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7-27

 虹の空から生える根の一つに、俺とじじいは着地した。


 根は、道路一本分の太さを余裕で持っている。


 軽く爪先で叩いてみるが、帰って来たのは硬質な感触。


 試しに魔導水銀剣を抜き、それで切りつける。


 あっさりと弾かれた。


 ……これを切り落とすとなると、多少骨が折れるな。


 周りを見る。


 根、根、根、根……。


 前後左右どころか、視界の上までもが根に覆われている。



「……まあ、やるか」



 魔力を剣に込める。


 そして、放つ。


 魔力刃が、根に食らいつく。


 根の一部が砕け散り……でも、それだけ。


 半分ほど削れても、根は変わらずそこにあった。


 一撃じゃ無理か。


 二撃目を叩きこんで、根を一本、落とす。


 空から落ちていく根はぼろぼろと崩れ落ち、最後には細かな粒子になって宙に溶けていった。


 それを見届けて、視線を上げる。



「じじい。俺は右をやる、左を頼んだ」



 言って、じじいと背中を合わせる。



「なんじゃ、老体にも働かせるのか」

「ここまで来て何言ってるんだ」



 どうせ命捨てる覚悟なんて、もう決めてるんだろうが。


 なら文句なんて言ってんじゃねえ。



「仕方ないのう」



 軽く溜息をついて、じじいが根に向かって手をかかげる。


 鳥肌が立つほどの膨大な量の魔力の動き。


 べき、と。


 酷く重い音が、幾重にも重なって聞こえた。


 じじいの掲げられた手の先にある根が、次々に、まるで巨大な拳に握りつぶされていくかのように潰されていく。


 まったく恐ろしいじいさんだ。


 苦笑して、剣を構え……連続で振るう。


 合わせて十四。斬撃が根を次々に落としていく。


 この調子なら、一時間あれば根については問題なくなるか。


 ふと。


 根の一部が、膨れ上がる。


 そこから、何かが突き出して……それから、はっきりとした形をとっていく。


 異生物だ。


 なるほど、こうやってあの雨あられと降り注いでいた異生物達は作られていたというわけか。


 異生物は次々と生まれてくる。


 様々な大きさ、形状。


 一番近くにいた、巨大なゴリラような異生物に対し、魔力刃を放つ。


 魔力刃がゴリラの纏う魔力の層に遮られる。


 ……ふん。


 なら、 別にいいさ。


 加速魔術で、ゴリラの懐に潜り込む。


 そして、剣に大量の魔力を込める。


 そのまま、ゴリラの腹に剣の尖端を突き立てた。


 剣に内包された魔力が解放される。


 剣尖から放たれた魔力は恐ろしい魔力の密度をもって、ゴリラの纏う魔力を貫く。


 ゴリラの巨体が倒れた。


 魔力の層で、魔力が遮られると言うのなら……遮られないほどの魔力をぶつければいいだけ。


 力技だが、これが一番簡単でいい。



「じじい、大丈夫か?」

「誰に言っとるんじゃい」



 じじいに襲いかかった蟷螂のような異生物が、じじいの掌握する魔力によってその細長い胴をゆっくりと捻じられ、そして千切れる。


 緑色の血液が大量に飛び散った。


 また、なんともむごい……。



「この程度、屁でもないわ!」



 らしいな。


 肩を竦めて、俺は俺の敵を見据える。


 うじゃうじゃと沸きだしてくる異生物。


 それらに対し、俺は……笑った。


 いいさ。


 どうせ後のことなんて考えなくていい戦いなんだ。


 なら……徹底的に戦って、叩き潰してやろう。


 それで俺が怪我をしようがどうしようが、知ったことではない。


 そんな少し自棄になったような思考で、俺は魔力を片っ端から集めて行った。



 ――彼女の左腕に巻かれた包帯には、血が滲んでいた。


 両手でしっかりと大剣を握り締めたその人は、降り立つと同時に、その凶器を振るった。


 それだけで暴風が巻き起こり、ミノタウロスの炎の身体が揺らめく。



「だらしがないな、ヴォルシン」



 ……なんで、この人がここに。


 それを考えて、すぐに理解した。


 そうか。


 ルミニアさん……ううん。


 マギ王が、来たのか。


 彼女は、それに従う最高の魔術師の一人として、ここにいるのだ。



「この程度の敵に何を手こずっている?」



 ミノタウロスが、新たに現れた存在を即座に脅威と認識して、炎爪を振り下ろす。


 それを……大剣の一振りが掻き消した。


 明彦が、その威力に目を丸める。


 うん……そうだよね。


 あの威力は、ちょっと反則だよね。


 衝撃力だけで言えば、下手したら臣護並みだもん。



「人に散々偉そうなことを語って聞かせたのだ。そのお前がそんな無様を見せるなど……あまり失望させるな」

「……いやいや、そうは言われてもね。これ、なかなか相手さん強いんだよ?」

「そのくらいは分かっている」



 彼女が大剣を握り直す。



「それでも、それを圧倒してみせることくらいは、してみせろ」

「無茶言うなあ……」

「えっと……アイアイ? こちらさんは?」



 明彦が不思議そうに彼女を指さす。



「……彼女は、」



 私が紹介するより先に。


 彼女が自ら口を開いた。



「私は、円卓賢人第八席、アミュレ=エイグイト=オーグだ」



 ミノタウロスから、巨大な炎の波が押し寄せた。



「ふっ、あはははっ!」



 その時。


 周囲の瓦礫が一斉に浮かぶあがり……そして全方位から押しつぶすように、それらが巨人に押し寄せた。


 瓦礫が次々に巨人にぶつかっては砕けていく。


 巨人が叫ぶ。


 大質量の破壊の嵐。


 その中……確かに見た。


 僅かにではあるが……巨人の皮膚の一部が僅かに裂け、緑色の血液が滲んでいるのを。



「なかなか、なかなか面白いことになっていますねえ! いや、長いものには巻かれるものです。新たなマギの王は随分と珍妙な戦いを用意して下さる!」



 その狂笑する姿を見て、思わず頬が引き攣った。


 ……ルミニア様。


 よりにもよって、これを寄こすなんて……。



「なんで貴方が……」



 思わず呟く。


 彼女の瞳が、私を見た。


 ねっとりと絡みつくような視線。



「他の方々はまあ頭が固いので知りませんが、私としては別に、新しい王が生まれたのならそっちに即座に鞍替えしても構わないんですよお。私はマギの為に戦うとかそんな小難しいことを考えて戦うわけじゃなく、楽しいから戦っているわけですしねえ。どうです、これは私がここにいる理由になりますかあ? ねえ、リリシア=メデイア=アルケイン」



 ――……ふん。


 気に食わない。


 が……彼女の実力は、確かに本物だ。


 それに干渉魔術は……どちらかと言えば、魔力によるダメージより、物理的なダメージを与えることに優れている。


 魔力に対して高い防御力を持つこの巨人に対しては、相性がいい。


 あと、もう一つ……。


 実はさっき巨人に攻撃されたときに、左腕だけじゃなく……マギの戦争のときに負った脇腹の傷が、開いてしまっている。


 動きには、多少なりの支障が出てしまう。



「……雀芽。増援のようよ」

『みたいね……それで、そちらは、どなた様?』

「リーゼロッテ!」



 彼女が大きな声で自分の名を言う。



「リーゼロッテ=フォウァ=オリオス、円卓賢人第四席です。どうぞ、よろしくお願いしますねえ?」



 周囲の瓦礫が、幾つもの弾丸となって巨人に襲いかかった。




すごく眠いです。

登場した円卓賢人は完全に作者の趣味。

他の円卓賢人は、ガレオとシオンと……第三席とか? 

他は若干、キツいですかね。



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