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幕間 お嬢様方の花園・中

二部構成のつもりが、三部構成になってしまった。

 聖台嬢の校舎は巨大なロ型に、さらに大きな十字をかけあわせたような形をしている。もっと詳しく説明するのなら、田の字から上下左右に棒が突き出た感じ、と言えばいいだろうか。


 他にも敷地内に巨大な森があったり、その森の中に音楽堂があったり、全面硝子張りのドーム型の温室や圧倒的な面積を誇るグラウンドなどもある。


 つまり総じていえば――スケールが段違いということ。


 まず教室一つおいても私の学校とは雲泥の差なのだ。広さも清潔感も利便性も。


 そして、そんな聖台嬢は、歩いて回るのも大変なことだった。


 ……というか、広すぎて私一人だったら普通に道に迷ってるわね、これ。


 演劇部の劇を見終えて、私とリリーは中庭――校舎の裏手、音楽堂に隣接する温室にきていた。


 中に入った途端に、様々の香りが鼻腔に飛び込んでくる。



「うわ……」



 それだけではない。


 視覚的にも、温室の中は凄かった。


 温室の中は小さな段が重ね合わさったような形状をしており、ピラミッドを薄く伸ばしたようだ。そしてその段ごとに色合いのことなる花々が咲き誇っている。一段目ならピンク系の花、二段目ならば紫系の花、という風に。


 そしてそのピラミッドの一番上には小さな丸テーブルが三つ置いてあって、そこでは何人かの生徒達が談笑していた――かと思うと、リリーを見つけたとたんに身体を緊張させる。



「佳耶に見せたい花があるの」



 それを見えないかのように、リリーが私を手を引く。



「え……?」



 見せたい花、ねえ。


 ……私、花とかにあまり興味ないんだけどな。花より団子な主義だし。


 でも、リリーが見せたいっていうなら見てみよう。


 リリーに連れて行かれたのは、ピラミッドの五段目、緑系の花が咲いている花壇の隅。



「これよ」

「な――」



 そこにあったたった一輪の花に、私は息を飲んだ。


 それは……ありえない筈の花だ。


 この世界にあるはずのないエメラルド色の、薔薇のような花弁に目を見開く。



「永年華……」



 それは少し前に私が異次元世界で見た、酸素だけで咲き続けることのできる花だ。


 だが、おかしい。


 この世界に永年華なんてものは当然存在しないし、そもそもアースの土の中には永年華を育てる栄養素がないのだ。


 けれど……ここに現実に咲いているのは間違いなく永年華。



「どうして……」

「この学校の園芸部の部長が変わった性格をしているようでね。どこかでこの花の存在をききつけて、いろんな方面に手を回して永年華と、それに見合った土壌を手に入れたらしいわ」



 いやいや、異次元世界のものを手に入れるのは、そんな簡単なことじゃないわよ?


 企業やSWならともかく、それが一般人ならなおさらに。


 ……やっぱりこの学校の生徒って皆お嬢様っぽいし、そういうコネとか持ってる人が多いのかな。


 だからって異次元世界の花にまで手を出すのはどうかと思うけど。



「永年華がここにあるわけは分かったけど、なんでリリーはこれを私に?」

「素敵なことだとは思わない、佳耶。いま私達の目の前には、私達しか知りえない筈の花が咲いている。それはつまり……この世界に異次元世界が迎合されつつある、ということなのではないかしら?」



 ……あ。


 そっか。


 普通の人は、異次元世界という未知の概念を――ひいてはSWを忌避する。だから私達を異常者とか、そんな風に呼ぶ。


 けれど……ここにこうして永年華があるということは、それだけ異次元世界がこの世界に受け入れられたということなのだ。


 それは本当に小さな許容だ。たった花一輪分の許容。


 それでも、きっとこれは大きな一歩なのだろう。


 今は無理でも、十年では無理でも、百年後には、二百年後には……異次元世界という概念が少しずつ認められて、どんな人にとっても日常の隣にあるようなものになるのかもしれない。


 そんな希望を抱ける。


 異次元世界は確かに危険で満ちている。


 だけど、それと同じくらいに可能性に満ちているのだ。


 その可能性の隣を歩ける世界は……多分、きっとリリーが言うように素敵だ。



「そう……だね。素敵」

「ええ。今の私達の行動が未来の可能性を少しでも大きくすることができる。そう思うと、私は、自分の剣がどんな壁でも断てるような気がしてくるの」



 笑んで、リリーは私の肩を抱き寄せた。


 ……ここで何か言うのは無粋なんだろうなあ。仕方ない、我慢しよう。


 少なくても、リリーの体温は不快ではないし。



「佳耶……私達は、どこまでいけるのかしら?」

「どこまでも……って言いたいところだけどね。実際は分からないよ。でも、だから……分からないからこそ努力しようとするんじゃないかな」

「……そうね。これからも、頑張らなくちゃね」

「うん」



 私がSWになった理由は……私を助けてくれた異次元世界という概念が、他の誰かの助けにもなる、その助けをしたかったから。


 いろんなものを見つけて、R・M社にいろんな医療技術を開発してもらって、それで人が救われる。


 ……うん。それは、素敵なことだよね。


 改めて、私はその夢を握り締めた。


 頑張らなくちゃ。


 これから先、私の見つけたなにかが誰かを救えるように。



「な・ん・な・ん・で・す・のぉおおおおおおおお!」

「希沙羅様っ、咥えているハンカチが千切れそうです!」



 きぃー!


 なんですの、なんですの、なんですの!?


 あんな仲よさげに花など見つめて、なんなんですの!


 わたくし、あんな穏やかな微笑みを浮かべるリリシア様など見たことがありませんわ!


 リリシア様はいつも凜然と、どこか憂鬱そうに、可憐なご様子でいらっしゃるのに。


 今日のリリシア様はどこか違う。


 あの小娘にたぶらかされたからでしょうか。


 級友にも見せたことのない、見るだけで心を奪われそうな微笑みを常にお浮かべになって。


 ……羨ま――もとい、嘆かわしいですわ!


 リリシア様はあの小娘に騙されているのです!


 あの笑みはわたくしにこそ向けられて然りなのですわ!



「裕美ぃ!」

「は、はいいぃっ!」

「行きますわよ! もう耐えられませんわ!」

「は、はい!?」

「あの小娘の化けの皮をはいでやりますのよ!」



「麻述佳耶! 勝負ですわ!」



 温室を出たら、いきなり金髪ロールで「ですわ」口調のいかにもなお嬢様にそんな挑戦をされた。


 あれ、この人どこかで見たような……ああ、そうだ。最初に校舎から私達を見て叫んでた人。


 ……えっ、と?


 それでこれはどういう状況なのだろう?


 リリーと一緒にいて嫉妬されてるのはなんとなく分かるんだけど……何故に勝負?



「リリー、知り合い?」

「さあ……?」

「がーん!」



 リリーが首を傾げると、金髪ロールさんが崩れ落ちた。



「リリシア様をお慕いして一年……顔すら知られてないとは……心が、心が痛いですわ」

「大丈夫ですか!」



 金髪ロールさんに、おとなしそうな顔つきの女の子が駆け寄る。



「リリー、ほんとに人気あるね」

「そうかしら?」



 そうかしら、じゃなくて現状をよく見なさいよ。


 なんか「お慕いして一年」とか言ってたし。


 他にもこれまで沢山の子がリリーを憧れの目で、私を嫉妬の目で見てたし。


 どこからどう見ても大人気じゃない。



「でも安心して、佳耶。私はどれだけ他人に言い寄られても貴方しか見ないから」

「いや、別にそんなこと心配もしてなければ望んでもいないし。というか今完璧にそこの金髪ロールさんにとどめ刺したよ?」



 今のリリーの一言で金髪ロールさん、真っ白な灰になっちゃったし。


 可哀そうに……。



「まだですわっ!」



 と思ったら、すぐに回復した。



「まだ勝負は終わってませんのよ!」



 終わるもなにも始めてすらいないと思うのは私だけ?



「あー……ま、参ったぁー!」

「なんですのその棒読みかつ気力の欠片もない降参は!」



 はあ……。


 なんていうか、めんどくさいなあ。


 というか、いまだにどうして勝負なんて吹っ掛けられたか、分からないんだけど。



「そんな符抜けた態度で茶化しても無駄ですわ! わたくしが貴方を叩きのめして、リリシア様に相応しくないことを証明してみせるのですから!」

「……そういうことか」



 つまり、嫉妬のあまり実力行使、と。


 闇討ちとかじゃなく正々堂々と来るところは評価していいけど……なんだかなあ。



「ちなみにつかぬことを聞くんだけど、どうやって勝負するつもり?」

「む……そうですわね……今グラウンドでやっている異種競技戦に参加し、より多くの成績を残した方が勝ちということでよろしくてよ!」

「……佳耶」



 リリーが私の肩に手を置いて声をかけてきた。



「うん、分かってる。こんな勝負やるわけ――」

「やりましょう」

「――……えー?」



 所変わってグラウンド。


 やっぱ広いなあ……。


 そして、空が青いなあ……。


 私は今、聖台嬢の体操着を着てグラウンドに立っていた。


 ――どうしてこんなことになっているのだろう。


 思わず泣きたくなった。


 何が悲しくてこんな勝負を受けなくちゃならないのよ……。



「佳耶。体操着姿もかわいいわね」



 後ろから抱きつかれた。もちろんリリーだ。



「リリーのその思考はオヤジだよ……」



 リリーが何故あの勝負をやろうと言ったのか、私はようやく理解していた。


 それは……私の体操着姿が見たかったからだ。


 あの金髪ロールさんとの勝負をなんでか受けることになってしまった直後。


 あろうことかリリーは、どこからともなく私サイズの体操着を取り出してきたのである。


 「こんなこともあろうかと」なんて言ってたが……もうそんなこと考えてる時点でリリーが私の体操着姿を見たがっていたことは明白だ。 


 というかもうリリーって変態だよ……。


 しかもこの体操着……今時ブルマなんですけどっ!?


 この時代にまだブルマって現存してたんだ!?



「さあ、麻述佳耶! 私達が最初に出る競技は槍投げですわよ!」



 私の前に、金髪ロールさんが現れた。


 ……自然と、視線が彼女のとあるパーツに向いた。


 彼女が身動きをするたびに大げさに揺れる、それ。


 ……胸、でっか。


 自分のを見下ろす……で、顔が引き攣る。


 ああ、そっか、そうだったんだ……この人、敵だ。


 ごきり、と。指の関節がなった。



「な、なんですのその眼は。なんか据わってますわよ!?」



 ちょっとやる気が出た。


 まるで私にみせつけるように揺らしやがって……そんなに叩き潰されたいのね。


 いいわ、もう徹底的にやってやる。


 どうせ後戻りなんで出来ないし、ここまで来たら自棄よ自棄!



「やってやろうじゃない……」



 そして私は、槍投げへの本気の参加を決意した。


 でも……なんで槍投げ?



「おかしいですわ、おかしいですわ、おかしいですわ!」



 金髪ロールさんが叫ぶ。



「六十二メートル!? 世界レベルの記録をどうして貴方のような小娘が出せるのですか!?」



 言っておくけど、私はゴーストの強化は使っていない。


 いや――一面としては、使っているという考えで間違っていないかもしれない。


 私の身体は常にゴーストに補助されて動いている。その補助は、軽く私の身体能力を普段から常人よりも高いレベルに保たせる程のものだ。


 だから、それを強化というなら、確かに強化だ。


 だがやはり、それでもそれは私の普通の身体能力である。


 それならば私が世界レベルの記録を出すのだって、たいして変なことじゃないだろう。


 私のことなんて知らない金髪ロールさんやその他大勢から見れば異常なんでしょうけど。



「おかしくてもこれが事実。さ、これで私の勝ちよね?」

「まだですわっ、三回勝負ですのよ!?」



 ……どこの子供のいいわけだ。


 呆れながら、私は深い溜息を吐く。



「なら次はなに?」

「短距離ですわ!」



「百メートル十秒〇二!? 女子の世界記録を越えてませんこと!?」

「あー、ま、そういうこともあるかもね」



 世界記録越えはやりすぎたか……。



「おかしいですわ! わたくしの得意種目ですのよ!? 全国大会で三位のわたくしが負けるなんて!」



 この人、自分の土俵に私をあげて闘ってたんだ……。


 微妙に姑息なところが……また、なんとも。



「これで二勝。三回勝負なら私の勝ちよね? それじゃ、そういうことで」

「待ちなさい!」

「なに?」



 金髪ロールさんが息まいて私に詰め寄った。



「あなた、何者ですの!?」

「さあ?」



 応える義理はなかった。



「なんで貴方のような人がリリシア様のおそばに……!」

「それは、まあ偶然?」



 異次元世界でリリーと偶然出会うことがなければ、私とリリーは今も他人だったろう。



「そんな理由で……貴方は何のためにリリシア様に付きまとっていますの!?」



 付きまとうって……また、なんでそういうことになるのかなあ。


 別に付きまとってなんかないし、むしろそれを言うなら最初に私に近づいてきたのはリリーからだし。


 彼女になんと説明すれば納得してくれるのか……考えていると、金髪ロールさんに一人の生徒が駆け寄ってきた。温室のところでリリーに顔も知られてなかったことに崩れ落ちた金髪ロールさんに駆け寄った、あのおとなしそうな子だ。



「わ、わかりました。麻述佳耶の素性!」



 その言葉に、どきりとする。


 な――そんなこと調べてたの?


 プライバシーの侵害じゃない……。



「彼女は障害のある身体を異次元世界の有機液体金属というものを血液の代替に使って補助しているそうです。それに、SWだとか!」



 ……よく調べたもんね。


 いっそ感心する私とは違い、その報告に金髪ロールさんが目を見開いて、信じられないものを見るような目で私を見た。



「SW、ですって……?」

「そうだけれど?」



 あっさりと認める私に、まるで鬼の首でもとったように、金髪ロールさんが笑った。



「やはり貴方はリリシア様にはふさわしくありませんわねっ! SWなど、そんな異常者がリリシア様に近づこうとは笑わせますわ!」



 ……?


 なにを言ってるんだ、この人。


 リリーだってSW……あ。


 もしかして、隠してるのかな?


 リリー本人はともかく、聖台嬢は有名なお嬢様学校だ。そんなところの生徒がSWになっているなんて、これほど面白そうなスキャンダルはない。もちろん、学校側はそれをどうにかするだろう。


 だが……多分リリーに表立って「SWを止めろ」とは言えない。リリーの家はSW関連企業の最大手だし、そういう背後関係もあって軽々しくリリーの不評は買いたくない筈だ。


 そうでなくてもリリーなら金の力を使って学校を黙らせることは難しくないに違いない。


 となれば学校側がとる選択肢は、隠すこと。


 リリーがSWだという事実は、この学校では秘匿されているのではないだろうか?


 金髪ロールさんの態度からしてもそれが有力説っぽい。


 ……だとしたら、下手に言い返したりは出来ないわね。



「さっさと貴方などリリシア様のお傍から離れていただけません? 貴方のような異常者が側にいては、リリシア様に迷惑がかかりますの!」



 っても……こう真正面きって言われるとイラッとくるな。



「どうせ先程の勝負も、有機液体金属、でしたか? それでなにかイカサマでもしたのではなくて?」



 それは微妙に正解。


 ……これ以上この話を聞いてても私に得なことないし、さっさと逃げようかな。


 別に陰口なんて慣れてるし。



「というより、そんな得体のしれないものが血液の代わりに体内を流れているなんて、貴方本当に人間ですの!? 化物でなくて?」



 だから、そういうことも結構言われ慣れて――、



「――随分と面白そうな話をしているのね?」



 ……あー。


 金髪ロールさん、終わったかもしれない。


 聞こえたのは、酷く冷たいリリーの声。


 これは……けっこうマジでキレてるのかな。



「リ、リリシア様っ!」



 その声に、金髪ロールさん及びその仲間らしい子が肩を震わせた。



「今、なんと言ったのかしら? 佳耶が化物、なんて戯言が聞こえた気がしたのだけれど」

「リリー――……」



 私がリリーをなだめようと声をかけた、と同時、



「そ、そうです! 聞いてくださいリリシア様!」



 ……金髪ロールさん、空気読め。


 自分から首を絞められに行くとか……もう馬鹿としか言いようがない。



「麻述佳耶はSWなどという異常者だったのです! リリシア様は騙されて――」

「私もSWだけれど?」



 怖……っ。


 そのリリーの微笑みに、思わず身体が震えた。



「な……リ、リリシア様?」

「私がいつも放課後に寮ではなく校外にでかけているのは知っている? それは、SWの活動をする為なのよ?」



 言われ、金髪ロールさんは大きく後ずさった。



「そ、そんなご冗談を……」

「それに、血の代わりに有機液体金属が流れているから化物、ですって? だったら私はアースの人間ですらないわよ? マギからの移民だもの。酷似していても、アースの人間とは異なる種ね」



 確かに。


 アースとマギの人間は呼び方こそ同じだが……種としては微妙にことなる。


 身体の構造こそほぼ同じだが、マギの人間にはアースの人間と違って、髪に隠れていて見えないが頂角骨という、先祖にあった角の名残がある。


 他にもいろいろと違う点はあるが……それらを総じて簡潔にまとめるなら、アースとマギの人間は別種だ。


 ちなみに余談ではあるが、両世界の人間の間でも子供が出来るのは少し前に確認されている。既にそういう子供が数人いるらしい。



「う、嘘ですわ!」

「ふうん……私がSWであったり移民であったりすることは否定するの? 佳耶がそうであることは喜んで受け入れたのに」



 金髪ロールさんはまるで子供が嫌嫌と言うように首を振るう。



「それは……っ!」

「仮に貴方の言うことが合っているとして、佳耶が万が一の可能性でも化物であったとして……けれど彼女は、貴方ほど醜くないわ」



 金髪ロールさんの目が愕然と見開かれる。


 うわあ……。



「率直に言って、貴方、不快よ。私の前に二度と現れないで」



 それが、決定打だったようだ。


 金髪ロールさんが大粒の涙を流して、私達の前から走り去ってしまう。



「希沙羅様っ!」



 その後を仲間の子が追っていくけれど、多分あの脚の速さじゃ追いつけないだろう。


 金髪ロールさん、走るの早いし。


 ……というか、名前、希沙羅って言うのね。


 それはそうと……まったく。



「リリー……言い過ぎ」

「そんなことないわ」

「あるんだって」



 リリーの頭にチョップをいれる。



「そりゃリリーが私が好きで、SWに誇りを持ってるのは知ってるつもりよ? 私もそうだしね。だから私やSWのことをどうこう言われて頭にくるのは分かる」



 うん。


 金髪ロールさんの発言には私もちょっと思うところがあったさ。



「でもね、それって彼女だけのことじゃなくて、世間一般の風潮なんだよ? 世間が私達を異常者って言ってるから、彼女も私を異常者ってよんだ。異次元世界にいい印象を持たないからこそ、ゴーストが体内にある私を化物って呼んだの。そのことに対する怒りを彼女個人に向けるのは、少し間違ってるよ」



 もちろんだからって彼女を許すわけじゃない。


 世間の風潮のままにSWを馬鹿にされるのはムカつく。


 でも……やっぱりリリーは言い過ぎだった。醜い、なんて女の子に言うべき言葉じゃないって。



「……けれど」

「反論禁止」



 もう一度チョップ。ちょっと強め。



「まったく……今回は確かにやりすぎだったけど、金髪ロールさんはあれでもリリーを慕ってるからああいう行動に出たんだよ? そんなリリーにああも酷いこと言われたら、すっごいショック受けるに決まってるんだから。少しくらい気を遣ってあげてもバチはあたらないわよ?」

「……ごめんなさい。佳耶を馬鹿にするものだから、つい」



 私に謝られてもね。


 謝るなら金髪ロールさんに謝ってもらわないと。



「ってか、話しちゃってよかったの? SWのこととか、移民のこととか」

「それは……学校側からはできるだけ隠すように言われているけど、構わないわ」



 いやいや、構わなくないから。


 グラウンドの真ん中でこんな騒ぎを起こしたんだ。多分、学校中にこの話が伝わるのも時間の問題だろう。


 そうなると……リリーも何かお咎めを受けるかもしれない。退学とかはさすがにないだろうけど、厳重注意とか。


 ま……それは因果応報よね。あそこで熱くなったリリーが悪いんだし。



「そう。じゃ、私は金髪ロールさんを探してくる。流石に放っておくのも後味悪いし」

「……ええ」

「リリーも探しなさいよね」

「分かったわ」



 珍しく落ちこみ気味のリリー。


 私の説教がそんなにきいたのだろうか。


 ……はあ。



「あと、一応言っておくけど」



 視線を逸らしてから、口を開く。



「いろいろ言ったけど……でも、リリーが怒ってくれて、私は嬉しかったわよ」

「佳耶……」



 リリーの返事を待たずして、私は金髪ロールさんを追いかけて駆けだした。




佳耶は下げてから上げるんですね。分かります。


希沙羅お嬢様は……憎まれ役ですよねえ。裕美ちゃんは残念なことに名前ばかりのキャラになってしまいそうです。


というか、私的に希沙羅の「おかしいですわ、おかしいですわ、おかしいですわ!」って同じ言葉を繰りかえす癖が好き。

それでも単発キャラ。

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