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4-13

「お前相手にまで魔術を使わない、なんて甘いことは考えていないよな?」



 ――早い!


 分かってはいたけれど、それでも認知出来ないほどの測度でフェラインが動く。


 目の前に現れたフェラインに、私はインドラの雷撃を放った。


 が、フェラインはそれを剣を盾にすることで、それを避雷針のように使って防いだ。


 魔導水銀は、確か魔力以外のエネルギーはほぼ通さない物質だったっけ……。




「魔術? 私相手に……魔術なんてものが役に立つと思わない方がいいね」

「なに?」



 私の言葉に、フェラインが怪訝そうな顔をした。


 私はその隙に、短剣をフェラインの喉元に突き出す。剣で弾かれた。


 フェラインが大きく後ろに跳ぶ。



「……だったら、その大口がどれだけのものか確かめてやろうじゃないか」



 轟、と。


 魔力がフェラインを中心に蠢いた。


 激流が注ぎ込むかのような勢いで、魔力はフェラインの魔導水銀剣に集まる。


 直感が叫ぶ。


 避けろ、と。


 あれは危険なものだ、と。


 だが、だからどうしたという話だ。


 私に魔術なんて……無意味。


 私のその想いが――魔術になる。




「――……っ!?」




 ここにきて、初めてフェラインの表情が歪んだ。


 その色は、驚愕。



「なんだ……これ」



 自らの剣を見つめ、彼は確かめるように何度も剣を握り直した。


 そして、その感覚が間違いでないことを知る。


 魔導水銀剣に一滴の魔力すら残っていないことを……。



「お前、何をしたんだ?」

「一応お仲間だからね。サービスで教えてあげるよ」



 今までとは違う、本気で私を驚異と認識したフェラインの鋭い視線に、私は少しだけいい気になって、口が軽くなった。



「私の魔術は収束と解放の二種類……その二つのうち得意な方が、解放。収束なんておまけでしかないよ」



 収束は、私の黒の魔術を使う上で必要不可欠な魔術だ。


 が――私にとってそれは、今言った通りおまけでしかない。


 真打は、解放魔術。



「……そういうことか」



 苦々しくフェラインが眉をひそめた。



「もう気付いたんだ」

「多分な」



 多分、と口では言っても、どこか確信したような声だ。



「まさか他人の魔力にまで干渉出来る出鱈目な開放魔術とはな……」

「正解」



 すると唐突に、フェラインが魔力を集めて斬撃を放ってきた。


 魔力の巨大な刃が私の目の前に迫る。


 魔術の発動が早いし、威力も高そうだ……けど、



「会話で気を引いてから攻撃するなんて、汚いね」



 その魔力の刃が、空中で霧散した。



「お前の魔術も十分に汚いだろうが」

「かもね」



 私の魔術。


 それは、純粋な開放魔術だ。


 本来これは、自分を中心に突風を興したり、魔力の塊を爆発させたりする、どちらかといえば補助的なもの。


 けれど私の解放は……それに留まらない。


 解放するのは、自らの魔力だけではない。


 他人の掌握した魔力。既に魔術を形作っている魔力。


 それらに対し、私は干渉し、解放できる。


 つまり簡潔に言えば――魔術師をただの人間に出来る。


 難点としては、解放の処理で頭が一杯で、魔術無力化中は私も収束魔術なんかを使えなくなるってことだけれど。



「無茶苦茶な……」



 そう。私の魔術は無茶苦茶だ。


 他人の魔力なんて、普通は干渉出来るようなものじゃない。言うなれば他人の操縦する車に私が遠隔で無理矢理ブレーキをかけさせるようなものだ。


 だが、生まれつきの才能なのだろう。


 私には他人の支配する魔力にハッキングすることが自然と出来た。



「さ……じゃあ、続きをしようか」



 短剣を構えて、私はフェラインに突撃した。


 既にこの場で魔術を使う人間はいない。


 ならば、あとは純粋な戦闘技術が問われる。


 そして、私はそこで負けるつもりはない。



「……まあ、問題はないか」



 負けるつもりがないのは向こうも同じことらしいね。


 短剣と剣がぶつかる。


 腕にずしりとした衝撃。


 筋力じゃ敵わないか……。


 フェラインの剣をどうにか押し返して、足払い。


 それを事もなげにフェラインは軽く後ろに飛んで回避。



「なんだお前……遅いぞ」



 振り下ろされる剣を、左の手甲で弾く。


 そうしながら、右手をフェラインに突き出した。


 ドン、という音。


 手甲の手首の部分にある銃口から、弾丸が放たれた。



「っ……」



 銃弾が剣の刀身で防がれる。火花が散った。


 強化剤で強化してあるんだろうけど……だからってどんな動体視力してるのさ。



「絶対どうかしてるよね、貴方!」

「どうかしてるって、それは俺が改造人間か何かだってか?」

「それなら納得」

「……そうかい」



 私の放った雷撃を剣で払って、フェラインが肉薄してきた。


 連続して雷撃を放つ。



「無駄だっての」



 雷撃がことごとく剣で打ち消される。



「っ……銃弾といい、雷撃といい、やっぱり貴方改造人間でしょ!?」



 剣一本でどれだけやれるのさっ!



「文句を言う暇があるとは、余裕だな」



 フェラインの剣が私の頬を軽く切った。



「そりゃ、まだまだ余裕だけどね」



 左手を突き出す。


 今度は、インドラじゃない。


 左手の手甲に備えられたギミックを使用する。


 手甲から、二本の細いワイヤーが放たれた。



「……っ」



 フェラインが反応するけれど、遅い。


 ワイヤーはフェラインの腕に巻きついた。


 そして、雷撃を放つ。


 捕獲した上での絶対に回避できない一撃。


 しかしフェラインは……それを防いでみせた。


 彼が懐から取り出して雷撃を防ぐのに使ったのは……さっき外した仮面。


 雷撃を受け止めて、仮面が砕け散る。


 次の瞬間、ワイヤーで拘束されたままのフェラインの腕が、突き出された。


 っ、このまま私を刺す気……!?


 慌ててワイヤーをフェラインの腕から解いて、刺突を回避する。



「そら……」



 大きく後ろに跳びながら、フェラインが何かを投げた。


 目の前に……手榴弾。



「――っ!?」



 あわてて手榴弾を短剣の腹で弾き、フェラインの方に飛ばす。



「悪いな、返してもらって」



 それを、フェラインがキャッチした。


 え……?


 見れば、手榴弾のピンはついたまま。


 またそのパターン!?


 ……いや、違う。


 足元を見る。


 ピンを抜かれた手榴弾が落ちていた。


 いつの間に……!


 考える暇もない。


 私はそれを思いきり蹴り飛ばして、後ろに思いきり飛んだ。


 蹴り飛ばした手榴弾は私とフェラインの真ん中辺りで……爆発。


 地面を転がりながら、その爆風に煽られる。手榴弾の破片が身体を痛めつけるが、強化繊維でできた私の服はその威力を大きく軽減してくれた。


 生身でこれを受けていたら、いくつか小さな風穴が空いていたろう。


 完璧に殺す気でしょ、これ。


 背筋が冷えた。


 その時、爆煙の向こうからフェラインが現れた。



「もう終わりでいいだろう?」

「……」



 それは、あれかな。


 私には勝ち目がないから諦めろ、とでも?


 舐めてるよね、それ。


 まあでも……、



「終わりでいいよ」



 腕に神経を集中させる。


 そして――、



「貴方の負けでね!」



 短剣を、フェラインに投擲した。



「苦し紛れか」

「苦し紛れ?」



 笑わせないでよ。


 これが苦し紛れの一撃だと思う?


 まさか。

 これは……止めの一撃だよ。



「――っ!?」



 フェラインが短剣を剣で叩き落とし……直後、異変に気付いた。


 短剣の刀身に小さな赤い光が三つ灯っている。


 それはすぐに一つ減り、二つ減り……、



 三つ減って、短剣の刀身が炸裂した。



 そんなに大きな爆発じゃない。


 もともと大型の生物相手に突き刺してから爆発させるのが本来の使用用途だし。


 けど……人間相手ならそれなりの威力を持っている筈だ。



「――っ!?」



 出た驚きの声は…………私の。


 馬鹿な。ありえない。


 私は、ちゃんと解放魔術による魔術無力化をしていた。


 いつフェラインが魔術を使おうとしても、それは魔力が解放されて行使できない筈……だった。


 なのに、何故。


 どうやって、フェラインは魔力を放って爆発の威力のほとんどを撃ち消したの!?



「……謝ることが二つある」



 二度目の爆煙の中から、フェラインの姿が浮かび上がる。



「一つは、子供扱いしたこと。前言撤回する。お前は子供なんて可愛いものじゃない」



 魔導水銀剣に、魔力が集まっていた。


 解放しているのに。


 私の解放魔術が全力でフェラインの集めた魔力を開放しているのに。





 フェラインの魔力を集めるスピードが、私が魔力を開放させるスピードを圧倒的に上回っている。




 ありえない。


 こんな馬鹿げた魔力の掌握速度も、量も。


 おじいちゃんですら、こんな風に魔力を集められない。



「もう一つは……本気を出していなかったこと。侮ってたよ、お前のことを」



 ――待って。


 聞いたことが、あるはずだ。


 おじいちゃん以上の魔力の掌握速度と量を誇る魔術師のことを。


 おじいちゃんが戦い方を教えて、そしてSWになったという魔術師のことを。


 その人の名前。


 それは……、



「これは、本気だ」

「嶋搗臣護……お兄ちゃん?」



 魔力の大斬撃が、私の真横を通り抜けた。



「……誰がお兄ちゃんだよ」



「っ、くぅ……」

「ああ、シオン、起きた……?」



 ……何度目だっけ。


 ここ数日で気絶させられた回数。



「……僕は、負けたんですね」

「うん。で、私も負けた」

「え……?」



 見ると、イェスの横の地面に深い溝が刻まれていた。



「……なにがあったんですか?」

「いや……うん。無理だよ、あの人に勝つのは。あの人に勝ちたいならシオン百人で袋叩きにしないと……」

「あの、それって僕を馬鹿にしてるんですか?」

「そんなことはないけどね」



 小さく、イェスが苦笑をこぼした。



「フェラインは?」

「帰った。この世界にも《門》ってあったんだね」



 《門》?


 よく分からない単語だった。


 とりあえずこの世界にフェラインは既にいない、ということなのだろうか。



「……シオン。帰ろうか。で、帰ったらちょっとお姫様から話があると思うよ」

「話、ですか……あまり楽しそうなものではなさそうですね」



 やっと帰ってこれた。



「あ、嶋搗――って、なにその格好?」



 ロッカールームに向かう途中、天利に声をかけられた。



「ん、ああ……」



 今の俺の格好は、普段のSWの服とは違う。


 ルミニアにカモフラージュとか言って渡されたものだ。一体何に対するカモフラージュなのだろうか。



「知り合いに無理矢理着せられた」

「……なんか凄い疲れた顔してるわよ?」

「実際疲れてるからな」



 いや、意外と真面目にやばかった。


 ……強いのな、あのイェスとかいうの。


 もう二度とやりたくない相手だ。



「ふうん……ああ、そうだ。この後アイや皆見と一緒に異次元世界に出るんだけど、嶋搗も来る?」

「……遠慮しとく。疲れてるって言ったろ」

「ちなみに今朝の星座占いで嶋搗って『思わぬ収入があるかも』だったけど?」

「…………そうかい」



 まったく、星座占いだって?


 俺はロッカールームに入ると、自分のロッカーを呼び出した。


 そして……いつものSWとしての服をとりだした。


 思わぬ収入があるなら、やむを得ない。



戦闘は書いてて楽しい!

イェスは結構武器を使いますよね。近・中距離型ですかね。


イェス編は次回で終了……だと思う。

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