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間章 学力不足・下

 かりかりかり。


 かりかりかりかり。


 かりかりかりかりかり。



「…………」



 パキッ。


 シャープペンの芯が折れる。


 カチカチ。


 芯を出して、再びノートに黒鉛を走らせ――パキッという音。


 プチッ。



「もう無理!」



 ノートをテーブルの上から払いのけて勢いよく立ちあがる。



「うぁちゃぁっ!」



 その衝撃で隣に座っていたアイの手の中のカップから熱いコーヒーがこぼれて彼女の手にかかる。


 カップをテーブルに置いてアイがキッチンに駆け込み、水道で手を冷やす。



「ゆ、悠希……ひどい」

「ごめん。今のはわざとじゃない」



 アイの咎めるような――事実咎めているのだろう、その視線に立ちあがった時の勢いが萎びて、椅子に崩れ落ちる。



「でも……もう限界よ」



 本当に、もう無理。


 時計を見れば、深夜三時。もう何時間勉強しているのだろう。


 それでも英語は理解できない。


 朝まで勉強しても頭に入ってくるかどうか……ヤバい、赤点ヤバい。


 ちなみにテストは一日目に英語と数学。私も嶋搗も苦手科目があるので最悪だ。


 さらに二日目も古文、歴史と私達の苦手科目があるので……明日もこんな感じの勉強会を開かなくちゃならないだろう。鬱だ。


 まあ三日目にある科目は勉強しなくても赤点回避はそんな難しくないから、そこは気楽でいいけれど。


 向かいに座る嶋搗が、シャープペンを放り出して深い溜息を吐いた。



「同感だな。勉強なんて、継続させるものじゃない」

「臣護……それが駄目人間の発想だって一刻も早く気付いて……継続は力なり、っていう言葉知ってる?」



 アイには私達の気持ちなんて分からないわよ。


 この天才め。


 脳味噌すり潰して注射するわよ。



「いま何か寒気が……」



 アイが身震いして私を見た。



「なんのこと?」



 すっとぼけて、私は床の上に落ちたノートを拾い上げた。



「ともかく、せめて一度休憩しましょう。知恵熱で倒れそうだわ」

「……そうだね。二人とも大分頑張ってるから、三十分くら休んだ方がいいかも」



 たったの三十分……一時間は休みたいのに。



「それじゃあ、サンドイッチでも作ろうか?」

「ハム」

「ツナ」

「注文に遠慮がないね……貸しだからね?」



 言いながら、冷蔵庫を開けてアイが食材を取り出す。


 ちなみにハムは私、ツナが嶋搗の注文である。


 アイはなかなか料理が上手い。あっちでも料理はよくしていたらしく、最近ではアースのいろんな国の料理にチャレンジしている。この間のカルボナーラは正直絶品だった。



「それじゃ、私はシャワーでも浴びてこようかな」

「行って来い。俺は少し寝る」

「――覗かないでよ?」

「誰もお前の身体なんかに興味ねえよ」



 ……それはそれで傷つくんだけれど?


 女子が一つ屋根の下でシャワー浴びるって言ってるのに視線一つよこさないってどういうことよ。


 こいつは本当に異性に興味があるのだろうか。



「……ま、いっか」



「はい、どうぞ」

「ん、ああ。悪いな」



 眠りかけているところに、アイの差し出した皿には一口サイズのツナサンドがいくつか乗せられていた。


 睡眠欲は、食欲の前にあっというまに消え去った。俺はテーブルに伏せっていた身体を起こして、ツナサンドに手を伸ばす。


 それを口に放り込むと、ツナの味が口のなかに広がった。普通に美味い。



「アイは将来、いい嫁になるな」

「よ、嫁……!?」

「なんでそんなに驚いてるんだ?」



 普通に褒めただけだろう。



「いや、だって……というか、そういうことは悠希に言ってあげなよ」

「天利に? 何で?」

「……それ、本気で言ってる?」

「はあ?」



 本気も何も、ここでどう冗談を言えと?



「――てっきり、臣護はとぼけてるだけかと思ってた」

「とぼけるって、何をだよ?」

「そんなの……ああ、うん。なんでもない」

「……?」



 なんなんだ、一体。



「というかさ、臣護は悠希のことどう思ってるのかな?」

「と言うと?」

「二人、いっつも一緒に異次元世界に出てるでしょ?」



 いつも、というわけではないが、まあ否定もしない。



「それ見てるとさ、二人ともきちんとお互いを信頼して、背中を預けてるなあ、って思うんだ」

「まあ、天利は強いからな。最近は、一気に強くなってる。あの一件以来だったか」



 黒部、だったかな。


 そんな名前のSWと関わってから、天利は天井知らずの勢いで実力を伸ばしている。


 正直、遠・中距離で天利以外のSWが考えられないほどだ。



「でさ、臣護って……悠希のこと、相棒と思ってるの?」

「……」



 相棒、ね。


 そういう気持ちもなくはない。腐れ縁だが、ここまで続いてきたのも事実。


 もし俺が相棒として名前をあげるのなら、それは間違いなく天利の名前だ。


 しかし、



「どうだろうな」



 相棒と言われても、なんだかぴんとこない。



「よく分からん」

「……そっか」



 すると、アイは小さく笑んだ。



「なに笑ってるんだ?」

「いや……悠希、大変だなと思って。こんな鈍感相手じゃ。それに、悠希自身もまだあんまり自覚してないみたいだし。前途多難、って言うのかな」



 ……?



「意味が分からないぞ」

「分かるように頑張って」



 なんだそりゃ。



「さて、と。コーヒーおかわり、いる?」

「……ああ。じゃあ頼む」

「うん」



 アイが俺のカップを持ってキッチンに入って言った。





「というかさ、悠希の家に臣護専用のカップが置いてある時点で気付きなよ。臣護の家にも悠希専用のもの置いてあるし」





 キッチンに入ったアイの言葉は、よく聞き取れなかった。



 結局、嶋搗は本当に覗きにはこなかった。


 なんだかんだ言ってやって来るんじゃ……そんなことに気を張っていた自分が無性になさけない。


 湿った髪を肩の後ろに払って、私はテーブルに座った。



「「……はぁ」」



 なぜか溜息が嶋搗と重なった。



「どうかしたの?」

「いや、別に……そういうお前はどうかしたのか?」

「ううん、別に」

「そうか」

「ええ」



 テーブルの上に置いてあったハムサンドを食べる。あ、なんかちょっとピリ辛で美味しい。流石アイ。私の好きな味が分かってる。



「それじゃ二人とも。そろそろ勉強再開ね」

「え、もう?」



 私シャワー入っただけなんだけど?



「うん、きっかり三〇分。ストップウォッチ使ったから間違いないよ?」



 言って、アイが携帯電話の画面をこちらに向けた。本当に携帯のストップウォッチ機能で時間を計っていた。


 なんて真面目な……そしてその真面目さが今は憎らしい。


 ちなみにこの携帯はこの間私が携帯の機種を変えに言った時に一緒に買ったもので、私と同型の色違い。



「……それじゃあ、始めましょうか」

「そうだな」

「ほら、悠希。英語なら教えてあげるから」



 そうは言うけれどね、アイがどれだけ丁寧に教えてくれても私の頭は理解してくれないのよ。



「天利はいいな。俺なんて、誰も教えてくれる人間がいないぞ」

「ごめんね。数学は私も勉強してないから……」

「いや、別に謝らなくていい。自分でどうにかする」



 嶋搗がノートと教科書に向き直った。


 ……私も、頑張ろ。







 後日。


 努力の甲斐あってか、テストは無事に赤点を回避することが出来た。


 学期末最終成績もどうにか2の瀬戸際で踏みとどまり、1という不名誉極まりない数字は回避できた。


 ……よかった。


 これで夏休みは自由にSWの活動に専念出来る。


 嶋搗と、一緒に。



 臣護の大斬撃が大地を抉り、悠希のレールガンが空に向かって連続で雷撃を吐き出す。


 二人が攻撃する度に巨大な生き物が狩られていく。



「赤点回避記念だ。派手に行くぞ!」

「私の頭上を飛ぼうなんて百年早いのよ!」



 わー、二人とも凄いハイテンション。


 そんなに鬱憤溜まってたんだね……。


 うん。


 二人に勉強は向いてない。




べ、勉強のネタ……やりずらい。

短いので一日に二話目の更新です。


この間章と次の間章は感想でマガネさんから送っていただいたネタを使わせていただきました。

ありがとうございます、そしてスミマセン。


なんか……自分で手ごたえがなかった。

勉強嫌いだからかな……。


何気にアイが迷惑被ってる。

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