表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
165/179

7-34



 翔ける。


 既に視界には、虹色以外の何も見えない。


 ただ、とにかく……上も下も分からない中、真っ直ぐに翔ける。


 どれくらい時間が経ったのか。


 ほんの数秒?


 それとも数分?


 あるいは……数時間?


 分からない。


 時間の感覚が狂うとともに、思考も歪んでくる。


 いろいろなことが思い出せない。


 それでも……。


 思考からいろいろなものが欠落していっても……やらなくては。


 この先に行かなくては。


 その想いだけは手放さずに、翔ける。


 翔ける。


 翔ける。


 翔け続ける。



 異形が、右腕を振るった。


 それだけで、辺りのビル群がなぎ倒される。


 腕を振るっただけで、どれほどの魔力をまき散らすのだ……。


 いっそその破壊力に呆れながら、妾は空に飛び上る。横にはアイとリリシアが追随してきていた。


 妾は手始めに、黒の魔術を発動させる。


 十数秒で構築された黒い槍を、眼下の異形へと投擲。


 異形はそれを……傷だらけの左腕で打ち払った。



「――っ!」



 流石に、目を見張る。


 黒の魔術を、打ち払うとは……。


 規格外も甚だしいな。


 これは一筋縄ではいかない。


 面倒くささに、舌打ちを零す。



「全力で叩くぞ! 反撃を許すな!」



 私の号令と共に、全員が動いた。


 最初に動いたのは、イェス。


 イェスの解放魔術が、異形の身を覆う魔力を払――えない。



「っ……う、わ」



 異形の掌握する膨大すぎる魔力が、イェスの解放できる限界を超えてしまっているのだ。


 ただし、異形の纏う魔力層は薄くなった。


 それだけでも、十分だ。



「身体が大きいのならば、これはよく効くでしょう!」



 シオンが重力魔術を異形に放つ。


 異形の身体にのしかかる魔力によって作られた重力場は……しかし異形の纏う魔力に反発されて、効果を示すことはない。


 それでも、その反発分、異形の魔力が削られる。



「なんとも、潰しがいのあることですねえ!」



 叫び、第四席が先程なぎ倒されたビル群を含めた大量の瓦礫を空に浮かべる。


 そして……それらが降り注ぐ。


 強大な衝撃は薄くなった魔力層を越えて、異形の身体をよろめかせる。



「はい、どうぞお!」



 第四席が瓦礫の最後の一つをぶつける。


 それは異形の顔面にぶつかり、砕け散る。


 と、その砕けた瓦礫の陰から、三つの姿が飛び出す。


 第八席と、ガレオ、そして皆見だ。



「合わせろ!」

「ああ!」

「オッケー!」



 第八席の大剣が、異形の顔面を切りつける。


 大剣の刃は異形の顔を裂くことはなかったが……しかし魔力層を切り裂いた。


 その魔力層の裂け目に、ガレオが粉末刃を放つ。


 粉末刃は、異形の顔面を斜めに切り裂く。


 その切り傷を抉る様に、二つの雷を纏う刃が突き刺さった。


 皆見の刀だ。



「お、らぁっ!」



 その刀が、異形の顔面を裂き、無数にある内の、いくつかの目玉を潰す。


 第八席と皆見が、異形の顔面を蹴って、空に舞い上がる。


 それに間髪いれず、能村姉弟の乗る乗り物の上部に備え付けられた砲から、巨大な弾丸が放たれ、それが異形の顔面に命中。


 異形の頭が後ろに傾き、緑色の血が飛び散った。



「――天地悉く、――」



 そこに、



「――切り裂け!――」



 リリシアの大斬撃。


 魔力刃が、およそ原型を失った異形の顔面に叩き込まれる。


 深い断裂が刻まれた。



「吹っ、飛べ――!」



 その断裂に何本もの魔力カートリッジが投げ込まれる。


 次の瞬間、異形の顔面の内側から、巨大な爆発。


 緑色の血や肉変が、雨のように辺りに降り注ぐ。


 これはまた……なんとも嫌な雨だな。


 空を飛んでいてよかった。


 なとど考えながら、準備していた黒の魔術を構える。



「貫け」



 黒い槍を投げ放つ。


 それが異形の顔面を……貫いた。


 異形の頭がまるで水の溜まった革袋が破裂するように、破壊される。


 ……ふむ。


 頭を失って倒れ行く異形の姿を見下ろし、一先ずの安堵。


 ……流石にこれほどの強さともなると、厄介だな。


 この時。


 妾はすっかり、忘れていた。


 臣護に、言われたことがある言葉。




 ――例えどれだけ安心していいように見える状況でも安心してはいけない。




 それが戦場というものだ、と。


 そう教えられた。


 妾自身、そんなことは百も承知、と思っていた。


 ……しかし、認識不足だった。


 妾は実戦経験など、ほとんどない。


 そんな妾が、戦いについて、どれほど分かっているものか。


 一言で言えば、自惚れだった。


 言い訳ではないが、それは妾だけではない。


 この場の全員が、自惚れていた。


 次の瞬間。


 生臭い風が、蹂躙した。


 能村姉弟の乗り物が叩き潰されひしゃげ、皆見の身体が吹き飛び近くの建物に叩きつけられ、第四席の脇腹が大きく裂けて血が溢れだし、第八席が大剣を砕かれ弾き飛ばされて地面を転がる。


 さらに、吹く生臭い風に、ガレオが咄嗟に障壁を幾重にも張る。


 ――自分の前ではなく、イェスとシオンの前に。


 ガレオは、自身で理解しているのだ。


 自分よりも、あの二人の方が役に立つ、と。


 役目を果たしたガレオの身体が、薙ぎ払われ、瓦礫の中に消える。


 さらにイェスとシオンに蹂躙の手が伸びる。


 それに、ガレオの残した障壁が立ち塞がった。


 一枚二枚と、次々に障壁が砕かれていく。


 そのまま……呆気ないほどあっさりと、全ての障壁が砕かれた。


 イェスが、蹂躙される――直前。


 シオンが、イェスの前に立った。


 シオンの身体じゅうから、鮮血が吹き出す。


 イェスが目を見開き、その前で……シオンが崩れ落ちた。


 ガレオの障壁は、十分に意味を成していたのだろう。


 でもなければ、シオンの身体が四肢の一つも失わないわけがない。


 倒れたシオンを見下ろし、イェスが半ば呆然とした目で、それを見る。


 空にいた妾とリリシア、アイも、それを見た。


 倒れた筈の異形が、首のない状態で身体を起こしていた。


 吹き抜けた生臭い風は、異形の放った魔力による攻撃。


 ……頭を潰されて、死なない、のか……。




三話投稿~。

暑いです……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ