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7-28

 大剣が地面を砕きながら、押し寄せてくる炎の波を下段から真っ二つに切り裂く。


 そのまま、第八席はミノタウロスの胴を斜めに切り裂いた。


 けれど……。



「ふん……しぶとい」



 第八席が肩に大剣を担いで、大きく後ろに跳ぶ。


 ミノタウロスの胴はすぐに再生し、その炎爪が第八席に伸びる。


 私は魔力カートリッジを取り出すと、それを炎爪に向かって投げた。カートリッジが炎爪に掴まれる。


 直後、炎爪の内側でカートリッジが爆発する。


 はじけ飛んだ炎爪は、しかしすぐに再生してしまう。


 でも第八席への攻撃を妨害することは出来た。



「余計な援護などしなくても構わん」

「一緒に戦うんだから、そういう冷たい事は言わないでよ」



 苦笑する。


 まったく、プライドが高いって言うか……頭が固いって言うか。



「そうだぜー、アミュミュー。仲良くしようぜ!」

「アミュ、ミュー……?」

「多分、第八席の呼び名じゃないかな。うん、明彦はそういう人だから」



 言うと、第八席が明彦を見た。



「……」

「え、なにそれ。その道端に落ちてハエのたかった生ごみを見るような目!」



 明彦を見る第八席の視線が随分と厳しいのは、なにも第八席にアースへの蔑視があるから、ということばかりではあるまい。


 ……というより、どうなんだろ。


 アースへの蔑視が残ってるなら、今ここに応援に来てくれていたりはしないだろう。


 だとしたら、多少は認めてくれている、のかな?



「ねえ、第八席――」



 問おうとして……炎の固まりが無数に飛んできた。


 三人で、それを避ける。


 訂正。


 第八席は大剣で叩き潰している。


 やっぱり凄いなあ。


 よく私はあんなのに勝てたものだ。


 まあ毒のお陰だけど。うん、それでも勝ちは勝ちだからね?


 卑怯とか言うな。


 臣護だって、勝てばどんなに汚い真似したっていい、って言ってたもん!


 とまあ、それはそうと。


 なんだっけ……ああ、そうだ。


 聞きたかったんだよね。



「第八席。アースは、どう?」



 どう聞くか悩んで、ちょっと曖昧な質問になった。



「……さて、な」



 第八席が、辺りの風景を見て、溜息をつく。



「先代までの王は仰った。マギは魔術こそ至上であり、それにより導かれる。科学などという穢れたものを扱うアースは下賤な世界である、と。だが先代の王は倒された」



 ミノタウロスが、第八席に突っ込む。



「倒れる筈のない王が倒され、そしてその娘であった御方が新しき王となった……そしてその王は言う。マギは滅びの道を歩んでいる。今こそ誤った因習を断ち、新しき道を進むのだ、と」



 それを、踊る様に第八席は避けて、そのすれ違いざまにミノタウロスの腕を刈り取る。


 それでも、やはりミノタウロスの身体は再生してしまうけれど。



「私は未だ、己の往くべき道が見えぬ。正しさがどこにあるのか、知らぬ。故に……今は、私を倒した強者を、王を倒した強者を、マギを倒した強者達を信じ……剣を預けるのもいいだろう。無論、」



 その口元に、鋭い笑みが浮かぶ。



「私がそこに正しさがないと感じれば、即座に王の首を貰うがな。本人からも、自分にそれだけの価値がないと判断した時点で殺しに来い、と言われている」

「……それはまた、凄いこと言うね」



 第八席も、ルミニア様も……どこまでも堂々としてる。



「それなら、ねえ明彦、私達は頑張らないといけないよ。アースの為に、マギの為に、いろいろなものの為に」

「……え、なにそれ重い」



 若干話についてこれていない様子の明彦が、目を丸めて行った。



「オレぁ、ただ自分のしたいようにして戦うだぜ? 気に入らねえもん全部ブッ壊す為にな」



 なんとも、SWらしい答え。



「だから、別にそんな重いもんは背負わねえぜ?」



 言いながら、明彦がミノタウロスに突っ込む。


 刀が奔り、ミノタウロスの腹を裂く。


 第八席のように長大な大剣ならば柄を握る手まで炎は届かない。けれど明彦の剣は、そこまで長い刀を使っているわけではないのだ。


 ミノタウロスを斬れば、同時に炎が明彦の手を熱する。


 もし熱に耐性の高いグローブや服を着ていなかったら、今ごろ明彦の肌がところどころが焼けただれていることだろう。



「っ、とんでもなく熱ぃな……しかも攻撃の甲斐がねえしよ」



 呆れたような明彦の声色。



「ふん、攻撃と言うのは、こういうことを言うのだ……!」



 その横を抜けて、第八席が大剣を振るった。


 それは、ミノタウロスの身体を裂き……けれどそれすら、あっさりと再生されてしまう。



「ほー、攻撃というものはそうやってあっさり再生されてしまうもののことを言うのですな!」



 皮肉をこめた明彦の言葉。


 その顔は、にやにやしている。



「あー。明彦、第八席にそういうSW的おちょくりはあんまり――」



 言い切る前に。



「貴様、侮辱しているのか!」

「ひぃ、マジギレ!?」



 凄い形相で第八席が明彦を睨みつける。


 うん、そうなるよねえ。


 良くも悪くも、真面目な人だし。



「ヴォルシン! この馬鹿を後ろに下がらせろ!」



 なんて私に怒鳴ってくる第八席に背後から、巨大な炎の塊が迫ってきている。


 彼女は気付いていない。


 やはり、まだ調子が完全に良くなったわけではないのだ。


 腕の包帯からは、どんどん血が滲んできているし……あれやったの私だけど。



「おっと、あぶねーぜ?」



 第八席の腕を掴んで、明彦が彼女の身体を引き寄せる。


 抱き寄せるような形だ。



「――っ!」



 第八席が動揺を見せるのと同時、炎の塊が地面にぶつかって、アスファルトを溶かす。



「怒るのはいーが、そういうのは戦いが終わったあとにしよーぜ。な、アミュミュー」

「……っ、うるさい! さっさと離せ!」

「おっと」



 明彦の腕を振りほどいて、第八席が少し赤くなった顔を背ける。


 ……なんだろ。


 今、ちょっとイラッときたんだけど……。


 まあ、いいか。



「ねえ、もうそろそろ本気で倒そうよ。この三人ならそう難しいことじゃないでしょ?」

「当然だろ?」

「言うまでもないだろう」



 んー、いい返事。


 それじゃ……。



「とりあえず、頭潰してみよっか。二人とも、よろしく」



 それだけの指示で、二人は即座に動きでしてくれた。


 戦う人間の本能とか、そういうのかな。


 まず明彦が、ミノタウロスの前に出る。


 ミノタウロスの炎爪が振るわれ、明彦はそれを大きく跳んで、ミノタウロスの頭上を飛び越えて回避してみせる。


 明彦を追いかけて、ミノタウロスが顔を上げ――そこに、第八席の大剣が叩き込まれた。


 ミノタウロスの頭が、宙に跳ぶ。


 そこに、私は大量の魔力カートリッジを投げつけた。


 魔力カートリッジはミノタウロスの頭を囲み、そのまま大爆発。


 確かな手ごたえ。


 爆発の後には、何も残らなかった。


 ミノタウロスの頭は消し飛んでいる。


 一泊遅れて、遺された胴体の炎が、消える。


 そして身体の芯にあった骨格のような白い部位が、地面に落ちた。


 からん、という乾いた音。


 ……倒した、よね。


 三人で顔を見合わせる。


 そして、同時に、それぞれ笑みを口元に浮かべた。



「やったね」

「おうよ!」

「……ふん」



 いやー、一時はどうなることと思ったけど。


 第八席の攻撃力には感謝だね。




あと何話なんだろう、SW。

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