表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
175/179

7-44

「っ、はっ……ふ……はぁ、っ……!」



 呼吸が荒かった。


 身体が鉛のように重い。


 剣を杖にして、ようやく立っていられる。


 辺りには、いくつもの残骸。


 山のように積まれた贋物を横目で見て、溜息。


 どうだ。


 やってやったぞ。


 高くそびえる大樹を見上げる。


 そして、地面から剣を引き抜いて、今にも折れそうな脚で前に踏み出した。


 俺の目の前に、何かが現れる。


 それは空から落ちて来た。


 緑色のマントを身にまとい、杖をついている人物。


 その姿は、見間違えようもない。


 ……そうか。


 まだ、残ってたな。



「じじい……!」



 俺に戦いの全てを教えこんだ老人の偽物が、そこに立っていた。


 偽じじいが、杖を地面に深く突き立てる。と、そのままゆっくりと杖を引く。


 すると、杖の上の部分に割れ目が入り、そこが開いた。


 杖の中から、細い剣が現れる。


 仕込みの剣だ


 それを構え、じじいが俺と相対した。


 ……問題ない。


 俺は、じじいに全てを教えてもらった。


 魔術も……剣も。


 でも、だからって怯むことはない。


 何故なら……俺はもう、じじいにいろいろなことを教えられていた頃の俺ではないから。


 人は成長するものだから。


 このくらい越えてみせないで、どうするんだ。


 俺もまた、剣を構える。


 静寂。


 それを突き破ったのは、同時。


 偽じじいが俺に突っ込んでくる。俺も同じく偽じじいに向かって駆けた。


 偽じじいが振り下ろしてきた剣を下段から剣を振り上げて弾き、右側から剣を入れる。


 しかしそれは偽じじいの剣に防がた。


 爪先で砂を思いきり偽じじいの顔面にかけると、それに動じることもなく、向こうは俺の膝を蹴ってきた。


 それを避ける為に剣を引いて一歩後ろに下がる。


 偽じじいの蹴りをやりすごして、俺は再び前に一歩出て、その勢いで剣を放つ。


 偽じじいはそれを軽く回避すると、魔力を取り出した。


 ……っ。


 慌ててその魔力を奪い取る。


 けれど、偽物とはいえ、さすがじじいと言ったところか。


 奪えた魔力は、全体からみれば本当に僅かな量だった。


 偽じじいの手に炎が灯り、それを俺に投げてくる。


 僅かな魔力を剣に込めて、魔力刃を作り出して炎にぶつける。


 魔力刃は……焼き尽くされる。



「っ、そうなるかよ!」



 やっぱり、という思いはあった。


 あんな魔力で、あれだけの魔術をどうこうできるわけがないのだ。


 横に全力で飛んで、炎を避ける。


 そこで、さらに偽じじいが魔力を取り出す。


 ああ、くそ!


 魔力を奪おうと試みるが、やはりそんな多くの魔術を奪えない。


 無数の魔力弾が俺に放たれた。


 それを剣でどうにか弾く。


 と、偽じじいが肉薄してきて、剣を振るってきた。


 連続の斬撃。


 それを確実に防いでいく。


 すると、その中で魔力が取り出される。


 魔力がじじいの剣に集まる。


 俺は魔力を奪いながら、偽じじいの剣を全力で弾き上げた。


 次の瞬間。


 空に向かって、魔力刃が放たれる。


 ……危なかった。


 偽じじいが身軽に後ろへと下がる。


 魔力が取り出される。


 偽じじいが魔術を行使する。


 炎やら氷やら雷やら、魔力で作られた剣や槍や槌やら、とにかくいろいろな魔術が飛んできた。


 それらを剣で弾いたり、回避したり……。


 けれど身体のあちこちを徐々に削られていく。


 炎の嵐で脚を少し焦がされた。


 氷の杭で脇腹を浅く裂かれた。


 雷の矛で左手が僅かに痺れた。


 魔力の剣は俺の肌を裂き、槍は肉を抉り、槌は骨を軋ませた。


 気付けば、俺は身体中から血を流し、地面に膝をついていた。


 偽じじいが、そんな俺の情けない姿を見下ろす。


 そしてゆっくりと、その手の剣が振り上げられる。


 剣の先端に、魔力が集って行く。


 膨大な魔力。


 その密度に空間が歪み、色を変えていく。


 ……は。


 黒の魔術か……。


 流石に、そんなの使わせねえよ。


 俺は、余力を振り絞って偽じじいの懐に入った。


 そして、剣を振るう。


 が、刃を魔力障壁のよって受け止められてしまう。


 口元に、笑みが浮かんだ。



「じゃあな」



 呟き。


 俺の剣から、巨大な魔力刃が放たれ、それは障壁を軽々と食い破ると、そのまま偽じじいの身体を引き千切った。


 形成されかけていた黒の魔術が解放されて、厖大な魔力が放たれる。


 丁度いいので、その全てを掌握しておく。


 黒の魔術一発分の魔力……いい拾いものだな。


 俺は、足元の偽じじいの残骸を見下ろした。


 俺があれだけ巨大な斬撃魔術を放てたのは、別に奇跡だとか、そんなちゃちいものではない。ちゃんと理由がある。


 偽じじいが魔術を乱発していた時。俺はその魔術一つ一つから、少しずつ魔力を奪い、剣に溜めていたのだ。


 一発一発は僅かでも、それが積もれば……ということだ。


 そして黒の魔術の片手間で張った障壁なんて、ただの剣ならともかく、俺が全力で放った斬撃魔術を防げるものではない。



「こんなアホみたいな行動、本物のじじいなら即座に見抜いてただろうな」



 所詮、偽物か。


 同じことは、他の連中にも言える。


 もし相手が本物だったら、俺は今頃こうして立っていられなかったろう。


 ひとまず、肺の中に溜まった濁った空気を吐き出して、新鮮な空気を取り込む。


 そうして呼吸を落ちつけて、俺は改めて大樹を見上げた。


 よし。


 あとは、これだけだ。




 そう思った時。




 俺の身体が、吹き飛んだ。



あと数話で終わり……の予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ