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5-1

「準備は万端、か」

「そうじゃな。現時点で王宮に叛意を持つ貴族はワシがまとめ上げた。あとは行動あるのみじゃ」

「ふ……爺、その老骨労わってやろう。よくぞやってくれた」



 妾一人ではここまで出来なかったろう。


 此度の行動は、爺が妾の手元にいるからこそ達成出来るのだ。妾一人では反乱軍を築きあげることなど不可能だったろう。


 その点では爺に感謝している。



「お主が人を褒めるなんて、気味が悪いのう」

「素直に喜べ、この妾の言葉だぞ」

「お主の言葉じゃから素直に喜べないんじゃが……」



 このオンボロめ、言ってくれる。


 まあいい。今の妾は機嫌がいい。無礼は不問にしてやるとしよう。



「八日後。父上が視察の為に王宮を離れる。円卓賢人第二席と第三席――二人の《黒》を連れて。その時こそが、勝負だ」

「うむ。残りの円卓賢人はワシとシオンを除き、さらに身柄をアースに拘束されている第九席以外の五人。まあ、問題なかろうて」



 そういえば第九席はリリシアに叩きのめされたのだったか。


 まあ第九席程度では間違ってもリリシアに勝てるわけもあるまい。


 最後に会ったのは半年以上前だが、あれもなかなか強くなっている。臣護の真似事をするようになってからは尚更に。


 アースの魔術師は、リリシアにとっていい刺激になったようだな。


 いや、リリシアだけではないか。臣護の存在には、妾も刺激された。


 それはつまり、アースと魔術――ひいてはマギという世界が交わることが出来ると言うなによりの証明だったのだから。


 改めて思う。


 やはり臣護の存在は大きい。あれは、様々な人間に影響を及ぼす人種だ。



「……臣護は、今頃なにをしているだろうな?」



 と、問うまでもなかったか。


 案の定、爺が苦笑して、さも当然のように答えを口にした。



「異次元世界を駆けまわっておるのじゃろう」



 SWとして、か。


 ふん。なんとも自由気ままで羨ましい限りだ。


 出来るなら妾もそんな生き方がしてみたいよ。


 まあ無理だろうがな。


 妾は王女。そんな勝手が許される立場ではない。


 この件が上手くいった後でも、妾は王になるのだから結局変わらない。


 妾はこの生がある限りマギに尽くすのみ。


 ――それが誇らしいと思える自分がいるのだから、これも悪くはないがな。


 思わず笑みがこぼれた。


 ……ああ。そうだ。


 どうせこれが王女としての最後の安息。


 であれば、いっそ楽しむの悪くはない。


 立場の柵を一時忘れて、多少の無茶もしてみようか。



「臣護達に会いに行こうか、爺」

「なんじゃと?」



 妾の言葉に爺が訝しむような表情をする。



「いきなり何を言い出すんじゃ?」

「いいではないか。戦の前の、ほんの少しの戯れ心だ」



 臣護に、リリシアに……ああ、そうだ。どうせなら奴らが親しくしているという連中に会ってみるのも悪くはないか。


 聞くところによれば二人とも、大層愉快そうな友人が揃っているらしい。



「……お主のその目は、言っても聞かんな」

「よく分かっている。流石、無駄に妾に纏わりついているだけのことはある」

「無駄とは失礼な。この時までお主に仕えた忠義への返答がそれか」



 忠義、などと貴様ほど似合わない魔術師もいまい。


 お主はただ、自分の正しいと思う道を進むだけだろうに。妾と共に歩いているのは、その道が偶然重なったから、というだけのこと。



「貴様は貴様に仕えているのであり、妾に仕えてはいまい。それに貴様、何か妾に隠していることがあるだろう? ちらりちらりと行動が臭う」



 それは昔から感じていたこと。


 確かに爺は妾と同じくマギをより素晴らしいものに変える為に動いている。


 だが、それだけではないと妾は感じていた。


 爺にはなにか、その先にもまだ続く目的があるように思えてならないのだ。



「ふむ……まあ、そうじゃな」



 意外なことに爺はあっさりと隠し事を認めた。



「じゃがそれは気にせんでいい。別にお主と敵対するようなことでもないしな。現時点では一個人としての懸念じゃよ」

「ふん。曖昧なことを言うものだ」

「なに。ワシなりの気遣いじゃよ」



 爺がどこか、まるで夜を怖れる子供のような瞳を垣間見せて、呟く。



「まだまだお主も、そしてこの世界も儚い。アレを知るのは、もっと強くなってからでいい。今は、ワシと臣護だけが気にしていればいい事なのじゃ」



 その呟きは、あまりに小さすぎて聞き取れなかった。




「じじい……っ、無事か!?」

「誰にものを尋ねておる……問題ないわい!」

「ならその、脇腹から出てる血はなんだよ!?」

「貴様とて左腕がイカれておるじゃろうが!」

「っ……なんなんだよ、これは!? 空が歪んで……意味わかんねえぞ!」

「ワシとて知るものか!」

「っ、くそ、が……っ!」

「この馬鹿者! まだお前の魔術は弱い! こんな化物に歯が立つものか! おとなしく守りに徹しておれ!」

「知るかっ! ここでやらなくちゃ、死ぬだけだろうが!」

「っ、なんじゃ、この馬鹿みたいな魔力は……臣護、お前……!」

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



「――っ!」



 勢いよく身体を起こす。



「……夢、か」



 嫌な夢だ。


 あの時のことを見るなんて……。


 なにか悪い事の予兆だろうか?


 ……まさか、な。


 たまたまだ、たまたま。


 悪夢なんて別に珍しいものでもない。そんなの気にしなければ何でもないのだ。


 そう自分に言い聞かせて、俺はベッドから出た。


 夏休みが始まって二週間。


 俺は連日のように、異次元世界に出ていた。


 その大半が天利、アイ、皆見と一緒だ。


 ……なんでか、いつもあいつらが俺につきまとってくる。いい加減にして欲しい。


 俺は連中の保護者になった覚えはないんだがな。


 今日こそは自由に一人で異次元世界に出よう。


 そう決意しながら、身支度を整える。


 トースターに食パンを放り込んでから顔を洗い、歯を磨く。そして焼けたトーストを齧りながら着替えを出し、さっさと着替えてしまう。


 そのまま各種免許証などが入った財布だけを持って家を出ようとしたところで、郵便受けに手紙が入っているのを見つけた。


 これは……。



「……あいつか」



 差出人の名前を見え、思わず顔をしかめる。


 マギの言語で書かれた名前は、どこぞの我が儘姫のもの。


 いつも気になるのだが、あいつは一体どうやって俺のところまで手紙を届けているのだろう。


 そんなことを考えながら、手紙の封を切る。


 さて、なにが書いてあるのか。




 ――七日後、戦争を始める。




 最初の一文に、目を細めた。


 ……戦争。


 そうか。


 もう始まるのか……。


 手紙を握る手に力が籠もる。


 正直に言えば、少しだけ緊張している。


 今回は、相手が人間だ。もちろん殺すつもりなんてないが……これは戦争なのだ。なにが起きるか分からない。


 少しだけ気弱なことを言えば、不安、だった。


 ……言うまでもない事だけれど、だからといって負けるつもりは毛頭ない。


 俺は嫌な動悸を感じながら、手紙の続きに目を通した。




 ――それと、ちょっとそっちに遊びにいくぞ。貴様の交友関係というものにも興味があるしな。




 思考が数瞬だけ真っ白になった。


 ……遊びに?


 そっちって、どこだ?


 もしかしてアースのことか?


 誰が?


 手紙の差出人は、ルミニア。であれば、やはりルミニアがだろうか?


 …………。


 まあ、ここまではいいとしよう。


 だが終わりの部分がいけない。


 俺の交友関係に興味?


 ルミニアが?


 嫌な予感しかしない。



「……っ!」



 とりあえず、この予感が的中しないことを祈って。


 玄関の扉を開けて蒸し暑い気温の中に飛び込んだ。




 またあいつは、余計なことを……!





ちょっとフラグっぽいのを立ててみた。


なんだか、微妙な感じに仕上がりました。

もしかしたら大々的に書き直すかも。

そのときはお知らせします。

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