5-14
昼食の後、俺達は海を離れて近くの旅館に移動することになった。
「今日はその旅館に泊まろうかと思っているんだが、誰か一足先に帰りたい人はいるかな?」
というヴェスカーさんの質問に、アース組が携帯電話を取り出して自宅の方に電話をかける。俺と天利、アイ、リリーは誰に断る必要もないので問題はないが。
連絡を終えて、結果、全員が残ることになった。
ということで、水着から普段着に戻って、所変わってバスの中。
なんだか、良く分からない状況になっていた。
「実際、嶋搗さんってどれくらい強いの?」
「ん、あー……状況にもよるだろ」
「魔力さえあれば、臣護さんは誰にも負けないわよ」
「それは言いすぎだろうが」
なんだか、麻述がリリーを挟んで俺に気軽に声をかけてくる。
おかしい。来る時のバスの中では俺をめちゃくちゃ睨んでいた気がするんだが……。
ちなみに、俺が今座っている席を確認すると……。
バス右窓側から、天利、俺、補助席リリー、麻述、というふうになっている。まあ、来るときの席順と同じわけなのだが。
で、だ。
同じと言えば、まあ同じなんだよな。
……隣から感じる殺気とかもさ。
というか、麻述の殺気はおさまったのに、天利からの殺気が鰻上りになっている気がするんだが。
「テメェ、綺麗なおねーさんとイチャイチャしてただと!? ふざけんな」
「ああ全くだ! 俺は佳耶にボコボコにされてたってのに、ちくしょう楽しそうだなぁっ」
「俺なんてミノムシやってました!」
「あ、あの、なんでお二人ともそんな敵意をむき出しに……ぼ、僕はただ偶然出会った女性に泳ぎを教えてもらっただけで――」
「……まさか、シオンにそんなイベントが発生するとは思わなかったな、イェス」
「そうだね……うん、凄く意外。シオンって、案外垂らしなの?」
「だ、だからどうして姫もイェスもそんな目で僕を……なにかしましたか、僕?」
「その純真無垢を気取った態度がむかつくんじゃー!」
「やっちまうぞ皆見!」
「おうよ能村!」
「ちょっ、やめ……なんで服を引っ張るんですか!? やめてください、脱げてしまいます!」
「お前なんてマッパで十分だ!」
「露出狂って仇名をつけてやる!」
後ろの方で騒いでいる馬鹿達が今ばかりは羨ましい。
「へえ、料理好きなの?」
「ん、好きっていうか、やってて楽しいよ。日本は食材とか豊富でいいよね」
「そういえば、アイはどこの国の人?」
「あ、私はマギ出身だよ。目の色とか見てもらえば分かると思うんだけど、金色の瞳なんてアースじゃないでしょ?」
「ああ……カラーコンタクトかなにかかと思っていたんだけど、それって地なのね」
「うん」
「でも、マギか……どんなところなの?」
「んー、聞かない方がいいよ。あんまり楽しい話題じゃないからさ」
「……そう」
「それよりも、雀芽は料理するの?」
「それが、料理はどうにもね。普段は母さんに作ってもらっているわ。これから一人暮らしする時がきたらどうしようかしら」
「あ、だったら私が教えてあげようか?」
「本当?」
バス前方でそんな平和な会話をしているアイと能村姉はもっと羨ましい。
ちなみにじじいは海で体力を使いすぎたらしく気絶するように眠っている。歳を考えないからそういうことになる。
「ねえ、嶋搗?」
「……な、んだ?」
軽く言葉が引き攣った。
「楽しそうね?」
「……そ、そうか?」
一体今の俺のどこが楽しそうに見えるんだろう。
お前の殺気に油断一つ許されないような、緊迫した状況なんだが?
「天利、さっきからなに怒ってるの?」
「別に?」
麻述に天利が笑う。
……麻述が沈黙した。
「……ああ、なるほど」
リリーはなにか気付いたらしい。
どういうことだ、と視線で尋ねる。
というのに、リリーはなにやら微笑むだけで、答えを口にしようとはしない。
……なんなんだ、一体。
麻述が天利からのプレッシャーに黙りこみ、リリーが不敵な笑みを口元に浮かべたまま黙り込み、天利は殺気を全身から発しながら黙りこみ、俺も当然黙りこみ。
そんなぴりぴりとした空気の中、バスは旅館へ到着した。
†
……なかなか、嶋搗と二人きりになれる機会がない。
どうしたら……。
そんなことを悩みながら、到着した旅館を見上げる。
結構大きな旅館だった。
それなりの歴史を感じさせる、いかにもという木の匂いをさせる建物。
旅館の玄関脇に掲げられた看板に刻まれた名前に、そういえば見覚えがある気がする。
もしかして、有名な旅館なのかしらね。
それに、ここの代金って誰が出すのかしら?
ヴェスカーさん、だっけ? あの人が払ってくれるんだろうか。
まあ社長ってんだから、そのくらいの太っ腹具合は見せてくれてもいいと思うけど……。
まあ、それはどうでもいい。
話を元に戻して、嶋搗よ、嶋搗。
まったく……ちゃんと話をしたいのに、なかなか二人きりになれない。
だいたいなんであいつ、あんな沢山話しかけられるのかしら。
あいつと話して、皆楽しいの?
無愛想なやつなのに……。
「それじゃあ、部屋割を決めたいのだけれど……とりあえず男性陣は三人部屋を二つ、女性陣は三人部屋を一つと二人部屋を二つとったので、手早く決めてもらっていいかな?」
と、ヴェスカーさんの指示に、女性陣が集まる。
部屋割か……まあ、順当に行くと私はアイとかしらね。一番親しいし、変な気遣いとかしないで済む。
†
部屋割は、男性陣はまず俺、皆見、能村で一部屋。じじい、ヴェスカーさん、シオンで一部屋になった。
女性陣は天利、アイで一部屋。ルミニア、イェスで一部屋。リリー、麻述、能村姉で一部屋となった。
女性陣はそれぞれつるみやすいやつと部屋をとった、という感じだ。
そして今、俺は用意された部屋に来ていた。
「おー、結構広いなー」
皆見が一番に部屋にはいって、ぐるりと歩きまわる。
まあなんというか、旅館の部屋だ。
畳に、障子に、襖に、木彫りの置きものに、そんな感じ。
雰囲気としてはなかなかのものだと思う。
ただ、その雰囲気に逆らうように設置されたエアコンや冷蔵庫には目を瞑るしかないな。和風といっても、やっぱりそこら辺の道具は欠かせるものじゃないし。
「俺、旅館なんてガキの時以来だな」
能村が自分の手荷物を部屋の隅に置く。
荷物と言えば……泊まりともなれば着替えの類は必要になると思うんだが、当然いきなりこっちに来た俺達がそんなものを用意しているわけもない。
またヴェスカーさんが用意するのかな……。
「なあ、おいシーマン、能村。温泉いこーぜ、温泉」
「まだ明るい内からか?」
「さっきまで海入ってたんだぜ? 身体流したくね?」
「生憎、俺は海には入ってないんでな。それよりもさっさと冷房入れてくれ」
「なんだよ冷てーなー。そこはノリノリで一緒に温泉に向かうとこじゃね?」
「そうだぜ、嶋搗」
なんかお前ら仲良いな。気が合うんだろうか。
つまり馬鹿同士ということか。ああ、よく分かる。
「お前らだけで行って来い」
「おお、望むところだ、行くぜ能村!」
「おお、行くか皆見!」
言うと、皆見と能村は肩を組んで部屋を出て行った。
……で、あいつらは着替え、どうするんだろうな?
まあ最悪、男なら着回しぐらいどうってことないだろうけど。
それに旅館だし、浴衣くらい貸し出してるだろ。それなら下着だけ代えがあれば十分なんだし、欲しけりゃ適当に近場で購入できるか。
……とりあえず、涼もう。エアコンのリモコンはどこだ?
なんか調子でなくて目茶苦茶苦労した。
……ぬぅ。そしてなんだか納得できない出来。
ちょくちょく書き直していこうかな。
……そしてぎりぎり今日中に投稿出来た。あぶね。