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5-18


 しばらくすると、悠希が帰ってきた。


 少しだけ強めの視線を向ける。



「悠希、ちゃんと話、してきた?」

「あー。もうどうでもいいわ」



 ……って、え?


 部屋に戻ってきた悠希は肩をこれでもかというくらいに落としていて、なんだか一目で落ちこんでいると分かった。



「な、なにかあったの?」



 いくらなんでも心配になる。


 あの悠希がここまで落ち込むなんて。



「臣護に、なにか酷いことでも言われた?」

「別に。あいつの馬鹿さ加減に呆れているだけよ」



 あいつって……臣護だよね?


 ということは、話せたのかな?


 ……どんなことを話したんだろう。



「少し寝るわ。なんかもう……一度寝て気分をリセットしたい」



 そう言うと、悠希は座布団を二つに折ってそれを枕にして、窓際に寝転がった。



「なんかあったら起こして」

「あ、うん」



 そしてそのまま、悠希は静かに寝息を立て始めた。


 ……寝るの、早いなあ。


 と、それはともかく。


 臣護、本当になにを話したの?



 シオンは頭の処置をしたのち、じじいと温泉に行った。あれ、一度は傷口ふさがったけど温泉に入ったら絶対に傷口開くと思うんだが……まあいいか。


 俺はいかない。


 まだまだ涼んでいたいのだ。


 すると、



「お邪魔するよ」



 ヴェスカーさんが部屋にきた。



「どうかしましたか?」

「いやなに、少しばかり雑談にね。お互い暇だろう?」

「ま、暇っちゃ暇ですけど……」



 雑談っても、俺とヴェスカーさんは、そこまで親しい仲でもないだろう。


 接点も、マギくらいだし。


 するとヴェスカーさんは真剣な目をして――、



「臣護君……リリシアを嫁に――」

「いきなりそれですか」



 そもそもそれは雑談のレベルじゃないだろう。


 思わず深い溜息がこぼれた。



「駄目ならうちに婿に――」

「だから断りますって」



 手元にあった座布団をヴェスカーさんに投げつける。


 それをあっさり受け止めると、ヴェスカーさんはその上に腰を下ろした。



「なんならマギは一夫多妻制だからそっちで天利さんやアイさんとも結婚してしまおう。ハーレムだ」

「俺は最近、ヴェスカーさんが仕事の疲れでおかしくなってきたんじゃないかと心底心配しているんですが?」



 頭痛くなってきた。


 俺なんかよりマシなやつは山ほどいるだろうに。そういう連中とお見合いでもさせとけよ。



「……残念だ」



 俺もヴェスカーさんの学習力のなさを残念に思いますよ。


 いつになったら俺とリリーの結婚を諦めてくれるんだ。



「まあ、それはまた今度にして……」

「今度になんて言わずに、きっぱり止めてください」



 この人、嫌いになりそうだ。



「それで……どうだね、近況は?」



 いきなり普通に戻るんだな。


 反応しずらいったらない。



「近況といっても、特に目ぼしい事はないですよ。いつも通り異次元世界に行って、いろいろなことをして、自由を満喫しているだけです」

「なるほど。それは結構。君の友人達とまともに会ったのは初めてだが、そちらもなかなか優秀で、そして個性的な子達のようだ」

「あいつらが個性的というところには同意しますよ。優秀かどうかはともかく」

「厳しいものだ」



 ヴェスカーさんが笑んで、目をほそめた。



「――彼女らに、何も伝えないでいいのかね?」

「……」



 また、いきなり話題を変えてくれる。


 だから、反応しずらいんだよ……そういうの。



「伝える、とはなにを?」

「分かっているだろう? 戦争についてだよ」

「は……」



 何を言っているのか、この人は。



「あいつらにそれを話して、それでどうなるんですか?」

「彼女らは、隠し事をされて嬉しくはないだろうね?」

「人間誰しも隠し事の一つ二つあるもんでしょう?」

「なるほど、確かにそうだ」



 頷き、ヴェスカーさんが俺のことを見る。


 その瞳は、鋭い。


 ……。



「それで隠し事と言えば……君と翁は我々に何を隠しているのかな?」

「――」



 思わず、息が止まる。



「なんのことですか?」



 すぐにそう言い返せた冷静さは、我ながら褒めてやりたい。



「とぼけないでくれ。君と翁は、この戦争で最も重要な位置にいながら、戦争を重要視しているように見えない。かといって、軽視しているようでもない。であれば、戦争の、その先にある何かを見据えて、それを重要視しているとしか思えないのだよ」



 ……よく気付くもんだ。


 内心で舌を巻く。



「気のせいじゃないんですか?」

「言えないかね?」

「俺達は別に隠し事なんてしてませんよ」

「マギに不利益になる隠し事ならば、話してもらわなければならない」



 お互いの発言が、まったくかみ合わないで進む。



「……はぁ」



 先に妥協したのは、俺だった。


 ヴェスカーさんには、高速魔術戦闘を叩き込まれた恩がある。俺の魔術の能力がここまで上達したのは、ヴェスカーさんの助力も大きい。


 いわば恩人を、無碍にできるわけもない。



「……マギの不利益にはなりませんよ」



 それだけ。それだけを告げる。



「……その証明は?」

「そんなのありませんよ」



 あっさりと答えた俺を、ヴェスカーさんは見つめ続ける。


 視線と視線がぶつかりあって、背筋に嫌な汗が滲みだす。



「…………君の言葉ならば、信じよう」



 どれほどの時間がたった後か、ヴェスカーさんが視線を俺から外した。



「どうも」

「だが、もし例え君や翁であろうと、我々の理想を邪魔するのであれば――」

「しませんって」



 言い方は悪いが、正直じじいはともかく、俺はマギになんてあらゆる意味で興味がない。


 戦争に加わるのは、あくまでも義理なのだ。


 興味のないものに対して、邪魔するもしないもないだろう。



「……悪かったね。こんな話をして」

「別に、気にしてませんよ」



 それだけヴェスカーさんが今回の事やマギを気にかけているということだろう。正確には、これから生まれるであろう新しいマギを。



「さて」



 ヴェスカーさんが立ち上がる。



「もう行くんですか?」

「この後の段取り――夕食などの時間を旅館側と相談してこなくてはならないからね」

「そうですか」



 部屋を出て行く直前、ヴェスカーさんが俺を振りかえる。



「そうそう、さっきの話だがね……君の友人達に、本当に何も言わなくていいのかい?」

「だから、それは……」

「人生の先輩としての意見だが、言ってしまえ楽になるよ? 君だって、皆に秘密を作るのは気が引けるんじゃないのかい?」

「俺は別に……そんな……」

「ではね」



 俺の反論も聞かずに、ヴェスカーさんは部屋を去って行った。


 ……。



「なんで俺が、あいつらに秘密があるからって気兼ねしなくちゃいけないんだ……」



「だ、か、ら……やめろってばぁあああああああああああ!」



 べたべたしてくるリリーの身体を、思いきり突き飛ばした。


 リリーはそのまま部屋の中を転がって壁に頭をぶつけた。


 意外と鈍い音。


 そして……沈黙。


 …………あれ?


 やりすぎた?


 脳裏に、サスペンスな効果音が鳴り響いた。


 りょ、旅館殺人事件……やっちゃった!?


 で、でもしょうがないじゃない。


 リリーが変態なんだから!


 だって、今の私の格好見てみなさいよ!


 温泉にも入ってないのに浴衣に着替えさせられたのよ!?


 しかも襲われかけて着崩れちゃってるし……。


 突き飛ばすのも当然じゃない!


 正当防衛よ!



「……リリー、生きてる?」



 とりあえず、恐る恐る声をかける。



「ええ……」



 あ、生きてた。


 よかった……。


 ひとまず安堵。



「にしても……佳耶」

「な、なに?」



 も、もしかしてリリー怒ってるかな?


 流石に、やりすぎた……?



「良い景色だわ」

「へ……?」



 いきなりそんなことを言い出したリリーに、思わず変な声が出た。


 良い景色、って……リリーが見てるのは私よね?


 なんで……。



「この位置からだと、下、見えるのよ」



 リリーが指さしたのは、私の下半身。


 ……っ!


 顔が燃えあがる。


 私の格好は浴衣で、しかも着崩れてて……。


 腰から下が、少しめくれているのだ。


 といっても、普通ならば問題ない程度のめくれだが……リリーのいるところからだと……。



「っ――!」



 慌てて浴衣を正す。



「リリー!」



 怒鳴りつける。



「あら、残念。良い景色だったのに」

「残念じゃない! この、変態!」



 どうしてそうなのかな!


 もうリリー、中身普通に変態オヤジじゃん!


 怒るよ?


 いくら相手がリリーでも本気で怒るよ?


 チェーンソー出すぞ!





チェーンソー出すぞ!

これ佳耶の口癖にしていいですか!? 駄目ですか! そうですか!


なんでチェーンソーなのかわからない人は、二章を読み返してみようねっ!

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