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7-22



 魔力の刃が駆け抜けて、竜の頭半分を切断する。


 巨体が倒れていくのを見届け、身体中にこびりついた緑色の血液を魔力で弾き飛ばした。


 さて。


 辺りに人がいないことを確認して、魔力をかき集める。


 集めた魔力を、近くにある複数の高層建築物に置く。


 そしてその魔力を……爆発させた。


 それぞれの建築物の中から、魔力の衝撃波が漏れ出す。


 激しい爆発音と振動。


 その中、いくつもの高層建築物が根元から折れるように倒れた。


 重なり合いながら、大質量の瓦礫が街に降り注ぐ。


 それは道路などに群がる小さな異生物をまとめて圧し潰していく。


 空高くまで土煙が舞い上がった。


 ……どうせ街はここまで破壊されてしまったのだ。なら、いっそ景気よく倒して有効活用してしまえばいい。


 とりあえず、これでこの辺りは大分綺麗になった筈だ。


 もう少し、この手を使って雑魚を始末して行こうか。


 そう考えていると……空から巨大なものが降ってきた。


 瓦礫と土煙が渦を巻く中、立ち上がる姿。


 ――巨人だ。


 落ちて来た巨人が、私の目の前にいた。


 ただしそれは、決して人間と相似してはいない。


 あくまで、巨大な、人間を彷彿とさせる生き物、ということだ。


 何故なら、人間には眼が六つも無ければ、それらが白目も瞳もなく真っ赤に輝いているなどということもない。腕は左右にそれぞれ二本ずつ、計四本は間違っても生えていないし、下半身がムカデのように長く足がいくつもあるなんてこともない。


 ざわり、と。


 なにかがざわめいた。


 目の前の巨人が、危険だと。


 他のとは明らかに別格。


 それを証明するかのように、巨人の四本の腕が伸ばされ、その先に魔力が集まっていく。


 ……魔力を、使っている。


 驚愕する。


 なにも魔力を使う異生物が珍しいというわけではない。魔力世界にいきる生物の中には、魔力を生きるエネルギーとして使っていたりするものだっているのだ。


 驚いたのは……魔力を、明確な指向性を持たせたうえで制御しているということ。


 これじゃあまるで……魔術。


 そう思うと同時、私は何かに突き動かされて、空高くに飛び上った。




 巨人の四つの手に集まった魔力が、炸裂する。




 それは青白い揺らめきとなって、辺り一面の瓦礫を……粉塵に変えた。


 っ……とんでもないわね。


 その力を前に、身体の内側が冷たく感じられた。


 あんなのに当たったら……人間なんてひとたまりもない。


 コンクリートや鉄ですら粉塵になるのだ。人間ならば細胞単位で破壊されるに違いない。


 とんでもないものが現れたものだ。


 舌打ちをして……けれど、逃げるわけにはいかない。


 これはさすがに、放置しておいたらどうなるかが怖い。


 万が一にでも今の攻撃を異界研の近くで放たれたら、佳耶が――。


 それは、なによりも恐ろしいこと。


 そんな真似、許しはしない。


 ここで斃す。


 決意し、私は刀に魔力を集めた。


 その魔力の動きに気付き、巨人が私を見上げた。


 六つの赤い眼の輝きが私を見据える。



「――天地悉く、――」



 刀を構えた。



「――切り裂け!――」



 そして放つ。


 魔力が刃を成して巨人の顔面にぶつかる。


 けれど――。




 パシャ。




 水風船が割れる音のようだ、と漠然と思った。


 私の魔力はその巨人に触れた途端、霧散してしまった。


 あの巨人の周りに、濃密な魔力の層があるのだ。それによって、私の魔力が溶かされた。


 事態を一瞬で把握し……軽く絶望感を得た。


 斬撃魔術は、私の手札の中でも、最大の火力を誇るものだ。


 それが効かないとなると……。


 さあ、どうしようか?



「ほっ」

「はっ」



 二人して路地裏に飛び込む。


 私達の背後で、表の道をダンゴムシが転がっていく。



「……あれ、スルーしてよかったのかな?」

「いいんじゃね? ありゃ俺達向きの敵じゃねえし、適材適所で誰か他のSWが始末してくれるだろ」



 まあ、私も明彦も、どっちかっていうと力押しで通すタイプだから。


 ああいう、無駄に頑丈で、しかも転がって圧し潰そうとしてくるのは、不向きと言えば不向きかもなあ。力押しで通す暇もないし。


 うん。


 ここは他力本願でいっか。


 どうせダンゴムシが転がっていったのは異界研とは逆方向だし。そこも問題はない。



「さて、じゃあ行きますか」



 ダンゴムシが通り過ぎたあとの道に出て、明彦が言う。



「だね。活躍した話の一つ二つ用意しとかないと。悠希や臣護に呆れられるよ」



 臣護は今、一番重要な戦いをしているし、悠希は悠希でこの現象が始まったばかりの混乱期にかなり活躍していたらしい。


 負けてられないよ。



「んじゃあ大物見つけに行こうぜ」



 明彦と駆け出す。


 角を曲がって――そこで早速足を止めた。



「おおぅ!?」




 明彦の奇妙な声。


 そこには……あのダンゴムシがいた。


 しかもばっちりこっちを見ている。



「……」



 僅かな沈黙。


 ダンゴムシが、丸まった。



「うわあ、またこの展開?」



 そしてその身体が、転がり始め……、




 ――潰れた。




「……へ?」



 あれ、なにが起きたんだろう。


 えっと……空から、何か落ちて来たんだ。


 それがダンゴムシを潰して、地面を砕いた。


 その正体は……。



「……明彦。多分、すごくマズいよ、これ」



 感じたのは、魔力の流れ。


 魔力が、落ちて来たなにかの元に集まっている。


 直後。


 火柱が、空高くまで立った。


 その炎風の中、落ちて来たものの姿が浮かび上がる。


 ……牛。


 二足歩行する、牛によく似た生き物だ。半分くらい人の形が混じっている感じ。



「明彦。私、あれ知ってる。あれだよね。ギリシア神話に出てくる……あれ」

「……ミノタウロスか?」

「そう、それ」



 現れたミノタウロスの身体は、激しく燃え上がる炎に包みこまれていた。


 焼かれてはいない。


 その炎は、まるでミノタウロスの身体の一部であるかのように、その巨躯に纏われている。


 ミノタウロスが、足を上げて、思いきり地面を踏みつけた。


 激しい揺れ。


 ここだけ大きな地震が起きたかのようだ。


 広い範囲にわたって地面にひびが入って……ミノタウロスの足元が、思いきり隆起した。


 その隆起を、ミノタウロスが掴む。


 するとそれが、魔力によって形を整えられる。


 巨大な斧だ。


 それがミノタウロスの手におさまると、一気に燃え上がる。


 ……魔術、だよね。


 魔術を使う異生物なんて、聞いたこともない。



「明彦。どうする?」

「どうするって、そりゃ……あれ見てみろよ」



 明彦が指さすのはミノタウロスの瞳。


 それははっきりと、私達に向けられていた。


 ……完全にロックオンされてるよね、これ。



「仕方ない」



 溜息を吐きだして、肝を据える。



「ここはちょっと、あれに私達の最初の武勇伝になってもらおっか」

「りょーかい」



 明彦が雷鉄鋼の刀を左右それぞれ抜き放つ横、私もカートリッジを取り出す。


 手始めに、それをミノタウロスに投げつけた。


 爆発。


 爆煙が立ち上り……その中から、ミノタウロスがとんでもない速度で突進してきた。





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