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5-19


「悠希……起きてよ、悠希」

「ん……」



 目を覚ますと、アイの顔があった。



「……もう朝?」

「寝ぼけてる」



 苦笑し、アイが私の手を引っ張って身体を起こさせる、


 ……あれ?


 いつのまに私の部屋、和室になったんだっけ?


 ……あ、そっか。


 ようやく意識が覚醒してきた。


 私達、旅館に来たんだっけ。


 それで私は嶋搗と話して……あいつの馬鹿っぷりに呆れたのよね。



「悠希、目は覚めた?」



 アイが水の入ったコップを差し出してくる。


 気がきくわね。


 それを受け取って、飲み乾す。



「ん、ありがと」

「どういたしまして」



 とりあえず空のコップは置いておく。



「それで、どうかした?」

「あ、そうだ。もう夕食だから、広間に集まってくれ、だって」

「夕食、広間でとるの?」

「らしいよ?」



 ふうん。


 まあいいけど。



「それじゃあ、いきましょうか」



 立ち上がって、アイと一緒に部屋を出る。


 そしてついた広間に入って、まず視界に入って来たのは広い部屋の真ん中をどんと偉そうに占領する長い卓。


 卓には、それぞれの座る場所に小さな鍋が置かれていて、どうやら夕食は鍋物の類らしい。それに合わせて、刺身とか煮物とかの皿が置かれている。


 その卓には既に嶋搗を始め、何人かが座っていた。


 あ……嶋搗の隣空いてる。


 それじゃあ私はあっちに――。



「ああ、来たかい」



 そこで、ヴェスカーさんが私とアイに気付いた。



「それじゃあ、これを引いてくれ」



 そう言いながらヴェスカーさんがどこからともなく取り出したのは……箱?


 その一抱えほどの大きさの箱は、手が一つ入るくらいの穴があいていて……なんというか、まあ、あれだ。


 クジ引き、的な?


 というかまんまクジ引きだ。



「これは?」

「どうせだし交友を深めようと思ってね。席順は、運任せということにした。そうすれば誰がどこに座るかは分からないだろう?」



 なるほど、とアイと一緒に頷く。


 ――って、それじゃあ私は嶋搗の隣に……!


 ……いやいや。


 何で私、そんな嶋搗の隣にこだわってんのよ。別にいいじゃない、そんなの。


 馬鹿ねー、私。



「それじゃあ、どうぞ」



 ヴェスカーさんが私に箱を差しだしてくる。


 …………。


 うん、まあとりあえず引こう。


 べ、別に私はどこでもいいのよ?


 …………。


 箱に手をいれる。と、指先にいくつかの紙の感触。


 この内のどれかが……。


 よし。


 来い――っ!



 どうやら、全員そろったか。


 まったくクジだなんて、ヴェスカーさんも面倒くさいことを……。


 とりあえず席順はこんな感じだ。


 俺   能村姉 麻述  皆見   能村  シオン ヴェスカーさん。


 テーブルを挟んで。


 イェス アイ  じじい ルミニア リリー 天利。


 って感じか。


 けっこうバラけたな……。


 まあそれがこの席割の趣旨なんだろうが。


 ……で、なんか向こうのほうで天利が俯いて肩を落としてるんだが、どうしたんだ?


 なんか「なんで私ってやつは……」「正反対って……」とか呟いているような気もするけど……まあいいか。


 とりあえず、



「それじゃあ全員そろったようだし、そろそろ食べることとしよう。面倒くさい挨拶をしては文句を言われてしまいそうだから早速――この出会いに乾杯」

『乾杯』



 ヴェスカーさんのすこし気障ったい音頭にあわせて全員が各々の飲みものを掲げ、口にする。


 ちなみに俺はコーラだ。旅館ですきやきにコーラで悪いか。


 さて、なにから食うか……。


 と箸を手に取ると、声がかけられる。



「そういえば、貴方と話すのは初めてだったかしら?」



 隣の能村姉が話しかけて来た。



「ああ……そうだったかもな」

「噂は妹さんから聞いているわよ」



 どこかからかうような能村姉の言葉に、向かい側に座っているイェスを見る。


 イェスはさっそくすきやきの肉を箸で口に運んでいた。


 また、美味そうに食うな……。


 すると、向こうがこっちの視線に気づく。



「お兄ちゃん、食べさせてあげようか?」

「何故そうなるのかが意味がわからん」



 そして一瞬天利の方から殺気が――考えるのはやめよう。



「お前、能村姉にどんなこと吹き込んだんだ」

「え? 別に、お兄ちゃんはありえないくらい強いってことと、あと前にコテンパンに私がやられたこととか?」

「虐待?」



 おい能村姉。



「妹を虐めて喜んじゃう人だったりするの?」

「……こいつは俺の妹じゃないし、別に虐めたわけでもない」



 能村姉の言葉に、思わず頭が痛くなった。


 アホかこいつは……。


 そもそも俺とイェスの外見のどこに兄妹の要素がある。まったくの他人だろうが。



「あら、そう」



 すこし面白そうに能村姉が肩をすくめる。


 こいつ……分かっててからかってるな?


 なんて性格が悪い。



「腹黒め」



 ぴくり、と能村姉の眉が吊りあがった。



「ロリコンに言われたくはないわね」

「は、残念だけどちんちくりんの貧相な身体に興味はないね」

「ああ、そうね。貴方はただの鈍感よね。もしかして男色?」

「気持ち悪いことを言うやつだな。お前、海で腹の中のもんを少し綺麗にしてきたらどうだ?」

「へえ……」

「はっ……」



 ……今、直感的に確信した。


 俺……こいつと相性が悪い。



「火花が散ってるね……こっちに飛び火させないでね」



 そんな俺達を前に、イェスは肉を口に放り込んだ。



「あ、お酒ですか?」



 隣に座る第一席の飲みものが日本酒であることに気付く。



「お酌しましょうか?」

「ああ、構わん構わん。自分でやるわい」



 笑い、第一席が美味しそうにコップに注がれた日本酒を飲み乾す。



「第一席は、日本酒が好きなんですか?」

「そうじゃな。日本の酒はいい……ウォッカとかも好きじゃがのう。と、それと第一席などと堅苦しい呼び方はやめんか。お前は別に今やマギの魔術師ではない。であれば、わしなどを位階などで呼ぶことはあるまい」



 と、言われても……。


 いくら移民となったとはいえ、やっぱり第一席が凄い人、というのは分かっているから……。



「ふむ、気軽に、おじいさん、とか呼んでみい」

「いえ、ですが……」

「構わん構わん。臣護を見習え。あやつなど、じじいなどと失礼極まりないぞ」



 快活な笑みに、すこし私は困ってしまう。


 いいのかな……。



「かまわんだろう」



 と、第一席を挟んで座るルミニアさんが言う。



「妾が許す。爺のことは、エロじじいとでも呼ぶがいい」



 ……ルミニアさん、それはハードルが高すぎます。



「……じゃ、じゃあ……おじいさん、で」

「うむ」



 満足そうにおじいさんが頷いた。


 ……わ、私、マギの凄い偉い人二人と話してるよ……。


 今更ながらに、ちょっと膝が震えて来た。


 私がマギにいたら、絶対にありえないことだ。


 き、緊張する……!



「そういえばおぬしは元政務魔術師らしいのう?」

「あ、はい。そうです。クールベテュ地方で働いていました」

「ああ、あそこの……それで、今のところどれくらいの実力なのだ?」



 興味深そうにルミニアさんが尋ねて来た。


 わ、私の実力……?



「え、えっと……とりあえず、この前臣護が褒めてくれた……かな?」



 言うと、ルミニアさんとおじいさんが目を丸めた。


 あれ?


 私、なにか変なこと言ったかな?



「……臣護が、褒めたじゃと?」



 おじいさんが軽く世界の終わりみたいな顔をしている。



「はい。えっと、こう……竜みたいな生物を一人で倒したら」



 あの時は大変だった。


 臣護、いきなり「折角なんだから一人でやれ」とか言うんだもん。悠希も悠希で面白がって「頑張ってね」とか他人事だし。


 思い出すだけでも怖くて泣けてくる。


 あの時は、手持ちの武器が自壊するくらいの無茶をして助かったんだっけ……。



「アイ、だったな?」

「はい」

「貴様、妾に引き抜かれないか?」



 ルミニアさんの言葉に、軽く思考が凍結する。


 ……?


 あれ、引き抜かれ……ん?


 えっと、それどういう意味だろ……。


 ――は?


 いや、え?



「私、を……ですか?」

「そうだ」

「わしも賛成じゃのう。臣護が褒めるなど、よほどじゃし」



 え、え……ええ!?



「い、いえ、私なんかそんな、引き抜かれるような者ではないです!」

「謙遜することはない」

「そうじゃ。給金いいぞ。大盤振る舞いじゃぞ」

「いえ、ですから私は本当に――!」



 この後しばらく。


 私は二人の誘いを断ることになった。


 し、臣護に少し褒められただけなのに……臣護ってほんとに何者!?



もう19か……なが。

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