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2-4

 能村姉弟と私が出会ったのは、私がSWになりたての頃だった。


 R・M社所属のSWだった私は、会社からの依頼でとある異次元世界にいた。一面に荒野が広がる、酷く殺風景な世界だった。


 《門》をくぐって世界に出た私が最初に見たのは――巨大な蟷螂。そして、それに襲われている能村姉弟。


 明らかに苦戦している二人の元に駆けつけた私は、即座にゴーストで武器を形成し――普段は特殊な事情があるので他人に見せないが、この時は仕方なかった――蟷螂の胴を両断した。


 正直に言えば、私にとってその蟷螂は大した相手ではなかった。


 その後、能村姉弟の感謝を受け取って、二言三言、言葉を交わした時点で、お互いがR・M社の所属SWであることが分かった。


 なら何かの縁だろう、ということで。その日の私の任務に能村姉弟が同行することとなった。


 ぶっちゃけよう。


 足手まといだった。


 私のゴーストは武器としても使えれば、普段から身体能力の底上げをしてくれている。つまるところ、私のスペックは普通の人間を大きく上回っているのだ。


 自慢でも蔑むさけでもないが、事実としてそんな能村姉弟は私の実力の半分すら有していなかった。


 だがどういう因果か。


 能村姉弟はその短い時間の中で、なにやら私の事を大層気に言ってしまったらしい。


 気付けば、それから何度も誘われて異次元世界に出るようになって……いつの間にか、グループを作っていた。


 今思うと、自分でも不思議でならない。


 何故私はあの二人と一緒に行動するようになったのだろう。


 ゴーストさえあれば、大抵の危険は乗り越えられるのに。


 ……ううん。


 答えは、分かってる。


 寂しかったのかもしれない。


 私は、強い。


 だからこそ、誰かと一緒に異次元世界に出ると言うことを知らなかった。


 それまでの私にとって、異次元世界とは、SWとは孤独なものだった。


 故に、私は能村姉弟と一緒にいるのだろう。


 思えば、能村姉弟が私を誘ったのも、それが理由なのかもしれない。


 隼斗はともかく、雀芽は聡い。私の一つ年上だけれど、その年齢に見合わない、女性にこの言い方はどうかとおもうが、老成した思考を持っている。


 私が孤独と見破った二人は、きっと私を放っておけなかったんだろう。なにせ、あの二人はとことんお人よしだ。


 ……感謝している。


 SWに憧れていた。


 SWになれて嬉しかった。


 SWとして活躍出来て誇らしかった。


 そして今は……、


 SWを楽しめている。



「佳耶ちゃん、ねえ、佳耶ちゃんってば」



 声に、閉じていた瞼をうっすらと開ける。


 あれ……私、寝てた?



「ん、む……ぅ」



 伏せていた身体を起こす。


 そして、まず大きく欠伸。



「もう、佳耶ちゃん。もうお昼だよ?」

「え、本当に?」



 言われて、黒板の上の時計に目を向ける。


 本当だ……。


 うわあ。


 私、三時間目から四時間目をすっ飛ばして今の今まで寝てたらしい。



「ったく。佳耶。昨日は夜遅かったのか?」



 呆れ気味に言うのは、近藤(こんどう)佑子(ゆうこ)



「大丈夫? 疲れてるなら、保健室にいって休んだ方がいいよ?」



 その隣で私を心配してくれるのが、宮野春花(みやのはるか)


 私の数少ない一般人の友人だ。


 というか、一般の友人なんてこの二人以外にいない。


 それ以外の人は、私がSWって理由で避けてるから。


 この二人だけは、いつも私に気軽に話しかけてくれている。それがありがたくて、時々申し訳なる。


 私と付き合うってことは、つまり私と同じように周りから変な目で見られるってことだから。


 前に一度、そんなことで謝ったことがある。


 その時に言われたのが「お前の良さが分からない連中なんてどうでもいいや」っていう言葉と、「佳耶ちゃんと一緒にいると、楽しいですよ?」って言葉。


 それを聞いた時不覚にも泣きたくなったのは秘密だ。


 まったくもって私にはもったいない友人だと思う。



「んー。大丈夫。昨日、ちょっと深夜まで粘ってたから……軽く寝不足なだけ」

「おいおい、寝不足って……お前の場合、ヤバいんじゃないのか?」



 確かに。


 SWが寝不足で全力を出せないで死んだ、なんて洒落みたいな話は、これまでにも何度か聞いたことがある。


 そんな体調の僅かな変化一つで生死が左右されるくらいに、異次元世界は危険と言うことなのだけれど……。



「ふふん。その辺り、抜かりはないわ」



 行って、机の横にかけてあった鞄の中から小さな弁当箱を取り出す。



「強壮作用のある食材を使いまくって作ったお弁当よ。これさえ食べれば寝不足なんて一発ね」

「ふうん。それならいいんだけどよ」



 佑子と春花が机をくっつけてくる。私達は席が隣接していて、こうやって昼食を一緒にする時は非常に楽でいい。



「けど、本当に気をつけてね? 佳耶ちゃん、怪我とかしないでよ?」

「心配しなくていいわよ。これでも私って、かなり高位のSWなんだからね?」

「こんなチビっ子が高位とは、SWってどうなってんだ……」



 自意識過剰じゃない。


 これでも、R・M社所属SWの中で私は第三位の実績を誇っている。この実績とは社にどれだけ利益をもたらしたかで測られている。


 二千人を超える所属SWの中で第三位よ?


 それなりの強さを持っているという自負はある。


 それよりも、聞き逃せない単語が聞こえた。



「チビって言うな!」



 これが隼斗なら殴りつけてやるところだけれど、相手が佑子となれば話は別。普通のじゃれあいだ。


 佑子のほほに人差し指を突き刺す。



「ほごっ……やったな、こいつ!」

「きゃ、ちょ、待って、それはマズイって……あ、あはは、ははははは!」



 耳の裏をくすぐられた。


 待って待って、マジで。そこは冗談抜きで弱いんだって。



「やれやれ、佳耶は将来男が出来たら、ここ虐められるよー?」

「う、うっさいわね……春花ぁ!」

「え、ええ!? あの……佑子ちゃん? 佳耶ちゃんが嫌がってるよ?」

「違う違う。これは嫌がってるようで実は快感なんだよねー?」

「んなわけあるかっ」



 仕方ないので、ちょっと力づくで佑子の腕をふりほどく。



「はぁ……はぁ……」

「ふっふっふっ。これに懲りたら私に刃向かわないことね」

「……先にチビって言ったのはそっちなのに」



 まったく。


 溜息をついて、私はお弁当を開けた。



「あ……美味しそうだね?」

「……そう?」



 春花に言われるとお世辞にしか聞こえない。


 相変わらず、春花のお弁当はよく出来ている。まず色どりが綺麗だ。食材のバランスもいい。


 それと違って……私のは……。



「美味しそうは美味しそうだが……これは女子高生の弁当じゃないよな」



 笑う佑子の弁当は……うん、まあ普通に朝コンビニで買ってきたサンドイッチとプリンだ。佑子はプリン中毒者なのでプリンは絶対に欠かせないとか。



「……自覚はあるから、いちいち言わなくていいわ」



 彼女の指摘通りだ。


 私の弁当は……お肉に偏っている。


 おおよそ女子高生でこうも肉ばかりのお弁当を持ってくる人間は皆無だろう。



「仕方ないじゃない。お肉はスタミナつくのよ? 私は身体が資本なんだから、別にいいもん。動くから太らないし」

「おーおー、いじけるなよ」

「いじけてなんかないわ」



 箸を手に取る。



「いただきます」



 そして、お肉の切れはしを口に放り込む。


 んー。我ながらまあまあの出来。



「佳耶ちゃんは美味しそうにお肉を食べるよね」

「……そう?」

「おお。まるで肉に群がるハイエナのようだ」

「佑子っ!」



 そんながっついてないわよ!


 全く……。



「まあ……自分の口の中に食べ物を入れて、噛んで、味わって、飲みこめるって、それだけで素晴らしいことよ? なら、美味しそうに食べなくちゃ」



 病院にいたころは、点滴で栄養補給してたからそう思う。



「……そっか。うん、そうだね」



 二人も、私の昔のことは知っている。


 さすがに引かれるかなー、って思ったんだけど、それでもこの二人は私の友達のままでいてくれているけれど。



「ならたらふく食べてさっさと大きくなるんだな。絶望的だろうけど」

「ゆーうーこー?」

「おお、怖い」



 ……うう。


 そりゃ、病気の後遺症ってことは分かってる。分かってるけど……なんで身長伸びないんだろう。


 ゴーストぉ、私の身長を伸ばしてよ。


 無理か。


 無理よね。


 絶望したっ!



「でも、佳耶ちゃんはこのままでいいよ。すごい可愛いもん」

「そうだなー。佳耶はこれでいいかもなー。つか、大きくなった佳耶が想像できん」

「好く勝手に言ってくれるわね」



 もういいわ。


 これ以上二人に行っても無駄だろうから、私は諦めてお弁当を摘まむ。


 ふと、窓から差し込む光に影が差した。見ると、窓の外を一羽の小鳥が飛んでいく姿が見える。


 ……さて。


 今日は、私はどこに行こうかな。



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