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4-14

「申し訳ありません! 僕は、姫のご期待に応えることが――」

「よい」



 部屋に入ってくるなり地面に跪くシオンに声をかける。


 まったく、シオン。


 お前は何を言うつもりだ。


 妾の期待に応えられなかった、などとは言うなよ?



「お前は見事、妾の期待に答えてくれた」



 そう。


 お前は、応えてくれたのだ。見事、な。


 妾は嬉しいぞ。


 なかなかの忠臣ではないか。



「ですが、あの侵入者も、そしてその仲間も捉えることが……」

「最初から期待しておらぬよ」

「――っ!」



 途端、シオンの表情が歪んだ。言い方が悪かったか。



「ああ、そんな顔をするな。最初から期待していないというのは、お前の実力を疑ってのことではない。相手の実力が圧倒的すぎるのだ。臣護のな」

「シン、ゴ?」

「おや、聞いていなかったか? お前が言うところの、侵入者の仲間、だよ」

「……フェラインの、ことですか?」

「Feline……猫のような(フェライン)、か。ふん、風刺がきいてる」



 自由気ままなお前を拘束しようとしても無駄、とでも妾に言いたいのか?


 お前と言う奴は……妾に仕えられて死ぬほど嬉しいというやつなど掃いて捨てるほどおるというのに。



「姫……何故、フェラインのことをご存じなのですか?」



 呆然、という顔でシオンが尋ねてきた。


 なんだ。大体察しているような顔ではないか。わざわざ聞くまでもないだろう。


 が……まあ大事な駒の頼み。無碍には出来ない。



「フェライン、つまり臣護はな……妾の駒の一つであり、友人だよ」

「――……では、マギを潰そうと考えているのは……」

「いかにも。妾だ」



 あっさりと言いきってやると、シオンが力なく床に尻餅をついた。


 傷つくな。そんな、まるで「裏切られた」とでも言うような目は。



「……何故、ですか?」

「それを問うか。既に知っているだろう? この腐った世界に鉄槌を。そして枯れた葉を千切り取り、新たな息吹で満たす。それだけのこと」



 そう。


 腐っているのだよ、この世界は。


 何百年も一つの進歩もない世界など、間違っている。


 世界とは常に人の安住できる地を目指し進化していくべきだ。


 だがマギは、延々と魔術師が一般人を苦しめるばかり。



「妾はな、別に正義感とかではない。純粋に、この世界の為に、担うべき者の一人として、やるべきことをやりたいと思っている」

「……」

「なあ。シオンよ……お前は、何故私に仕えてくれるのだ?」

「それは……姫が、僕を御側に置いて下さるから……」



 違う、違うぞ。


 そんな答えは不要だ。



「私が何をしたから、ではない。お前がどうして、だ」

「……僕は、」



 顔をあげて、シオンが妾の目を見た。


 いい目だ。



「姫が王たる器であると信じて、お仕えしております」

「妾は魔術を肯定しないぞ?」

「ならば魔術はその程度のものだったということ」

「妾は魔術師を肯定しないぞ?」

「ならば魔術師はさらによりよい形に生まれ変わるべきでしょう」

「妾は王を倒し、王宮を破壊するぞ?」

「ならば新しき城を築きあげましょう。貴方の為の、貴方だけの」

「ならば好し」



 妾を王の器と認めるならば、さあその答えを寄こせ。



「シオン。妾の従者。妾の往く修羅道に群がる有象無象を貴様の力でどうにかしてくれないか?」



 断るのならば、それでもいい。


 その時は、シオンの自由にさせよう。妾に敵対するも、静観するも。


 だが……不思議と。


 シオンがどう答えるかは、分かっていた。



「――我が主。僕は貴方をお守り申し上げます。貴方の往く道を明るく照らしてご覧に入れましょう!」



 いい返事だ。


 臣護は剣。爺も剣。ならば妾の身を守るのは盾であるイェスと、そして――、



「忠義の盾よ、期待している」



「お兄ちゃん、強かったよ」

「ほう。臣護とやったのか」

「うん。凄く手加減された」



 じゃろうな。


 臣護が本気になれば、イェスとてひとたまりもあるまい。



「だって、圧倒的だよ、あれ」

「じゃろう? ワシもな、初めて見た時は驚いた」



 あやつの魔力掌握速度、量は桁が違う。


 イェスの魔術無力化は簡単に突破されたじゃろうな。



「以前、臣護とワシの勝率は半々、と言ったことがあるじゃろ?」

「うん」

「多分のぉ、殺す気でやりあったらワシは十中八九負ける」

「そっか」

「……驚かんのか?」



 ワシが負けるのじゃぞ?


 半端なことではない。



「だってさ……普通に戦ったら、初撃で殺されるもん。あんなの」

「……そうなんじゃよな」



 先手必勝。


 その点で、お兄ちゃんは誰よりも高みにいる。


 もしもお兄ちゃんと戦うとして、あの一瞬で放たれる大斬撃の魔術にどれだけの人が対応できるだろう。もし本気で撃たれたら、私だってもしかすると気付かないうちに殺されているかもしれない。



「それに戦い方が汚いし」



 こっそり手榴弾投げたのを誤魔化す為にカモフラージュにもう一個手榴弾を投げるってところが信じられない。しかも、ちゃっかり回収するし。



「もう二度と戦いたくない。お兄ちゃんが味方でよかったよ。敵だったらすぐにでも寝返るから」

「ワシもじゃ」

「いや、おじいちゃんは寝返っちゃ駄目でしょ、絶対」



 王宮の屋根の上で夜空を見上げていると、シオンの気配を感じた。



「……貴方がアースの人間だったとは、思いませんでした」

「こんばんは、私のお仲間さん」

「ええ。こんばんは」



 シオンはそのまま、静かに私の隣に腰を下ろした。



「姫に全て聞きました」

「そっか」



 なんて答えたの?


 とは尋ねるまでもないか。シオンの横顔を見れば、すぐに分かった。



「いいの? マギ、潰すよ?」

「……正直に言えば、迷いはあります」



 そりゃ、そうだろうね。


 自分の世界を自分の手でひっくり返そうっていうんだから。



「でも、確かめたいんです」

「なにを?」

「僕は、姫が王の器だと信じています。そして、姫の行うことならば、マギをより良くしてくれると」

「結局はそこ?」



 お姫様の言うことならなんでも従順に。


 変わってないな、そこ。


 それだけは、ちょっと不満。


 自分の意思くらい持ったらどうなんだろう。



「だから、姫の行く末が本当にマギの為になるのかは、僕がこの目で確かめます。そしてその時、もしもマギが誤った道に突き落とされようとするのなら……僕は、姫を刺そうと思います」

「……」



 前言撤回。


 自分の意思、すごい持ってた。



「いいの? 仮定の話とはいえ、お姫様を刺すだなんて言っちゃって」

「姫は、それも覚悟して僕を引きいれたのでしょう」



 ――ああ、そういうことだったのか。


 何と言うか……本当にすごいね。


 お姫様も、シオンも。


 自分が間違った場合、自分を止めさせるために側にシオンを置くんだね、お姫様。


 自分が心から使えた主が過ちを犯したら、殺してでも止める覚悟があるんだね、シオン。


 なんて強い人達なんだろう。



「……シオン。まあ、頑張ろうよ」

「ええ。言われるまでもなく」



 なんだか、このマギという世界が少し好きになれそうだ。


 この世界に私のいられる場所を作りたいと思っていた。


 でも今は……、



「それと……ありがとうございました、イェス」

「なにさ、いきなり」

「貴方には、色々なことを教えられましたから」

「別にいいよ。お姫様の仕組んだことだったし」

「それでも。ありがとうございました」

「……うん」




 この世界で生きてみたいと、思う。




イェス編、終了~。

とりあえずシオン君は結局いい位置について終った。

……ちっ。


やっと……やっと次は夏編――の前に間章だ!

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