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4-12


「やっと……ついた」

「そうだね」



 大樹の生える大岩まで辿りついた私達は、周囲を見回した。


 改めて、こうして立ってみるとこの岩はかなり大きい。他とは段違いだ。



「フェラインは……どこでしょう」

「さあ。逃げた、なんてことはないだろうけど……」



 次の瞬間。


 足元から、煙幕が吹き上げた。



「な、に――!?」

「っ……!?」



 煙に視界が遮られたところで、目の間に何かが現れた。


 次の瞬間、私の身体はひっくりかえって、地面に叩きつけられる。


 なんとか受け身だけはとったものの……不意打ちとは、やってくれるね。


 煙が段々と晴れてきて、状況が明らかになる。


 シオンは私と同じように地面に叩きつけられたようで、しかもまともに受け身もとらなかったらしく痛みに表情を歪めている。


 そして――、



『だらしがない……この程度か』



 それを、フェラインが見下ろしていた。



「フェライン……!」



 シオンが立ち上がってフェラインに掴みかかろうとするけれど、それを簡単にフェラインは避けてしまった。



『だが、まあここまで来れたことだけは評価してやるか……よし、何でも一つ、質問に答えてやろう』

「っ、ふざけて、いるのか……!」

『別に、ただ単に気紛れで言ってみただけさ』



 のらりくらりとした言葉に、シオンの表情に怒りが宿り、



『聞きたいこと、ないのか? ならそれでもいいが……あるんだろ?』

「――……」



 すぐに、戸惑いに代わった。


 ……私の出番は少し後みたいだ。


 そっと、後ろに下がっておく。



「ならば……一つだけ」



 シオンが、ゆっくり口を開いた。



「貴方達は、何ものなのですか?」

『結局そこか……まあいい。答えると一度言ったからには答えてやる』



 私としてもフェラインの正体は気になる。


 けど、ここで空かされる答えは、私が求めるものとは違うのだろう。


 私が知りたいのは、あくまでフェラインが誰なのかであって、何者かではない。



『俺達はな、改革派だよ』

「改革、派……?」

『そう。停滞し、あとはただ滅びに向かうだけのマギを新しい流れにのせる。マギの現王の愚かな支配を解き放ち、マギに進化という名を光をもたらす。それが俺達の代表のお言葉だ。俺達は、その駒だよ』

「っ……それは、まさか」



 シオンが驚くのも無理はない。


 つまりフェラインの言っていることは、こういうことだ。


 ――今のマギはもう持たないから、王族を潰して新しい政治を始める。


 マギという世界をまるごと引っ繰り返すような蛮行。


 それをやると言われたのだ。シオンが驚かないわけがない。



「そんなこと……許されるとでも!?」

『なら、魔術を使えない人間が家畜扱いで許されるとでも?』

「――っ!」



 シオンの真新しい傷をフェラインは的確についた。



「けど……そんな、馬鹿みたいな革命があるか! やるなら、政治の内側から変えていけばいい! 力づくで変えるなんていうのは、思考の放棄だ!」

『今この瞬間にもマギでは何人もの人間が餓死しているんだ。そんな連中に、頑張って政治を正すのでおとなしく餓死していてください、とでも言うつもりか? そもそも政治の内側から、と言うけれどな……そんなことやろうとしたら、邪魔者扱いされて抹殺されるのがオチだ』

「……っ、だけど、王族はマギの象徴だぞ! それを失って、マギはどうなる!」

『象徴が必要なら新しい象徴でもなんでも用意すればいい』



 あっさり言って、フェラインが腰の鞘から剣を抜いた、


 その剣尖が、シオンに向けられる。



『なんだかんだ言っても、お前はさ……王族は素晴らしい血をもっているから逆らってはいけない、って臆病風に吹かれているだけだろう? 魔術が至高であると思い込んでいたように、王族があるからマギがあるなんて思い込みをしてるだけなんだよ』

「そんな……僕は、マギのことを思って……!」

『そういいながら魔術を盲信して、魔術師は一般人を餓死させている。無自覚に、悪意もなく、ただ呼吸をするかのように死体を重ねていく』



 淡々と、フェラインはシオンに言葉を突き立てた。



『くだらい。なにが魔術だ、なにが王族だ。そんなものに、どれだけの価値がある。暴力の一つの手段、名前ばかりの愚か者でしかない』



 ……なかなか、辛口だ。



『それを証明してやる』



 フェラインが、ゆっくりと剣を構え直した。



『かかってこいよ、円卓賢人第十席。お前らの魔術とやらが至高なんかじゃないことから証明してやる』



 魔力の矢を五つフェラインに放つ。


 フェラインはそれを身体を軽くずらすだけで全て回避してみせた。



『狙いが甘いな。撃つ、というならこれくらいはやれ』



 言ってフェラインが取り出したのは……あれは、見たことがある。


 以前文献で見たことがある。あれはアースの武器で、確か、銃とかいう……、



『防げよ?』

「――っ!」



 背筋に冷たいものを感じて、咄嗟に障壁を張った。


 何かが破裂するかのような音。


 次の瞬間、障壁が砕けた。


 何が起きたのか、すぐには理解できなかった。



『散弾拳銃。一発につき三十の小さな金属の粒が詰め込まれた弾丸を発射する。難点は、威力がそんなに高くないところと、弾単価が高すぎるところだな』



 威力が、高くない?


 馬鹿な。


 いくら咄嗟に張ったものだったとはいえ、僕の障壁を砕いておいて、なにを……。



『呆けてる暇があるのか?』



 フェラインが僕に向かって駆けてきた。


 っ、地面に魔力を注ぎ込み、フェラインの足元の岩を槍状に隆起させた。


 その岩の槍を、フェラインの銀色の剣が、まるで熟した果物でも切るかのように軽々と切断してみせた。


 岩をあんた簡単に斬るなんて……なんて切れ味なんだ。


 フェラインがそのまま一直線に僕に向かってくることに慌てて、僕は加速魔術でフェラインと距離をとった。



『至高の魔術とやらは逃げ足ばかりか?』



 そこに、フェラインが何かを投げてきた。


 卵片のごつごつした球体だ。


 なんだ……これ。



「シオン、今すぐそれ、思いっきり上に投げて!」



 不意に、イェスが思いきり叫んだ。



「え……?」

「早く!」



 とにかく、言われたとおりにその球体を魔術で思いきり空に放り投げる。


 と……轟音と共に紅蓮の大輪が上空に咲き誇った。


 爆発だ。


 それも、とんでもない規模の。


 まさか、あの球体があの爆発を……?



「……生体火薬手榴弾なんて、やりすぎじゃないの?」



 イェスがフェラインに言う。



『これくらい、普通だろう。流石ガキは甘ったれだな』



 あっけらかんと答えるフェラインに、イェスの頬が少し引き攣った。



「シオン……少し、手を貸そうか。別に一人でやる必要なんてないしね」

「……いえ」



 首を横に振るう。



「僕が……やります」



 意地だった。


 ここでイェスに助けを求めるのは……なんだか、情けない。



「……そっか」



 素直にイェスは引き下がった。



「っ、はぁっ!」



 炎でフェラインの身体を囲む。そのまま、フェラインを焼こうとして……、



『で?』



 あっさりとフェラインは炎の中を駆け抜けてきた。



『言っておくが、この服には耐熱加工がされているぞ』



 言いながら、フェラインが腕を振るう。何かが僕に向かって投げられた。


 ナイフだ。


 その刀身は、真っ赤に染まっている。


 どうにか避けると、そのナイフは背後の大樹に突き刺さり……ナイフが刺さった場所から炎がおきた。



『高温ナイフ。鉄でも溶かす』



 気付けば――。


 フェラインは、僕の目の前にいた。



「く……っ!」



 何かしようとしても、遅い。


 フェラインの蹴りが、僕の身体をとらえた。



「が、ふ……!」



 身体が地面に崩れ落ちる。


 ……強い。


 悔しいけれど、認めよう。


 フェラインは強い。


 僕は、フェラインの言っていた意味を理解した。


 魔術が至高でないことの証明。


 ……そう。




 ――フェラインはこの戦いで、まだ一度たりとも魔術を使っていない。




 なのに、僕はまともに魔術を使う暇すらない。


 圧倒されているのだ。



『どうだ。これでもまだ、魔術は至高なんて言えるか?』



 地面に跪いた僕を、フェラインの仮面が見下ろす。



「……そんなの、分からない」



 確かに、魔術は至高ではない、という思いが僕のなかで強まっているのは事実。


 けれどそれをここで認めるのは……癪だった。



『だったら、よく考えることだな。自分の持っている力を過信し過ぎれば、死ぬぞ?』

「……ああ」



 考えるさ。



「貴様を、捕まえた後で!」



 僕の手から、雷が放たれた。


 インドラ。


 魔術が暴力の一つ?


 ああ、そうなのかもしれない。


 けれど……だからどうした。


 それでも僕がフェラインを捕まえることに、何の関係がある!



『――合格だ』



 そして――僕の思考は途切れた。



『言い忘れたが、この服は絶縁加工もされてるぞ……』



 フェラインが、シオンの首に蹴りを叩きこんだ。


 シオンの身体はそのまま力なく地面に転がる。


 痛そうだ。



「少しくらい手加減してあげればいいのに」

『どこぞの誰かに下手な手加減はするなと言われたもんでな』



 どこぞの誰か……多分、お姫様のことだろう。



「でも、合格なんだ?」

『インドラを使ったところをみると、骨の髄まで魔術至上主義じゃなくなってるみたいだからな。及第点ってところだ』

「そっか」



 少し前のシオンだったらインドラなんて間違っても使わなかったろう。


 私も慣れない説教とかした甲斐があった。



「さて、と……じゃあ、あとはお姫様のところにシオンを連れていくだけ――と、その前にやることが一つ、あるよね?」

『……ったく。ほれ、お前のだ』



 溜息を吐いて、フェラインが樹の根元に隠してあったらしいアタッシュケースを私に放り投げてきた。



『お前がやりたがるようなら付き合ってやれ……ルミニアも面倒なことを言ってくれる。絶対に報酬上乗せさせてやる』



 お姫様もいいこと言ってくれたものだ。


 アタッシュケースを開けて、中身を取り出す。


 私の本来扱う武器だ。



「本気、出してもいいんだよね?」

『あっさりやられてくれてもいいんだぞ?』

「冗談」



 きっちり謝らせるよ。私を子供呼ばわりしたこと。



「じゃ、行くよ……」

『好きにしろ』



 ……と、その前に一つだけ。



「仮面邪魔じゃない? 後で仮面が邪魔だったせいで負けたんだ、なんて言い訳しないでよ?」

『……言い訳なんてしないし、そもそも負けない』



 フェラインが仮面をとる。


 そして露わになったその素顔は……中国――いや、日本人?



「名前は?」

「お前が勝ったら教えてやる」

「……そう」



 フェラインが剣を構える。


 私も、自分の武器を構えた。


 アタッシュケースに入っていたのは、四つ。


 手甲二つに、左手用のインドラと、短剣。


 さて……と。



「絶対に、謝ってもらうから」



次回がイェスVSフェラインでー、その次が四章最後かな?


ちなみにフェラインさんはわざと多くの武器を使ってます。

普段は魔道水銀剣と手榴弾くらいしか使わないのにね!


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