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2-11

あと二話か三話で二章は終る……かな。

 なんだろう……。


 昨日の宴会から、私とリリーが一緒にいるところを見かけるSWが皆生温かい視線をむけてくる。


 ……落ち着かないわね。



「隼斗、私達、どこかおかしい?」



 近くにいた隼斗に訊いてみる。


 ちなみに雀芽は車を車庫から出しているところ。私達はそれを待っている。



「どうやら奴らはファンクラブを解体、再結成したらしい。組織名はレーさんとその嫁の後援会、略してRSK……見上げた連中だぜ」



 何言ってるんだろう、こいつ。


 どこか清々しい顔の隼斗がムカついたので、脛を蹴る。



「――!」



 隼斗は地面に転がった。


 私はあまりすっきりしなかったが、まあ隼斗がもがき苦しんでいるんでよしとしよう。



「佳耶」

「そうだ、リリシア! なんか言ってくれ!」



 私に話かけてきたリリーに隼斗が言う。


 多分、リリーが私を諌めるとでも思ったのだろう。



「今日も元気そうでよかったわ」

「うん」

「元気の判断基準がドツキってどういうこと!?」



 絶望したかのような声。


 哀れ隼斗。あんたに味方は存在しないのよ。



「もうやだ! 女怖い!」



 隼斗が女性恐怖症になりかけているところに、アナウンスがかかる。私達の呼びだしだ。


 どうやら雀芽の準備が出来たらしい。


 私達はそのアナウンスに、赤い扉。それも三つあるうちの、一番大きな扉に入った。車両用の大型《門》の部屋だ。


 そして、その日。


 異次元世界に出る直前――ちくりと、なにか嫌な予感がした。



 山岳の世界に出た車は、谷底を道なりに進んでいた。


 にしても……揺れが酷い。



「なんか酔ってきたかも」

「大丈夫、佳耶。水でも飲んだらどうかしら?」

「んー、そうする」



 車の中に設置された給水機で、わきに積んである紙コップの中に水を注ぐ。


 そしてそれを一気に飲み乾した。


 紙コップを握りつぶしてゴミ箱にシュート。



「んー……雀芽、まだなにもいないの?」



 前の方に向かって尋ねる。



「ええ。妙ね……ここの世界はそんなに生物の少ない世界ではない筈なのだけれど」



 そう言いつつ、もうかれこれ一時間近く走ってる。


 もう帰らない?


 そう提案しようとした時だった。



「っ、反応あったぞ」



 隼斗の声。



「ほんと?」

「ああ。前だ」

「ふっふっふっ。きたきた」

「……なあ佳耶。お前って実はバトルジャンキー?」

「失礼ね。違うわよ」

「違わねえだろ……」



 なにか隼斗が呟くのを無視して、車が停止するや否やハッチから外に出る。



「数はー?」

『えっと……不明』



 どこかげんなりとした隼斗の返事に、首を傾げる。


 不明って……、



「ちゃんとオペレーターしなさいよ」

『いや、ふざけてるんじゃなくて……その、な? 見てくれれば分かると思うんだ』



 見れば分かる?


 なら見せてもらおうじゃない。


 正面を見据える。





 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――。





 そうしているうちにも地響きが大きくなって――地響き?


 嫌な予感。



「リリー……」

「分かっているわ、佳耶」



 リリーと私が全く同じ構えをする。すなわち、斬撃の姿勢。


 撃つのは別々。力を合わせるタイプだと威力が大きすぎて、多分この谷そのものが崩れる。


 で、遂に地響きの正体が見えた。


 まず……全長五メートルほどのイモムシっぽいやつ。キモい。


 それがおおよそ……二百匹はいるかなあ。あっはっはっ。


 なるほど。


 不明って……数が多すぎて正確な数が不明ってことかあ。


 さらに、新たな姿が谷の奥から現れる。


 壁、だった。


 いや、壁に見間違えんばかりの巨大な生き物。


 そいつは、無数の足を谷の両側に突き刺して、空中にその身を固定していた。


 ぶっちゃけ……ムカデ。


 うん。イモムシどもの親、かな?


 あ、あああああああああああああ、もう無理。耐えられない。我慢できない。堪忍袋の緒が切れたっ!


 この虫野郎!


 私の眼を潰す気か!


 キショい!


 私は虫が大嫌いなのよ!


 ――どうでもいいけど、私って最近大きな生物ばっかりと出会うわね。



「……リリー」

「……ええ」



 それだけでリリーとは意思疎通出来た。


 私達の意見は一緒。


 私が右、リリーが左を狙う。


 岩肌、である。



「「――――天地悉く――――」」



 斬撃を放つ。



「「――――切り裂け――――」」



 二つの斬撃はそれぞれ谷の壁を崩し……そして、崩落が起きた。


 岩の雪崩がイモムシ達に降り注ぐ。ムカデはちょっと後ろにいたせいで避けられた。


 土煙がのぼり、崩落の衝撃と轟音の中に変な奇声が混じる。イモムシの声だろうか。キモい。


 私とリリーは谷の崩落でこちらに飛んでくる瓦礫なんかを砕きながら、土煙が晴れるのを待っていた。


 たっぷり一分ほどして、視界が開く。



「……恐ろしいほどに狙い通りね」

「そうね」



 目の前には、瓦礫の山。その下にはイモムシが大量に埋まっているのだろう。


 ふふふ。あんなの相手にしてられるものですか。これで一網打尽……やるわね、私達。


 自画自賛していると、なにやら甲高い悲鳴。


 ……ムカデ様がお怒りの様子でした。


 そりゃ子供をこれだけ潰されちゃ、怒りもするか。



「雀芽ー、ちょっと後退してて」

『そうさせてもらうわ』



 私達を置いて、車が迂回して数百メートル下がる。


 さて……。



「頑張りましょう、佳耶」

「だね。虫には負けられないし、意地でも」



 ゴーストの霧が私を中心に渦巻く。


 さっさと終わらせよう。


 そう思って、一歩を踏み出した瞬間――、


 ――え?


 声が、聞こえた。


 私のゴーストで強化された鼓膜が、微かな空気の振動を感じた。



 ――今だ。やれ。ただし魔法は使うな。魔力の動きでバレる。

 ――分かりました。



 この声……は?


 視線を巡らせる。


 嫌な予感がした。



「……佳耶?」



 リリーが訝しげに声をかけてくるが、今はそれよりも声の出所を……。


 あ、見つけた。


 それは、谷の上。岩の陰に隠れるように人影がこちらを見ている。


 その手には……あれは!


 っ――。


 咄嗟に、私はリリーを突き飛ばしていた。


 刹那、風を切る音と、軽い衝撃。


 リリーを突き飛ばした私の腕に、針が刺さっていた。



「佳耶……っ!?」



 リリーの小さな悲鳴。


 狙撃銃から放たれたものだ。ただの銃弾ではない。これは……多分、毒かな。


 ……私の服を貫通するなんて、いい威力じゃないのさ。


 そんな風に考えていると、さっそく毒の効果っぽいものが現れてきた。



「う……ぐ……」



 眩暈。


 吐き気。


 そして、全身から力が抜ける。


 私は崩れ落ちて……そこをリリーに支えられた。



「大丈夫、佳耶!?」

「……」



 返事が出来ない。


 私は大量の汗を流しながら、ゴーストに意思を飛ばした。


 ゴーストが体内で動く。


 体内に入った毒を、片っ端から排除するために。



「佳耶、佳耶っ!?」

「……ごほっ」



 すぐに、私は赤い液体を吐きだした。毒を包んだゴーストだ。


 これで……問題はない、はず。



「リリ……大丈夫、だった?」

「っ、ええ! それよりも佳耶!」

「平気。毒……はもう、取り出したから……」



 っても、まだ後遺症っぽいのが残ってるけど、すぐに元通りになるだろう。



「それより、何、してるの?」

「……え?」

「リリーの右後ろ上。行ってらっしゃい。ムカデは私がやっとくから」



 一瞬、リリーは私が何を言っているのか分からない、という顔をして、すぐにはっとした。



「佳耶、あなた……」

「逃がしちゃ駄目だよ」



 とん、と。


 リリーの背中を叩く。



「……大丈夫なの?」

「だーから、大丈夫だよ。軽い頭痛がするぐら」



 嘘です。


 実は身体に力が入りません。


 でも、今は強がるべき時だ。



「……分かったわ。佳耶の仇、とってくるわね」

「仇って……いちお言っとくけど、殺さないでよ? リリーが人殺しとか、嫌だからね」

「分かっているわ」



 微笑んで、リリーは大きく跳躍した。風が巻きあがる。


 リリーの身体は崖の上へと消えていった。


 ……よーし。


 ゴーストで身体を強化する。


 私の視線の先には、腕を一本振り上げているムカデさん。


 ――って、こんな近くにいたの!?


 慌てて飛び退く。


 遅れて、ムカデの腕が地面を砕いた。


 うーわ。


 やっぱ私弱ってるな。あんな近くまでこられて気付けないだなんて。


 引き締めていかないと。


 ゴーストで二つの球体を作る。で、地面を蹴って、ムカデの顔面の目の前に。


 そこで二つの球体――もとい、散弾をぶっ放す。


 細かい無数の弾丸がムカデの顔面に……弾かれた。


 ……えー?


 堅……。


 ムカデが再度足を横薙ぎに振ってきたので、翼を出して空中回避。


 ……うむう。


 仕方ないわね……今は味方も近くにいないし、やろっかな。


 ゴーストを体内から出す。そのせいで負担が身体にのしかかった。


 思考が濁り、尖鋭化されていく。


 無我の境地。


 私はゴーストを刀にする。


 ……試したいことが、あったんだ。



「試させてもらうよ」



 刀に、赤い霧が圧縮されていく。


 ただし……私はあの構えをしていない。刀は片手でぶらりと下げたまま。


 斬撃ではない。


 私は、ゆっくりと足を踏み出した。


 歩くという行動と刀への圧縮という行動を同時に行えるのは、無駄な感情を削ぎ落した無我の境地状態だからこそ出来る離れ業だ。


 ムカデの足が、再三振るわれる。


 それに対して私がとった反応は……迎え撃つ。


 私に振り落とされる足に対して、刀を抜き放つ。


 ただし、さっきも言ったようにいつもの斬撃ではない。


 ゴーストは圧縮されたまま、ムカデの足に触れる。


 で――切り裂いた。


 刀に触れた途端、ムカデの足が真っ二つに裂けたのだ。


 原理は簡単。


 斬る際に、必要なだけのゴーストだけを放出したのだ。今までは十あるうちの十全てを放出していたのを、今回は一だけしか放出していない。


 だが、限定的な威力で言えばそれで十分。


 あのムカデの足一本ならばそれでも切断は楽勝だった。


 そして、一しか使ってない為、その一を再び刀に圧縮し直すのに時間は一瞬しかかからない。


 私なりに考えて作った……長期戦闘版斬撃。


 結構思いつきだったけど、案外いいかも。


 駆けだす。


 無我の境地は長くは続けられない。


 速攻で終わらせる!


 次々と放たれるムカデの攻撃を避けながら、私はムカデの腹に刀を突き刺した。そしてその刃から小型斬撃が放たれる。


 ムカデの腹が大きく裂けた。


 悲鳴。


 私はさらに刀を押し込んだ。


 内臓を蹂躙されて、ムカデが痛みに耐えきれなくなって、地面に落ちる。


 私はそこでようやく刀を引き抜き、ムカデから距離をとった。


 ……っ、ぁ。


 ヤバ……。


 身体がぐらつく


 いつもより、限界が早い……毒のせいかな。


 その一瞬の隙。



 ――それが、致命的だった。



 ふと気付いたときには……ムカデが、上半身を起こして、私の上に覆いかぶさろうとしていた。私を押しつぶすつもりなのだ。


 しまっ――避けられない。


 死を覚悟する。


 と――、


 炸裂音と共に、ムカデの上半身が大きくのけぞった。


 え……。


 振り返る。



『大丈夫かよー、佳耶。毒くらっても戦えるとか、相変わらずお前は桁違いだな』



 通信機から、隼斗の声。


 車の上の機関砲からは、硝煙が立ち上っている。


 そうか……隼斗が助けてくれたんだ。



「……ありがと」

『佳耶が、俺に礼!?』



 なにそれ。驚くことないじゃない。


 折角人が素直に感謝したのに。


 なんか損した気分。


 まあいいや。


 機関砲の巨大な弾丸をくらったムカデは、未だにもだえ苦しんでいる。あの銃弾をくらって生きている時点で規格外すぎる。


 とりあえず、跳ぶ。


 で……ムカデの口の上に着地。


 ムカデの牙がぞろりと覗く。




「……終わりよ」




 刀を逆手に持ちかえて、そのまま……ムカデの口の中に落とす。


 私は手元にあるゴーストこそ精密に操作できるけれど……手放したゴーストはそうではない。


 せいぜいが霧状にして手元に戻すのがやっとだ。


 私が何を言いたいか?


 つまり――あんな圧縮されまくった刀を手放したら……あれ、すぐに爆発するってことよ。


 ムカデの咽喉の奥で、力の奔流。


 大きく膨れ上がるムカデの首。そして……まるで風船が破裂するみたいに、ムカデが吹き飛んだ。その中から赤い嵐が生まれる。


 その嵐の中、私は通信機に向かって声を出す。



「それじゃ、少し行って来る」

『おー、すぐに帰ってこいよ』

『佳耶の珠の肌に傷をつけた馬鹿なんて、ぼこぼこにしてきちゃいなさい』



 能村姉弟の言葉を聞き届けて、私は嵐の勢いにまかせて崖の上へと上った。





今さらですけど、感想とか要望とかもらえると作者のテンションがあがります。

あと訂正箇所とかあったら教えてもらえると助かるです。

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