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5-8



「ほら、悠希。せっかく海に来たんだから遊ぼうよ」

「……そう、ね」



 アイの言葉に、私はちらりとパラソルの方を見た。


 そして、思わず奥歯がギリと軋む。


 そこでは、嶋搗とリリシアとかいうのが仲良下げに話していた。



「あ、あそこに佳耶や雀芽がいるよ? 行ってみよう?」

「ええ」



 ふん。いいわよ。


 嶋搗なんてあの子とよろしくやっていればいいんじゃないの?


 私はその二人から視線をそらせて、アイが示した方向に歩き出す。


 というか、アイ。いつのまに麻述や能村を下の名前で呼び捨てに……まあいいけど。



「雀芽、なにしてるの?」



 アイが能村に話しかける。



「ああ、アイ。ちょっとこれで遊んでいるの」



 言う能村の手には、透明なビニール製のボール。



「これで……どうやって?」

「これをバレーの感じて落とさないようにずっと回すのよ。まあ……未だに一巡しないんだけれど」



 能村は、そう言って一緒にいた他の二人を見て、溜息をついた。


 麻述と、能村弟?



「隼斗はこう、致命的なまでの運動音痴だし……」

「悪かったな!? ボールがはるか後方に飛んで行っちゃって悪かったな!?」



 能村弟……SWで運動音痴って、それマズいんじゃないの?


 それなりにSW歴が長いって聞いてるんだけど……。



「それで、そっちはどうかした?」

「天利になら言わなくても分かるんじゃない?」



 私になら?


 どういうことだろう。


 疑問に感じながら、私は麻述がさっきからじっと見ている方向に視線を向けた。


 そちらに……嶋搗とリリシアがいる。



「佳耶はリリシアが大好きなのよ」



 ……へえ?


 そんなに仲のいい友人なのだろうか?


 ――この後、その大好きが恋愛感情的な意味でだ、と能村に聞いて驚くことになるのだが、それはどうでもいい。


 それよりも今は……麻述。



「麻述」



 私は麻述に歩み寄った。



「ん? ああ、どうかした、天利」

「麻述……もう嶋搗達なんて放っておきましょう」

「……いや、別に私はリリーなんて気にしてないし」

「ええ、そうね。気にしてないわ。もうあんなやつら気にしないで、楽しみましょう。あんなやつらを気にするだけ馬鹿らしいわ。もう放っておきましょう」

「……うん、そだね。天利、ありがと」

「別に」



 とりあえず麻述と握手しておく。



「嶋搗なんて――」

「リリーなんて――」

「「別にどうでもいいし」」



 そう。


 別にあんなやつらがどうしようが、私達の知ったこっちゃないわよ!



「おお。なんだか友情の芽生えた瞬間?」

「嫉妬で生まれる友情って、どうなのかしら」

「悠希……もう自分に正直になりなよ」



 能村姉弟とアイが何か言っていた。



「……あ、臣護さん。コーラ飲みますか?」

「……ん、ああ。頼む」

「どうぞ」



 リリーがクーラーボックスの中から取り出してくれたコーラのプルを開ける。



「なあ、リリー」



 コーラを飲みながら、隣に座るリリーに声をかける。



「なんですか?」

「女ってよく分からん」

「……そうですね」



 ほんと。なんなんだろう?


 さっきから、ちらちらととある方向から殺気じみた気配が放たれているんだが……。


 殺気を出しているのは誰か、なんてもう言うまでもないだろう。


 天利と麻述だ。



「俺、なんかやったかな」

「私、なにかやってしまったかしら」



 図らずも、俺とリリーの言葉が重なった。


 お互い顔を合わせ、そして首を傾げた。



「わからんな」

「わかりませんね」



 ……ふむ。


 コーラで咽喉を潤して、空を見上げる。



「空が青いな……」

「そうですね……」

「そういえば、最近魔術の方はどうだ?」

「それは……恥ずかしながら、まだまだ臣護さんの足元にも及びません。発動時間も、威力も、なにもかも」

「鋭さはお前の方が上だろう?」



 それは間違いない。


 俺の場合、大斬撃の魔術では魔力をとにかく加速して「叩き斬る」。


 しかしリリーの場合は、魔力を鋭く研いだ上で加速し「切断する」。


 切れ味で言えば、リリーの魔術は既に俺を越えて数ある魔術の中でも随一だろう。


 発動時間に難があるのは否めないが、それもリリーほどの才能があればすぐに縮められるだろう。



「今度、見ていただけますか?」

「ああ、構わないぞ」



 俺としてもリリーの魔術がどれほど上達したのか気になるところではある。


 最後にリリーの魔術を見たのは……一年ちょっと前か。


 あの時ですら大分完成度が高かったからな。



「なんとなく思い出します……こうして臣護さんの隣にいると、あの魔術を臣護さんに教えてもらった頃のことを」

「そんな感慨深く言うことか……」

「臣護さんにとっては些細な時間だったかもしれませんが、私にとってはそうではなかったんです」

「……ふうん」



 そうかい。


 まあ、時間の重さなんて人それぞれだろうけどな。



「今だから言いますけれど……初めて臣護さんに会った時、私はあまり臣護さんが好きではありませんでした」



 ……また、今更なことを。



「マギには、私も少しは思い入れがあります。正直、今となってはマギよりもアースの方が私にとっては故郷らしく感じられるのですけれど……」



 リリーは子供の頃にアースに来たし、そもそもマギとアースじゃ住む快適さが違いすぎる。


 そりゃアースを故郷と感じてもおかしくはないだろうけど。



「それでも、いきなり現れたアースの人がマギ再興の一翼を担うと聞いて、少し面白くなかったんです」

「知ってるよ。だからお前、初めて会った時につっかかってきたんだろ?」

「そう、ですね。お恥ずかしながら」

「俺も正直に言えばあの時、大した力もないくせに偉そうだな、って思ったよ」

「……それは、聞きたくありませんでしたね」

「そうかい」



 そりゃ悪い事をしたな。



「まあでも、それでこうして臣護さんにお近づきになれたのですから、悪い事ばかりではありませんでした」

「ふうん……どうでもいい」



 別に俺はリリーと知り合って得だった、なんて場面もないしな。


 リリーが悪い事ではないというなら別にそれで結構だが、俺に取っちゃ悪くも良くもない。


 すると、リリーが小さく笑みをこぼした。



「なんだ?」

「臣護さんは変わりませんね」

「……それは、馬鹿にしているのか?」

「いいえ。まさか」



 だったらなんでそんな笑ってるんだよ。


 ……まったく。



「女は分からん」



 シーマン。そろそろリンリンといちゃいちゃすんのはやめろよなー。


 オレはその光景を双眼鏡を使ってとある岩場の陰から覗いていた。


 何のためって、もちろんシーマンとアマリンをくっつけよう大作戦の為に。


 ……で、あの二人さっきからアマリンやカーヤンの送る嫉妬の視線にどうして気付かねーんですかね。


 オレは不思議でなりませんよ。


 っていうかシーマン羨ましい!


 結果的に三人の美少女に見られてるよ!?


 俺も見られたい!


 ……くぅっ。


 ちくしょう。今は我慢だ。


 今は、とりあえずアマリンの応援に専念せねば。


 とにかくシーマンを見張り、そして隙あらばシーマンを一人にして、そこにアマリンを送り込む。


 それで二人に夏のアバンチュールをさせてやるんだ!


 使命感に燃えるぜ!



「あ、上手い上手い。お姫様は素質あるね」

「ふむ」



 あっという間にクロールを覚えたお姫様は、私の言葉に鼻高々だ。


 それと違って――、



「シオンは……かなづちだね」

「よ、余計な御世話です!」



 シオンは……ねえ、それは犬かきなのかな?


 とりあえず水に浮けないみたいだけど。犬かきは犬かきでも、泳げない犬の犬かきだね。


 笑っていいのかな?



「ふ。シオン。情けないな」



 私の代わりにお姫様が笑った。



「くっ……!」



 お姫様に言われてはシオンも言い返せない。


 まあでも、恥ずかしがることないと思うんだけど。


 三十分しか練習してないんだから泳げないでも仕方ないよ。


 それよりも、たったそれだけの練習で泳げるようになったお姫様が学習能力高すぎるだけ。


 お姫様、本当に凄いよね。



「それじゃあお姫様、次は別の泳ぎ方やってみようか。シオンは引き続き犬かきの練習」

「これは犬かきではなくクロールです!」

「……え?」



多分、隼斗も泳げないんだろうね……。


とりあえず嶋搗はうらやましい。

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