなじような反応をしていた。



「これから分かるんじゃない。嶋搗と関係をもってるなら、次第に」

「その通り」



 シオンの横からヴェスカーさんが話題に混じって来た。



「やはり人間関係とは共にいる時間で、より深みを持つものだ……というわけで」



 あ、なんか嫌な予感。



「人間関係を円滑に築く一歩として、自己アピールを始めようと思う」

「……は?」



 何言ってるんだ、この人。


 その場にいる全員が、同じ顔をした。



「これから順番に、自分についてのアピールをしてもらいます。アピール内容はSWや魔術師としての経歴や、趣味、特技などを入れてください」



 ……え、いや。なにその急展開。



「それじゃあまず、臣護君からどうぞ」



 言われ、嶋搗がゆっくりと呆れ気味に溜息を吐きだした。



 この後、麻述の正体が巷で有名なあのゴーストだったり、嶋搗が実はマギから見ても最強の魔術師だったりすることが判明したりと、驚きがいろいろとあった。


 ちなみに私が撃滅少女だっていうことは、皆の驚きの一つだったらしい。


 ……久しぶりにネーミングセンスのないその仇名聞いて落ちこんだ。


次回は温泉かなー?

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