2-13
佳耶編終わりっ。
「うー、あー」
身体を起こす。
……ここ何処?
白い部屋。白いベッド。白いカーテン。
……あー。病室っぽい。
というか、完璧に病室ね。
異界研の医療棟だ。今までも何回かお世話になったから分かる。
えっと、なんでここにいるんだっけ。
…………。
あ、思い出した。
毒くらったんだ。
それで……それで……それ、で……。
……ぁ。
あああああああああああああああああああああああああああっ!
「――キス、されたんだっけ」
ぼん、と。
顔が赤熱した。
「はわ、はわわ……!」
とりあえずベッドを叩く。
思い出しただけで恥ずかしい。
リリー……なんでいきなり、あんなことしたのっ!?
意味分からないし!
ていうか普通にセクハラだよね。訴えたら勝てるレベルだよね!?
まあ、訴えないけどさあ。
でも……ほんと、どうしたんだろ。
唇に指をあてる。
……あの時、血の味、したなあ。
私が頬を叩いた時に口の中を切ったんだと思う。
ファーストキスは血のディープキス……。
なんていうか……まあ、私らしいっちゃ私らしい気もするけど、夢も希望もないわね。
「あー、顔、熱ぅ」
まだ夏には早いっての。
顔を手であおぎながら、ベッドから出る。
どうやらこの病室は個室らしい。ベッドを囲っていたカーテンを開けて、窓に歩み寄る。
窓を開けると、風が入ってきた。
……あー。
しばらく涼んでから、私はベッドに戻った。
ナースコールとかしといたほうがいいのかな?
……別にいいか。
身体の調子を確認してみる。
右腕よし。左腕よし。歩くのには問題なかったし、五感も正常かな……。
あ、そういえば腕の傷どうなったろ。
腕を見てみると、傷跡らしい傷跡は残っていなかった。
流石異界研の医療棟、治療技術は最新鋭ってところか。
ゴーストの霧を取り出す。
で、霧でハートマークとか作ってみた。
――何故ハートマーク?
なにやってんだ、私。
ハートマークを消して、ゴーストを体内に戻す。
ゴーストにも問題なし、と。
確認し終わって、ベッドに再び横になる。
天井を見上げながら、ふと考えた。
どんな顔してリリーに会えばいいんだろ、私。
なんというか……ねえ?
複雑な乙女心と言うか……常識的に考えて、ファーストキスをディープで奪ってくださりやがった同性にどうやって接すればいいかなんて分かるわけない。
……リリーはどんな顔して私に会いに来るのかなあ。
まさかあの後姿をくらませた、なんてことはないでしょうし……。
会いに来るわよね?
会いに来なかったら嫌だなあ。
いや、もちろん友人的な意味で会いたいってことよ?
「……で、結局私はどんな顔をすればいいんだっけ?」
答えは出ない。
……まあ、行き当たりばったりでいこう。
実際に会えばどうにでもなるでしょ。
そんな風に楽観視していると……、
ガラガラ。
部屋の扉が開いた。
視線を向ける。
――リリーがそこに立っていた。
「あ……佳耶、起きたのね」
微笑んで、安堵したようにリリーが言う。
私は……硬直していた。
想像以上だ。
想像以上に、リリーの顔を見るのが恥ずかしい……っ!
「佳耶……どうかしたの。顔が凄く赤いわよ?」
リリーがこちらに近づいてくる。
キスが、脳裏によみがえる。
血の味と、リリーの舌のざらつき。吐息の温度まで、はっきりと。
……うわ、うわ、うわぁあ!
きゃー!
気付けば私は枕を掴んで、それを思いきり――ゴーストの強化こみで――リリーに投げつけていた。
不意をついた投擲にリリーが反応できるわけもなく、ぼふっ、という音とともに枕がリリーの顔面に叩きつけられる。
「…………」
「…………」
な……なにやってんだ私――!
なんか反射的に攻撃行動をとってしまった。
枕がリリーの顔から、地面へと落ちる。
「…………」
とりあえず、
「ごめんっ!」
謝りつつ、シーツを被った。
本当にどうしようもなくリリーの顔を見るのが恥ずかしい。
見られるだけでも恥ずかしい。
胸が痛くなる。
無理、無理無理無理だって!
どうしろって言うのよ!?
こんなの、普通の会話すら無理!
「もしかして、怒っている?」
「……そうじゃ、ないけど」
シーツからちょっと顔を出して、首を横に振るう。
そして……耐えきれなくなってすぐにシーツを被り直した。
「佳耶……」
シーツの向こうでリリーが動く気配。
「可愛い」
シーツごと抱かれた。
…………………………。
「きゃ――――――――――――!」
結局。
リリーと普通に話せるようになるまで、ここから一週間かかった。
その間、リリーがどことなく元気がなかったのは、気にせいではないのだろう。
自業自得だけどね……。
かなり走り書き。
これで一応は佳耶編Ⅰは終わりです。Ⅱがあるかどうかは秘密。つか、そこまでたどり着けるか不明。