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幕間 FCパニック!・上

なーんか微妙。

 拝啓、姉上様。


 自分は今――、



「のぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



 恐竜っぽい巨大な生物に追いかけられております。



 ――始まりは、唐突だった。




 雀芽は昨日今日、用事があるとかで出かけている。確か、天園エンジンの期間限定展示会に行ってくる、とか言ってたな。


 雀芽はマシンマニアだから、そういうのは見逃せないのだろう。


 あと佳耶は、なんかリリシアの学校でやる文化祭っぽいイベントに参加するとかで、二人で出かけてる。


 暇なのは俺だけかあ……。


 異界研の食堂のテーブルに突っ伏して溜息をつく。


 なんっていうか……俺って寂しい奴だよな。


 一般人の友人はいなくもない。俺は貴金属の装飾についての専門学校に通っているわけだが、そこのクラスメイトとはけっこう親しくしている。


 ――が、そいつらと遊ぼうにも、今日はことごとく、どいつもこいつも用事アリらしい。


 なら家でごろごろしてるか。とも思ったのだが、習慣というか、なんというか……普段から命懸けで異次元世界を駆けまわってるせいか、俺は暇というものにひどく耐性が低くなっていたらしい。


 じっとしていると、なんだか背筋がむずむずしてたまらなかった。


 というわけで、用もないのに異界研にこうして来てるわけだ。


 装いはいつもの赤褐色で統一した服と、葬列車を使うようになってからは遠のいていた機関銃を肩からさげている。腰には弾帯が詰められたケースが三つ。


 ちなみにこの機関銃の口径は十二ミリとかなり小さいのだが、そこは異次元世界の技術力がふんだんに使われたSWの武器といったところか、この口径でも平凡な機関銃よりもよほど高い威力の攻撃が可能である。


 そんな格好で食堂に留まること、二時間。


 誰かに後衛で誘われないかな、とか思っていたのだが……そんな誘い、まったくといっていいほどにこない。


 いきなりだが――銃を使うSWは多い。


 まず一般的な観念として、銃というのは現代の武器でもっともポピュラーなものである。


 もちろん異次元世界においてそんな観念はあっさり覆されるのだが、それでもやはり先入観のようなものがあるのだろう、銃を使うSWは後を絶えない。


 トリガーを引くだけで敵に近づかなくても攻撃できる、という利便性もその要因の一つとしてあるかもしれない。


 だが、そんな銃にも重大な弱点がある。それは、異次元世界ならではのものだ。




 あるレベルを越えた異次元世界にいる生物に……銃は効かない。




 俊敏すぎて狙いがつけられないようなやつ。


 堅過ぎて弾丸が弾かれてしまうようなやつ。


 巨体で攻撃が皮も貫通出来ないようなやつ。


 そういうやつらには銃を使って戦いを挑むのは無謀だ。葬列車に積んであるような大口径の機関銃ならまだしも。


 以前の俺は佳耶という優秀な前衛がいたからこそ機関銃を使って牽制役なども出来ていたが……一体SWに佳耶ほど優秀な前衛が何人いるか。


 そんな理由もあって、銃使いで高レベルの世界に出るSWは極わずかになる。


 それ以外の銃使いは、低レベル世界でちまちま小金――といっても普通に見ればそれなりの大金――を稼ぐのが分相応というものだ。


 つまり、俺が何を言いたいかというと……、


 銃使いのSWは、仲間として見るのであれば不人気なのだ。


 低レベル世界での活動を主とするグループはすでに銃使いを確保しているのが常だし、高レベル世界でも活動を主とするグループはそもそも銃使いを必要としない。


 俺が食堂で二時間も突っ伏しているのは、当然と言えば当然なのだ。



「……つまんね」



 かといって、一人で異次元世界に出る勇気は、情けない事だが俺にはない。


 俺はほら、あれだ。前衛がいて活きるタイプだから。


 銃の扱いに自信はあっても……運動神経がな。



「帰ろうかなあ」



 暇が嫌で異界研に来たものの、来たところで暇ならここにいる理由はない。


 帰って寝るか……。


 そう考えた時だった。



「んだと!?」

「だから、テメェらは所詮その程度だって言ってんだよ!」



 食堂の一角で、大きな声があがった。


 ん……?


 見ると、十人ほどの男達が騒いでいるようだった。


 喧嘩か?


 珍しい。


 SWは常識外れだが、無法者ではない。そもそも異次元世界で好き勝手暴れられるのだから、ストレスというものとほぼ無縁なのだ。


 だから異界研で喧嘩という行為を見るのは稀である。


 なんで喧嘩してんのかねえ。


 興味本位の野次馬精神で、ちょっと男達に近づく。



「なんで俺達がテメェらみたいのに見下されなきゃならねえんだよ!」

「中途半端だからに決まってんだろ? なにがRSKだ! 単に優柔不断な連中じゃねえか! それと違って俺らレーさんファンクラブはレーさん一筋だがな!」

「その通りだぜ。大体、リリシア様を本当に思う心があるなら、R・M社の第三位なんぞとつるむのには反対して然りだろうが! それこそがリリシア様を見守る会の会員のあるべき姿だ!」

「はぁ!? テメェ今レーさんを馬鹿にしたろ!? ざけんなよ、レーさんこそ、あんな意味分かんねえ女とつるむべきじゃねえんだよ!」

「てめぇらの考えは浅いな! レーさんを、そしてリリシアさんを本当に想うなら二人を祝福して当然だろうが!」

「そうやってリリシア様が堕落していいのかよ!」

「はっ、悪影響を受けるのはそっちじゃなくてレーさんのほうだろうが! ほざくな!」

「話になんねえ! テメェらの二人への愛はその程度かよ!」




 ……なんだこの混沌。




 話から察するに、あれだな。


 RSK――レーさんとその嫁の後援会の略称。


 レーさんファンクラブ――まだ完全解体してなかったらしい。


 リリシア様を見守る会――そんなのあったのか。まああいつもM・Aの第一位だしな。


 その三つの団体がぶつかってるらしい。


 ……なにやってんだこいつら。


 アホか。


 佳耶やリリシアが人気なのは、まあ不思議じゃないが……ここまで騒ぐことじゃないだろう。どこのアイドル好きだ。


 馬鹿らしい、帰ろ。


 思って、俺は食堂を出ようと歩き出し――、



「そこにいるのは、名誉顧問の能村君じゃないか!」



 声がかかった。


 まるで身体の中で歯車が軋むかのような錯覚。


 ……嫌な予感がした。


 というかなんだ、名誉顧問って。


 まったく聞き覚えのない役職名に、俺はどうすべきかと悩んで……聞こえなかったふりをした。


 知らんぷり知らんぷり。


 がし。


 肩を掴まれた。



「どこに行くのだ、名誉顧問!」

「……いやいや」



 振り返ると、そこにはガタイのいいハゲのおっさんが笑みを浮かべていた。



「なんだ、そのガキは」

「名誉顧問だあ?」

「その通り!」



 オッサンが訝しげにする連中に頷いて見せた。



「この人こそ我らRSK発足の立役者。レーさんとリリシアさんの仲を取り持った、能村隼斗君だ!」



 どよめきがあがる。


 ――は?


 いやいや。


 ナニソレ?


 RSK発足の立役者? 佳耶とリリシアの仲を取り持った?


 身に覚えがないのですが?



「それって何かの勘違――」

「テメェがレーさんをたぶらかしたのか!」

「リリシア様の代わりに貴様を今ここで殺す!」



 ひぃっ!?


 弁明の機会すら与えられず、俺はレーさんファンクラブとリリシア様を見守る会の連中に詰め寄られた。


 目が怖いですよ?


 というか佳耶をたぶらかしたのは俺じゃなくてリリシアな!


 それに殺すとか言わないでくれませんか!



「いい機会だ、お前達、そろそろ俺達の戦いを終わらせようではないか!」



 オッサンが何か言いだした。



「最終決戦だ!」



 ……もう、帰らせて下さい。


 †


 視界の果てまで、俺の首の付け根ほどの高さを持つ金色の草で覆われた、目が痛くなるくらいに眩しい世界。


 その異次元世界に、俺達は立っていた。



「レーさんファンクラブのリーダー、東条(とうじょう)(けん)一郎(いちろう)!」

「同じく、サブリーダー、宇木(うき)草子(そうし)!」



 なんか名乗りが始まったぞ。


 東条さんはまるで戦国武将のような厳つい顔をした人で、宇木さんは身体の細い眼鏡の人。



「リリシア様を見守る会の会長、天地(あまち)(ぎん)!」

「同じく、副会長、ジョン=皆川!」



 天地さんは少し長い髪を垂らした吊り目の人で、皆川さんはブラウンの髪が印象的なハーフの人。



「レーさんとその嫁の後援会、最高責任者の武市(たけいち)(りょう)(へい)!」

「……同じく、名誉顧問の能村隼斗です?」



 流れに逆らえず、俺も名乗ってしまう。


 武市さんはスキンヘッドと白い歯を見せた笑顔の似合うオッサンだ。


 計六人。


 最終決戦とやらは、この少人数で行うらしい。


 ……というか、本当に聞きたい。


 どうして俺、ここにいるんだろう。いや、武市さんの「名誉顧問である君がよもやこの戦いから逃げるなどと言うことはあるまい?」というプレッシャーに負けたからなんだけど。



「まず最初に、この戦いの内容を確認させてもらう!」



 武市さんが太い声で口を開いた。


 なんでいちいち叫ぶのだろう。隣にいる俺の鼓膜を破るつもりか?



「この世界にはとある希少生物がいる。通称レックスと呼ばれる恐竜のような生き物だ」



 恐竜、ねえ……。


 この世界のレベルはそれほど高くはないはずだが……話だけ聞くとちょっとばかし手強そうだな。


 正直、逃げたい。


 でも、そんなことしたら後が怖いから無理だけど。



「レックスは雑食で、この草原の黄金草を多く食べている。そしてその体内の一部で黄金草の成分が変質し、とある宝石を形成する。黄金の琥珀と呼ばれる、金珠石だ!」



 聞き憶えのある宝石だった。


 俺も希金属の装飾には多少の知識があるから分かる。


 金珠石は別名ドラマティックアンバーともいう……現在で最も価値が高いと言われる宝石の一つだ。


 それを使った指輪を某国の大統領がプロポーズの時に夫人に渡したというのはそこそこ有名な話だろう。



「今回の勝負はそれを手に入れることこそが目的である!」



 なんか、ただえさえ刺々しい雰囲気が、さらに鋭くなった。


 やってやる、って意気込みが各々の表情から滲みだしている。



「この勝負に勝利した組織こそが真の愛を知り、そしてその他の組織は即時解散すること。双方、それで構わないな?」

「ああ。どちらにしろ勝利するのは、我々だからな」

「はっ、馬鹿言っちゃあいけねえ。勝つのは俺らさ」



 東条さんと天地さんが不敵な笑みで頷く。



「ならば始めよう!」



 武市さんが、東条さんが、天地さんが肩腕を空に突き出した。



「戦争だ!」



 ――あー。


 帰りたいなあ。


 泣いていい?



 見つからないなあ。


 開始して、もうすでに一時間。


 俺は草をかき分けて目的のものを捜索していた。


 レックスは地面に穴を掘って、そこを巣にするらしい。


 探しているのはその巣だ。



「希少と言われるだけのことはあるな」



 隣を歩く武市さんが呟く。



「っていうか武市さん。こんな戦い、意味あるんですか?」

「ふむ、その発言の意図を聞こうか。どういうことだ?」



 意図もなにもないだろう。



「こんなことしても佳耶とリリシアも喜ばないでしょう」

「かもしれん」



 だが、と。


 武市さんが白い歯をむき出して笑う。


 どこか人のよさそうな笑顔だった。とてもこんな馬鹿な理由で戦うような人の顔には見えない。



「この際、そこは重要ではないのだ」

「は?」



 いや、だってあの二人の為に戦っているんじゃないのか?


 それなのに重要じゃない?


 どういうことだろう。



「今我々が戦っている理由はな、自分達の愛の為だ」

「愛、ですか……」

「そう。私ならばレーさんとリリシアさんに対する愛。もちろん恋愛という意味ではない。そうだな……なんの捻りもないが、この愛は、ファンとしての愛なのだ」



 よく分からない。



「そもそもなぜ我々がレーさんとリリシアさんのファンなのか。それは……あの二人を尊敬しているからだよ」

「尊敬、ですか?」

「そうだ。君も感じたことはないか? あの二人の強さに、あるいは人格に対してそれを感じたことは。羨望、と言い換えてもいい」



 それなら数え切れないくらいにある。


 佳耶も、リリシアも、SWとしては超一流だ。


 まず間違いなく最強の部類にはいる。


 その戦う姿を見るたびに俺は二人に憧れて……そして、自分には絶対にあんなことは出来ないと悟る。



「我々はね、本当にあの二人に惚れこんでいるのだ。在り方が、我々とは格が違う。触れられない……だから、ファンになったなのさ。触れられはしなくても、彼女達を応援して、ほんの一欠けらでもいい、二人の力になってみたい。そうすれば、少しは自分達も彼女たちに近づけるのではないか? そういう思いがあるからこそ」



 ……そこから考えると、あの二人と一緒のグループの俺は恵まれているのだろう。



「幻想だがな。どれだけ彼女らを応援しても、我々が二人に近づけるわけではない。だが、それを分かっていても、やはりファンでありたいと思ってしまうのだ」

「そう、なんですか」

「くだらないと笑うか?」

「いえ……」



 それはそれで、あり、ではないだろうか。


 俺は……あの二人の強さを見るたびに自分にはその高みに手を伸ばすことは不可能だ、と。言わば、軽い失望を覚えていた。


 だが武市さん達は違う。


 彼らは俺とは違い、あの二人と同じ高みを諦めつつも、失望ではなく希望している。手を伸ばしている。


 それは……強さだろう。


 強さは決してくだらないものなどではない。


 生きる力だ。


 そう感じて……俺はまた佳耶とリリシアの凄さに苦笑した。


 あの二人には敵わないな。


 まさか、こんな形で他人に影響を及ぼすなんて。


 これも俺には出来ないことだな。


 ――いや。


 そう失望していていいのだろうか?


 羨ましかった。


 二人が、ではない。


 二人に手を伸ばせる武市さん達が。


 自分の手を見る。


 ……俺も、手を伸ばしていいのだろうか?


 運動神経なんて底辺で、銃を扱う位の能しかない俺が、あんな高みに手を伸ばすのはおこがましいのではないだろうか?



「能村君」



 ばん、と。


 武市さんの大きな手が俺の肩を叩いた。



「頑張ろうではないか、お互いに」



 ……ああ。


 言われて、俺は決めた。


 俺も、頑張ってみようと。


 武市さん達も頑張っているんだ。


 俺だって頑張っていいはずだろう?



「――はい」



 俺は、これまでの暗い気持ちを振り払うように、目の前の黄金の草を薙いだ。


 そして――視界に飛び込んできたのは、五メートル強の大きさをもった大穴。


 あ……?


 こ、これって……。



「た、武市さん!」

「おお、能村君!」



 二人で顔を合わせる。


 見つけた!



「やったな!」



 武市さんが笑い、俺も笑った。



「ええ!」



 この時、俺達はすっかり忘れていた。巣を見つけたことに喜びのあまり、大切なことを。


 ……巣を見つけた。


 なら次は?


 ここで終わりではないのだ。


 武市さんと拳を軽くぶつける俺の視界が、急に暗くなった。


 顔をあげる。


 そこに、巨大な目玉があった。


 俺達が探していたもの。


 それは巣ではなく、そこに住む――、



「レ、レ、レ……」



 咽喉が引き攣った。



「レックス――!?」



 恐竜が巣から身体を半分ほど出していた。


 武市さんが背中にさげていた大剣を抜き、俺も機関銃を構える。



「た、武市さん!」

「任せろ!」



 武市さんが勇猛にレックスへと飛び出した。


 ベチッ。


 そしてレックスの手に叩かれて横に吹っ飛んだ。



「ごふっ」

「武市さーん!?」



 弱っ!


 あんな格好いい大剣もってて、そんなあっさりやられちゃうんだ!?



「の、能村くん」



 頭から血を流しながら、武市さんが俺の名前を口にする。



「逃げるんだぁっ!」



 レックスの咆哮。


 その目は……俺をしっかりと捉えている。


 ……へ?


 弱ってる武市さんじゃなく、俺ですか?


 レックスが俺に向かって一歩踏み出してくる。


 咄嗟に俺は機関銃の引き鉄を引いて銃弾をバラまいた。


 で、レックスの表皮に弾かれる。


 うーわー。


 どうやら俺の抵抗がお気に召さなかったらしい。レックスが恐ろしい唸り声をあげる。


 で……、



「のぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



 俺は逃げだした。


 背後に、レックスの巨体が地面を蹴る振動。



「こっちくんなあぁああああああああああああああ!」




隼斗君のお話。

能村姉弟は姉が自動車、弟が装飾の専門学校に通っております。


正直、能村姉弟はスポットがあたらなすぎる。

隼斗は今回出せたので、次は雀芽かな。

でも雀芽の話って……どんなんだろ。


考えておきます。

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