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5-2


 まだ眠っているアイを起こそうと彼女の部屋の前に立つ。その時、インターホンが鳴った。


 ……こんな朝から、誰かしら?


 思いながら、アイのことを後回しにして玄関前の映像をモニター越しに確認する。


 そこには、一組の少女と少年が経っていた。少女は、少女というには少し大人びた顔をしており、少年は、少年と言うには幼さを感じさせる。


 少女は目を見張るほどに可愛らしく――いや、綺麗、と評するべきかもしれない。


 少年の方は、なんだか辺りをきょろきょろと見回している。なにかめずらしいものでもあるのだろうか?



「どちら様ですか?」



 私はそんな二人に見覚えはない。



『ああ、妾の名前は長いのでな。ルミネスウェニア=アルオブリガトードとでも覚えておいてくれ』

「はあ……」



 ……いや、それも十分長いし。元はどれだけ長いのだろうか。



『そしてこっちは……ふむ。折角日本語を詰め込んだのだ。ここで一つ、自己紹介をしてみせろ』

『あ、はい……シオン=ティエン=シュレヴィルムです。以後、お見知りおきを』



 少年が軽く頭を下げて少し仰々しい挨拶をした。


 顔立ちからして二人は明らかに日本人ではない。


 だというのに、二人とも日本語が普通に上手い。どれだけ勉強したのだろう。


 ただ、ルミネス――なんだっけ? とりあえず少女の方が一人称がちょっとおかしい。妾って……。


 詰め込んだ、と言ったが……まさかアイみたいに短期間で覚えたとかいうのだろうか。だとしたら、恐らく私と彼女らは相いれない存在だろう。学力的に。



「それで、名前は分かったけれど、なんで私の家に?」

『なに。臣護の友人と言うものに少し興味があってな』



 ……臣護って、嶋搗?


 なんだかその呼び方は砕けた感じがあって、なんとなくいらっとするものがあった。


 この人……嶋搗のなんなのかしら?



『どうだ、一つ茶でも出してはくれないか。お互い、臣護に関しては話題が尽きまい? ゆっくり語ろうではないか』

「……ええ」



 正直、なんとなく好ましい雰囲気を感じる人達ではない。


 というか、どうやって私の住所を知ったのか、とか。いきなり押し掛けるとか非常識だとは思わないのか、とか。いろいろと言いたいことはあるけれど……。


 だが……この人達――特に、少女の方が嶋搗とどんな関係なのか、なによりそれが気になる。


 私はしょうがなしに、二人の客人を迎え入れた。



 僕は、シオン=ティエン=シュレヴィルム。


 現在、アースに来ている。


 その際に協力してもらったのは前円卓賢人第四席であり現M・A社代表ヴェスカー=ケシュト=アルケイン。まさか、かの高速魔術戦闘の達人にここで出会えるとは思えっても見なかった。


 そして、この世界はどこを見ても、驚きばかりだ。


 空高くそり立つ建造物の数々。道は綺麗に舗装され、行き交う人々は誰もが健康そうに生活を送っている。


 こんな光景があるなんて……。


 ちなみにアースの日本語と英語は姫の命令で一週間で覚えた。覚えないと側近を外すと脅されたので必死だった。


 流石に一週間寝ずに勉強し続けた甲斐あってか、それなりに流暢に喋れると言う自負がある。ただ、勉強が終わった後三日寝込んだけれど。


 やっぱり魔術で強化していたとはいえ一週間ずっとは無茶だったろうか。


 ちなみに勉強しているのを第八席に見つかってしまい、ひどく軽蔑的な目で見られることとなった。その場はどうにか誤魔化したが。


 言語を勉強しているだけであんな目で見られるなんて……今更になって、その異常性が僕にも分かった。


 マギはアースへの敵対心、軽蔑心が大きすぎる。


 かく言う僕も、何も知らないままでいれば第八席と変わらぬ態度をアースへ示していたのだろうけれど。


 今までの自分の視界の狭さが恥ずかしくなった。


 姫がなんでマギを変えたがるのか。その一端をまた一つ知れることにもなったけれど。


 ――ああ、そういえばもう一つ。


 最近、インドラを使った戦闘訓練をするようになった。相手はイェス。


 魔術とアースの兵器を利用した戦闘は思った以上に難しい。


 魔術は感覚と才能の力。兵器は技術と汎用の力。その両者を交わらせるのは、なかなかに困難だ。


 魔術を使う。そうすると自然と兵器へ向ける意識が薄れてしまうのだ。これは、やはり長年の間、魔術師として生きて来た弊害だろう。


 魔術とはすなわち集中力そのもの。


 一方でアースの兵器での戦い方は基本的に、多く動くもの。


 逆に兵器を使おうと身を動かせば、集中が定まらず魔術が上手く使えない。


 集中と動作を両立させるのは、これが実は器用さを要求させられる。


 イェスに言わせれば、ようは慣れらしい。


 動作は身体に染み込ませれば自ずと意識など向けずとも行われる。そうすれば魔術を使う余裕も出てくると言うこと。


 動作を身体に染み込ませる。よくわからない話だ。


 それはつまり、なんの考えも無しに反射的に身体が動くということだろうか?


 そんな、まるで自分の身体が別の生物みたいに動いてしまうなんてことが有り得るのだろうか?


 よく分からない。


 ただ、とりあえず練習あるのみ、ということだけは理解している。


 現状、イェスに勝てた試しがないのが少しばかり癪ではあるが。


 ……と。


 まあ回想はその程度として。


 今の状況に目を向けることにしよう。


 僕と姫は嶋搗臣護という人物の友人に会いにきている。


 イェスはアースについた途端、パフェを食べてくると言ってどこかに言ってしまった。彼女は姫の側近という自覚がないのだろうか?


 嶋搗臣護というのは、なんとあのフェラインのことらしい。フェラインはそれほどまでに強かったのか、と正体を姫に聞かされた時は驚いたものだ。


 ……まあ、イェスですら歯が立たなかったというのも納得である。


 そのフェラインの友人である……えっと、名前は――、



「そういえば、自己紹介がまだだったわね。天利悠希よ」



 そう言いながら、彼女――天利悠希が黒い液体の入ったカップを差し出してくる。


 たしか、コーヒーと言ったか。



「シロップしかないけれど、入れる?」

「ああ、貰おうか」



 天利悠希の差し出した小瓶に入っていた透明な液体を姫がコーヒーに入れる。



「そっちは?」

「あ……僕は、えっと……このままで」



 コーヒーが苦いもので、シロップが甘いもの、ということは知っている。


 ただ、別にいくら苦いと言っての飲みもの。たかが知れている。決して姫への当てつけではないが、わざわざシロップを入れるまでもないだろう。



「そう」



 シロップの小瓶をテーブルの隅に置いて、天利悠希が僕達の向かいに腰を下ろす。


 そして二人がカップに口をつけたので、それに倣って僕もコーヒーを――、



「ぶっ」



 思わず吹いてしまう。



「!?」

「汚いではないかシオン」



 な、なんだ、これ!?


 苦い!?


 これは本当に飲みものなのだろうか。


 僕は口の中に残る強烈な苦みに顔をしかめながら、慌てて天利悠希に謝罪する。



「す、すみません」

「え、ええ。別に構わないけれど」



 言いながら、天利悠希が台所から持ってきた布巾でコーヒーをふき取る。


 ……一度口に含んだものを吐き出すなんて、なんて恥ずかしい真似をしてしまったんだ。


 でもしょうがないじゃないのだ。コーヒーが苦すぎたのだから。



「悪いな。こいつはコーヒーを飲むのが初めてだったから驚いたのだろう」

「コーヒーが初めて……?」



 意外そうに天利悠希が僕を見る。


 マギにはコーヒーや、それに似た飲みものはない。



「本当にすみません」

「まあ、別に服にかかったとかいう訳でもないし、いいけど……」



 少し困惑気味に苦笑して、天利悠希が席に座り直す。


 ……コーヒーはもう飲みたくない。



「じゃあ、取り直して……貴方と嶋搗の関係って?」

「妾と臣護の関係、か……ふむ。なんと言えばいいか……。そう、ただならぬ仲、というやつか?」

「た、ただならぬっ……!?」



 動揺したように天利悠希がたじろぐ。



「あるいは、人には言えぬ秘密を共有した仲とも言うか」

「人には言えない秘密……!?」



 一体どうして彼女はこんなに緊迫した表情をしているのだろうか。


 そして姫は凄く楽しそうな顔をなさっている。


 女性の会話には不思議が一杯だ。



「も、もっと詳しく言いなさいよ!」

「聞きたいか?」



 にやり、と姫が意地悪そうに笑む。



「それはな――、」




 ピンポンピンポンピンポーン!




 姫が何か言おうとしたその刹那、甲高い音が鳴り響いた。


 こ、この音は……!?


 思わず警戒を強めた僕とは違い、天利悠希と姫は平然としている。いや、天利悠希は若干不愉快そうな顔をしている、か?



「来客のようだな?」

「みたいね……」



 来客……?


 そうか。これは来客を告げるものだったのか……。


 ほっと僕が安堵する。と、どこかでドアの開く音。



「悠希ー、私が出るねー?」

「あ、うん。ありがとう」



 聞こえてきた声に天利悠希がお礼を口にする。



「同居人か?」

「ええ。友達。ちょっと前から一緒に住んでるのよ」

「ああ。そう言えばそんな話も聞いていたな」

「聞いたって……どこで――」

「天利ッ!」



 ふと――その時、血相を変えてリビングルームに入ってきたのは、一人の男。



「嶋搗?」

「臣護ではないか。久しいな。手紙は読んでくれたようだな」



 嶋搗臣護……ということは、彼がフェライン?



「あれ、臣護? どうしたの?」

「悪い。上がるぞ」

「あ、ちょっ……臣護!?」



 扉を開けたパジャマ姿のアイに断って、家の中に入る。


 ……見慣れない靴が、二つ。


 くそ……まさか……!


 足早にリビングに向かう。


 そして、目に飛び込んできた二つの姿。


 ルミニアと、それにシオン……。


 手遅れだったか……!



「嶋搗?」

「臣護ではないか。久しいな。手紙は読んでくれたようだな」

「この……ルミニア! お前なんでこっちにいるんだよ!」

「何故、と言われても。来たいから来ただけだが?」



 俺の言葉に、ルミニアはさも悪気はないとでも言いたげな様子。



「とにかく、さっさと帰れ!」

「それは無理な相談だな」

「なにが無理だ……!」



 よりにもよって天利のところに来るなんて、何を考えているんだこいつは!


 もしあの事が天利にバレたら……。



「安心しろ。お前が友人思いなのはよく分かった。わざわざ暴露したりはしない」



 俺の心を見透かしたようにルミニアが言う。



「大体、少しくらいは息抜きをさせてくれてもいいだろう? これから大詰めなのだ。いくら妾とて、心労はあるのだからな」

「…………」



 そりゃ、世界一つ覆そうっていうんだ。そのプレッシャーがどれほどのものかは、俺にも計り知れない。


 だからって……なんでアースに。



「もう、臣護。いきなりどうしたの?」



 背後からアイが近づいてくる。


 そしてリビングの中を覗いて、二人に気付いた。



「あれ、お客さ――え」



 で、その口が大きく開かれた。



「どうかしたの、アイ?」



 天利がアイのおかしな様子に首を傾げる。


 次の瞬間。



「え、え? え、あれ? ん? あれ? えっと……あれ?」



 首を傾げたり、顎に手を当てたりと、アイが不可思議な行動をとる。


 ……あ、そうか。アイはマギの人間だから、ルミニアのことをどこかで見知っているのかもしれない。


 だとしたら、マズい。



「アイ、落ち着――」



 俺が言葉をかけるより早く。



「ぇええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」



 アイが、悲鳴じみた大声をあげた。


 びくりと天利が驚いたような反応を見せる。



「ど、どうしたのアイ?」

「どうしたって、悠希。そ、そそ、その人……!」




 振るえる指先をルミニアに向けて、アイが告げる。



「マギの王女様……」

「……え?」



 その時に天利の顔は、なんというか……まあ、大分間抜けなものだった。






やーばーいー。なんだか五章に納得できない自分がいる。


つまらない人はどんどん感想に指摘点など書いてくださると助かります。

……流石に「全部つまらない」とかは言わないでもらえると嬉しいです。いや、それが事実なら仕方ないのですが。

なんだか無性にネガティブになってきた。


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