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7-39


 突進してくる異形に私は回避行動をとる。


 背中の翼を羽ばたかせる。それに合わせて、周囲に満ちる赤い霧が大きく流動した。


 空気中に散布したゴーストが、風を私に送っているのだ。


 翼がその風を掴み、高速で私の身体は空を翔ける。


 異形とすれ違う。


 真横を通り抜ける異形の眼前に、突如として巨大な剣が現れた。


 異形は突進する自分の速度によって、自らその剣を胸に深く突き立てることになった。


 それに動じる様子もなく、異形は私を振りかえり、黒い爪を振るって切る。


 胸に突き刺さる剣が爆発するように形状を霧に変える。その衝撃で異形の身体がよろめき、爪は私から狙いを逸らす。


 私は、異形の右肩の上に着地した。


 と、私の右腕が赤く刺々しい装甲に包まれる。ゴーストで腕を強化したことで起きた変化。


 タンクローリ一つ分のゴーストを使って腕一本を強化したのだ。


 その力は、舐めて貰っちゃ困る。


 ……でも、こんな滅茶苦茶な強化して、私の腕があとでどうなるか全く想像できないことだけは怖いなあ。


 微苦笑しながら、私はそのまま、足元に拳を振り下ろした。


 拳が異形の肉の内側まで潜り込む……遅れて腕を強化していたゴーストを一気に開放する。


 異形の内側で解放されたゴーストが暴れ狂い、そのせいで殴りつけた辺りの皮膚が破裂し、緑色の血が噴出した。


 拳を引き抜いて、空に飛び上る。


 すると、私のつけた傷に、黒い槍が飛んできた。


 それが異形の身体に突き刺さり、そのまま反対側まで貫通し、飛び出す。


 あれって……。


 槍が飛んできた方を見ると、そこではルミニアが今まさに何かを投擲したかのような姿勢でいた。


 ルミニアの、攻撃か。


 なんか凄い威圧感のある攻撃だったな……異形の爪と同じ感じがしたけど、同じようなものなのかな?


 心強い。


 背中は、安心して預けられる。


 再度、身体を強化する。


 今度は右腕だけじゃなく、四肢全てを。


 手脚がゴーストで覆われた。


 さらに、背中の翼の大きさが、さらに二回りほど大きくなる。 


 大きな翼で風を鷲掴みにし、異形に飛ぶ。


 爪が振るわれ、それが私の身体を切り裂く――なんてことはもちろんない。


 確かに爪は私を裂いたが……それは、偽物の私。


 さっきも使った手だ。


 ゴーストで作った、中身のない私の形をした人形。


 それを、私のより一瞬速い動きで動かしたのだ。しかも、本体の私は偽物の陰に隠れる様にしながら。


 それにより、異形を撹乱したのである。


 目論見通り、異形は見事に偽物を捉え、爪を振りおろしてくれた。


 その隙に、私は異形に肉薄した。


 その胴に、右の拳を叩きこむ。


 拳が異形に触れた瞬間、右腕を強化していたゴーストが解放され、その衝撃が異形の身体を傷つける。


 さらに、左腕を同じように叩きつけ、ゴーストを開放。


 連続の衝撃に異形が後ずさる。


 それを追撃する形で、下から抉りこむように、蹴りを放った。


 ゴーストの解放攻撃により、異形の身体が少しだけ浮く……――いや、もともと少し浮かんでたんだけど、それがさらにちょっと浮かんだということだ。


 さらにもう片方の脚で、回し蹴り。


 衝撃で、異形の身体が後ろに吹き飛んだ。


 ビルを巻き込みながら、異形の巨大な身体が倒れる。


 よし……ダウンとった。


 で、もっとだ。


 徹底的にやってやる。


 異形の倒れた場所の周りのビルの根元をゴーストを遠隔で操作して破壊する。と、それらのビル群が、次々に異形の上に降り注いだ。


 加え、ルミニアから黒い槍が放たれる。


 さらに追い打ちで、ゴーストで巨大な球を作り、それをビル倒壊で立ち上った粉塵の上に落とす。


 轟音の直後、異様な静寂。


 どうだ……。


 ゴーストで作られた球が霧になって消えていくのを、じっと見つめる。


 積み上がった瓦礫が、崩れる。


 その下から、黒い爪が突き出した。


 瓦礫を押しのけて、異形の身体が起きあがった。


 ――刹那。




 極大の雷撃が異形の右肩を掠め……それだけで、肩を蒸発させた。




 要である肩を失って、右腕はそのまま地面に転がった。



 戦いから三キロほど離れた高いビルの屋上。


 私はその屋上の外縁三十六カ所に深く打ちつけた固定具から伸びる帯に繋がれた『それ』を操作した。


 その下部から太いパイルが三本飛び出し、地面に突き刺さる。


 さらに後部から六本のスタンドが扇のように広がり、しっかりと地面を掴む。


 先端部が大きく開口し、円筒が伸びる。その周囲に四本の針が突き出す。


 ばちり、と。


 針から激しい放電現象。


 甲高い音が、動力から聞こえた。


 装甲がスライドし、大量の排熱口が姿を見せる。そこから火傷するのではないかというくらいの熱が吐き出された。


 プロトタイプ・レールガン。


 それがこれの名称だ。


 M・A社が始めに作り出したレールガン。それこそ、他ならぬこれである。


 ヴェスカーさんが私が起きた時の為に、用意してくれていたらしい。


 最初期の作品ということで、性能的に現在のものより劣っているものを想像しがちだが……それは間違いだ。


 製品版のレールガンは全て、製品という枠に収まる範囲内で製造されたものでしかないからだ。


 威力で言えば、このプロトタイプ・レールガンは今までM・A社が販売してきたどのレールガンよりも高いし、あと、射程距離も馬鹿みたいに桁違い。


 しかし……これには、プロトタイプ故の欠陥がある。


 とにかく威力ばかりを優先した結果として……使い勝手が信じられないくらいに悪いのだ。


 まず、発射の反動。


 これがまた馬鹿みたいに強くて、今しているように大量の固定具からパイルやらスタンドやらを使わないと、撃った瞬間に反動でレールガン事態が後ろに吹き飛んでしまうのだ。


 しかも、その際の衝撃で使用者の身体は粉々になること必至。


 その固定の準備に、時間がかかりすぎる。


 さらに撃つということのみに集中したせいで、照準機能の一つすらついていない。狙いは完全に使用者の目で行え、ということなのだ。


 他にも大きくて重量が馬鹿みたいだとか、銃弾が大きくて弾切れを起こしやすいだとか、本体や弾の価格がおそろしいことになっているだとか、いろいろとマイナスなところがある。


 だからこそ、プロトタイプ・レールガンはとても製品として販売することは出来なかったのだ。


 それでも……その威力は、尋常ではない。


 まだ実際にトリガーを引いたことはないけれど……データの上での数値だけ見れば、それは間違いない。


 まあ……とりあえず一度、撃ってみようか。


 不謹慎ながら、ちょっとわくわくしていた。


 どれくらい凄いものなのかな、なんて。


 心は躍らせながら、けれど冷静に……目で、狙いを定める。


 たかが三キロ。


 機械の補助なんてなくても、この程度の距離、自分の腕だけでどうにでもなる。


 ――よし。


 おおよその狙いは定め終わる。


 あとはタイミングと、根性だけ。


 ……にしても、麻述……化物じみてるわねえ。


 異形がビルに突っ込んだ。


 さらに周りのビルが倒れて異形の上に降り注いで、ルミニアが黒い槍を放ったり、巨大な球が落ちたりする。


 ……あれ、もう死んでないでしょうね。


 なんて心配するまでもなかった。


 球が消えて、瓦礫の下から、異形が起きあがる。


 その瞬間。


 ぴたり、と。


 狙いが合った。


 迷わずトリガーを引く。


 瞬間。




 身体中に響き渡る衝撃。




 レールガンの固定具の二割ほどが外れ、パイルの喰い込んでいた地面に巨大なひびが入る。


 私はと言えば……衝撃で吹き飛ばされて地面に転がっていた。


 恐ろしい激痛が全身を苛む。


 間違いない、身体中の傷が一斉に口を開いた。


 あと……右腕、ぶっ壊れた。骨、多分砕けてる。


 どんだけ馬鹿げた衝撃なのよ……!


 痛みに声すら出ない状態で、私は顔を上げた。


 それで……あの異形は……。


 視線の先。


 異形の肩が、消滅していた。


 ……んー。


 えっと……。


 すごい、わよね?


 うわあ……なにこれ。



プロトタイプって響きが、いいよね。

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