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7-40


 ……ぽかん、とする。


 今のって……えっと……。


 雷光が飛んできた方向に振りかえる。


 そして遥か遠く。


 目を凝らして、高いビルの上に、ようやくその姿を見つけた。


 あれって……天利、だよね?


 天利、か……。




 ――なら、このくらい当然かな。




 彼女がしでかしたことだっていうなら……これも、まあいいんじゃないだろうか。


 なんて、自然とそんなことを思った。



「ぷ……」



 笑みがこぼれる。



「ふ、あははははっ!」



 なんだかなあ。


 もうほんと、滅茶苦茶だよ。


 強すぎだって、天利。


 あの異形が、掠っただけで肩吹き飛ばされるってどういうこと?


 私も相当だけど、天利もだよね。


 まったく……負けてられないなあ。


 ゴーストが私を中心に渦を巻く。


 さて……。


 それじゃあ天利も来たことだし……いい加減、終わりにするとしようか。



 悠希……。


 異形の右腕を落とした雷光を見て、まずその名前が頭に浮かんだ。


 その威力は、私が知るレールガンとは全くの別物。


 でも……それでも、私は何故か確信していた。


 今の攻撃は、悠希のものだと。


 じわりと、胸の奥からいろいろな感情が込み上げて来た。


 驚き。


 嬉しさ。


 安堵。


 頼もしさ。


 いろいろな想い。


 ……ははっ。


 凄いなあ。


 悠希も、佳耶も、ルミニアさんも……。


 それと違って、私は……。



「そんな顔すんなよ、アイアイ」



 温もりが、肩にのしかかる。



「え……?」

「なあ、規格外な連中以外にだってさ、見せ場の一つくらいあってもいいじゃねえか?」



 やはりもどかしい。


 もどかしくて、もどかしくて……おかしくなってしまうそうだ。


 こうして佳耶達が戦っているのを、眺めていることしかできないなんて……。


 でも……今更私が出て行ったところで、足手まといにしかならないのは分かっていた。


 拳を握りしめる。


 込めた力のせいで、傷口が痛んだ。


 と……その拳を、誰かの手が包み込む。



「さて、リリシア。私達にはこの状況、手出しなんてとても出来ない」



 え……?



「でもお前は違うだろ? だからさ、俺らの分まで頼むわ。支えてやることくらいは、してやるから」



 その声に。


 背中を、強く押されるようだった。



 私は、まあ強いて言えば、裏方だけどさ。


 それでも、裏方は裏方なりに、意地ってのがあるんだよ。


 目立ちたいわけじゃない。


 大立ち回りなんてしなくてもいい。


 それでも、さ。


 負けたくは、ないんだ。



 弾け飛んだ固定具を素早く留め直して、私はプロトタイプ・レールガンを砕けた右腕の代わりに左腕で構えた。


 引き金に指をかけて……ちょっと躊躇う。


 これ、撃ったらまたあの衝撃くらうのよね……。


 まあ、仕方ないか。


 溜息を吐きだす。


 安全圏から一方的に攻撃しているわけだし、これはそのハンデだとでも思おう。


 よし。


 やろっかな。


 指に力を込める。


 そして……トリガーを絞った。


 衝撃。


 左腕から嫌な音が体内を伝わって耳まで届く。


 固定具が一斉に外れた。


 雷光が弾け、飛ぶ。



 二度目の雷光は、異形の胴の、ど真ん中に命中した。


 その瞬間。




 異形の胴が消し飛ぶ。




 分断された下半身が地面に倒れた。


 残った胸の部分と、そして左腕は……それだけで、空中に浮かんでいる。


 あれ、本当にどうなってるのかなあ。


 さて。


 天利も見事にやってくれたわけだし、私も……。


 手元に刀を作って、空に掲げる。


 その刀身に、赤い霞が集まる。


 ……そういえば、このゴーストの使い方ってリリーの魔術を参考にしたんだよね。


 ちらりと、リリー達がいる方を見る。


 あれ……?



 妾も、一つ気張らなくてはならんな。


 右手を軽く上げる。


 手の中に、魔力が集まっていく。


 その魔力が……黒の魔術を形作った。


 黒の魔術が槍の姿をとり……不意に、違和感。


 魔力の収束が、止まらない?


 既に、妾の能力の限界は過ぎている。


 なのに……魔力はなおも集まり続け、黒い槍はその大きさを増している。


 ……他からの補助?


 気付いて、妾はそちらを見た。


 皆が、妾を見上げていた。


 いつのまに目を覚ましたのだろう。満身創痍の第九席ガレオが……第八席、アミュレが……第四席、リーゼロッテが……それに、第十席、シオンが……。


 能村姉弟に身体を支えられて立つリリシアが。


 妾の黒の魔術に、魔力を集めていた。


 アイと皆見が、何かを投げて来た。


 それは何本もの棒。


 魔力カートリッジだ。


 それが私の黒の魔術に呑みこまれ……槍が大きくなる。


 槍は、私の身の丈を優に超える大槍へと姿を変えていた。



「……ふ」



 まったく……やってくれる。


 身構える。



「見ていろ、貴様ら」



 貴様らが貸してくれた力。


 無駄にはしまい。


 深く、息を吸い込む。


 身体の半分以上を吹き飛ばされて、それでも動き続ける異形を睨みつけた。


 さあ…………、




「往けぇええええええええええええええええええええええええええええええ!」




 放つ。


 黒い軌道が尾を引いて、異形に伸びる。


 異形はその左腕を前に突き出して、それを受け止めようとするが……無駄だ。


 その程度で、我らの力を……!


 黒い爪と槍が触れ……瞬きの後。


 ふと、黒い爪が揺れた。


 イェスが解放魔術で、黒い爪に干渉しているのだ。


 それが、最後のひと押し。


 化物風情が、我らの力を、受け止められるなどと、思うな!


 ――槍が、貫く。




 異形の左腕が、千切れ飛んだ。



 ……美味しいとこ、もってかれまくりだなあ。


 私も、ちゃんと分けてもらないと。


 込み上げてくる笑みをこらえずに、刀をしっかりと握りしめる。


 圧縮は、完了している。


 あまりの密度に、ただそうしてあるだけで、刀は軋む。




 ――天地悉く、――。




 リリーがいつも大斬撃を放つ時に口にする言葉を心の中で唱える。


 心はひどく澄み渡っていた。


 時間が止まっているようにすら感じる。


 自分の動きすらも、緩慢だった。


 その意識の中。


 刀を、




 ――切り裂け!――。




 振り下ろす。


 刀の動きだけが、この世界で唯一の神速。


 刀身から、赤い斬撃が放たれる。


 どこまでも深い赤。


 まるで怒り狂う獣の牙のように、それが異形の残骸に食らいつく。


 そう、あれは既に残骸。


 だって……もう倒すと決めたから。


 倒すと決めた以上、もう助かるわけがない。


 だから残骸だ。


 斬撃が、残骸を抉る。


 残骸の半分が、消し飛んだ。



 視界の先で、最後の異形の一欠けらが舞う。


 ……それすら残してはいけない。


 頭の中で、そう囁くものがあった。


 その囁きに従って、私は右腕に力を込めた。


 骨の砕けた腕を、筋肉の力だけで動かす。


 炎にくべられるかのような灼熱が腕の内側に生まれ、とんでもない痛みが、直接頭の奥に突き刺さった。


 固定具をまだ直してもいないレールガンに、私の手がかかる。


 そしてそのまま、ゆっくりとトリガーを引こうとして……指に力が入らない。


 ああ、くそ。


 だったら……!


 左腕を、無理矢理に上げる。


 そしてトリガーに、もう一本指をかける。


 痙攣する指先。


 それを押さえつけるように……力を込め……トリガーを……。




 引いた。




 雷光が、異形の最後の一欠けらを蒸発させる。


 それを見届けて……身体が膝から崩れる。


 両腕は、完全に感覚もなく、ぶらりとしていた。


 それでも。


 やった……。


 やってやった。


 どうよ…………どうよ、見なさいよ!


 あんたもしっかりやってるんでしょうね?


 虹色の空を、見上げる。


 ねえ、嶋搗……!



地上戦、終結!


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