7-25
振り下ろされる、業火の斧。
このままいけば、私の肩口から、反対側の腰まで。斧はこの身を切断するだろう。
そんな自分の姿がありありと脳裏に浮かぶ。
……でも、そんなヴィジョンは、不要。
「舐、め、る、なぁああああああああああああああああああああああ!」
叫ぶ。
叫ぶ相手は、弱音を吐く私自身。
左手のマシンガンを放り捨てて、ジャケットの裏側にあるカートリッジから大量の魔力を開放する。
それをいっぺんに、左手に集中させた。
膨大な量の魔力。
それはもしかしたら、臣護の大斬撃一発分に匹敵するほどの量があるかもしれない。
本来ならば私には掌握なんて出来るわけがない量。
でもさ、あれだよ。
出来るわけないとかさ、最初から諦めてて、出来るわけないでしょ。
出来ると、そう信じることから、全部始まるんだ。
だから信じる。
この程度、今の私には、どうってこともない。
やってやる……!
その意思に応じるように、魔力が集まる。
そして――私は、振り下ろされた斧を、左手で受け止めた。
刃は肉を裂くことはなく、炎の熱も届くことはない。
斧を受け止めた手に力をこめる。
びしり、と。
斧にひびがはいっていく。
そうして右手のマシンガンから突き出す杭を、ミノタウロスの口の中に押し込む。
「吹き飛べ!」
左手が、斧を握り砕く。
そして、ミノタウロスの口内に、魔力の矛が放たれた。
その巨体が宙に浮かび、そのまま後ろに大きく飛ぶ。
そのままミノタウロスは、地面に落ち、転がっていく。
「わーお。アイアイってば過激」
「今日の私は一味も二味も違うんだよ」
明彦に小さくガッツポーズをしてから、地面に落としたマシンガンを拾う。
その時、轟音と共に、これまでとは比較にならないほどの大きさの火柱が立った。
気を引き締める。
立ち上る火柱の中から、巨体が出てくる。
……は?
「明彦……私の気のせいかな?」
「……いんや。多分、アイアイが見てるのは、現実じゃねえかなあ」
明彦が面倒くさそうな顔を隠そうともせずに私の質問に答える。
私達の視線の先。
ミノタウロスは……その巨体を、先程よりもさらに二回りほど大きなものへと変化させていた。
しかもその体は……炎。
炎が体を覆い包んでいるとかではない。
体そのものが、炎になっているのだ。
そしてその炎の芯に、骨格らしい影がぼんやりと浮かんでいる。
「ど、どういう体の構造してるのかな」
普通に考えて炎で構築された生き物なんているわけないでしょ!?
「まあ……今更異常なもんが一つ二つ増えたところで、ああそうですか、って感じだけどな」
明彦は冷静だなあ。
私も落ち着かないと。
深呼吸をひとつする。
ミノタウロスに動きがあった。
その両手の炎が、膨れ上がる。
そして、二本の巨大な炎斧が作り出された。
その二本の斧を、ミノタウロスは地面に打ちつける。
激しい震動。
でもそれだけじゃない。
今、地面に魔力が撃ち込まれた……!?
「明彦、足元!」
短く伝える。
それとほぼ同時。
地面が、砕ける。
地面の下で魔力が爆発したのだ。
宙に、地面の瓦礫と共に私達もうちあげられる。
「っ……」
さらに、そこにミノタウロスの口からいくつもの火球が放たれる。
宙に浮かぶ瓦礫に足をつけて、それを利用して空中で姿勢を変える。それによって私と明彦は火球を避けた。
お返しと、瓦礫の一つを魔力で加速して、ミノタウロスに打ち出す。
撃ち出された瓦礫はミノタウロスの身体に突き刺さり……そして背中に抜けた。
地面に落ちた瓦礫は、半ば溶けて溶岩のようになっていた。
あれじゃあ、下手に近づくことすら出来ない。
思いながら、地面に着地する。
「アイアイ……オレ、これもしかして足手まとい?」
「うん」
明彦は近接の戦闘が主体だしね。
「ぶっちゃけられた!」
明彦が大きく肩を落とす。
「まあ、生きたまま火葬されたいっていう特異な願望があるなら、止めはしないよ?」
「いやいや、そんなんねえよ」
だろうね。
軽く溜息をつく。
本当に、どうしたらいいものか。
「いいさいいさ! 撹乱くらいできるもんね!」
言って、明彦がミノタウロスに向かって飛び出した。
うわー、命知らず。
「この牛野郎! あてられるもんならあててみやがれ!」
挑発する明彦に、ミノタウロスが斧を振るう。
それを明彦は器用に三次元的な動きで避けていく。
それだけ見れば、結構かっこいい。
「熱っ、あちぃ!?」
でも、炎が掠める度に情けない声が聞こえてくるせいで、いろいろ台無しだ。
「明彦、死なないでよ?」
「誰に言ってんだ!」
とりあえず私も、ミノタウロスを攻撃する。
マシンガンを普通の射撃形態に戻して、二つの銃口をミノタウロスに向けた。
そしてトリガーを引いて、無数の魔力弾をばら撒く。
それは、ミノタウロスの体に触れて次々に焼失していく。
ま、だろうね。
炎化して、もしかしたら……なんてことを考えたのだが、やはりこれくらいじゃ効かないか。
どうしたものか。
……自壊覚悟で、あれ、やってみようかな。
開発元のM・T社からは、まだ完成しきっていない機能なので、出来れば使わないように、と言われているのだが……こんな状況だし仕方がない。
左手のマシンガンが形状を変える。
銃の後部が大きく開き、内部の機構が覗く。そこから、筒が伸びた。
その筒の中に、右手のマシンガンの銃口を合わせる。
と、二つのマシンガンが結合し、それが一つの大きな銃に姿を変える。
私はさらに、懐から魔力カートリッジを数本ぬきだすと、それを銃の上部にあるスロットに差し込んでいく。
さらに、辺りの魔力を最大掌握して、銃の内側に注ぎ込む。
銃が、僅かに軋んだ。
……暴発とか、しないでよね。
祈りながら、私はその銃を両手で構え、狙いを明彦に攻撃しているミノタウロスに向けた。
しっかりと照準を合わせる。
――今。
トリガーを引く。
銃口から、激しい光が散った。
それはなんとなく、悠希がレールガンを放つ時の、あの光に似ている気がした。
でもそれは、雷の光ではない。
魔力の光だ。
おそろしい密度の魔力弾が、高速でミノタウロスに向かう。
そして、着弾。
その瞬間、魔力が解放された。
銃弾の貫通力が、跳ねあがる。
銃弾から解放される魔力の余波だけで、地面がひびわれた。
とんでもないもの、開発したなあ。
アースの技術力に軽く戦慄する。
そんな私の見ている中。
魔力の弾丸とミノタウロスの炎が競り合い……そして、ミノタウロスの左肩が消し飛んだ。
炎の奥に隠されていた骨格が砕け、その破片が飛び散る。
「よっしゃっ!」
攻撃が通った喜びに、軽くジャンプしてしまう。
「アイアイ愛してる! 今のアイアイはまるで戦天使だぜ!」
「もうっ、そんなこと言っても嬉しくなんてないよぅ!」
「めっちゃ嬉しそうですがね!」
「えへへ」
とりあえず、ほら。明彦。
ミノタウロスなんてさっさとやっちゃおうよ。
7章はいったい何話までいくのだろうか。
まあ最終章であるわけでし、長くなるのは当然といえば当然だけど……。
そしてアイがどんどん強くなっている気がする。
二つのマシンガンを連結させるってのは、まあ……ええ、ストラ○クフリー○ムですね。