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7-20



「これが現在、あの空――以降の呼称を《魔界》とします。《魔界》から伸びる柱の状態です」



 異界研の広場に作られた急造のスクリーンに、映像が映し出される。


 あの柱の映像だ。


 写真映像や動画がいくつか同時に表示され、真中には一際目立つ映像がある。


 その場にいるSW達が、鋭い気配を発する。


 それが敵であると、はっきり認識しているのだ。



「この真中に表示されているものが、現在柱が地面のどのあたりまで突き刺さっているかを示したものです」



 地面の断面図。


 そこに、柱の刺さった深さを教える数値。


 その数値は、変化していく。


 それは柱が徐々に、地面の深くを目指して突き進んでいることを告げていた。



「このままこの柱が突き進んだ場合、一日ほどで柱の尖端は地殻を貫き、マントルへと届きます」



 映像が切り替わる。


 地球の断面と、そこに突き刺さる柱。


 柱はその映像の中ではマントルに既に到達している状態。



「この柱ですが、内部に膨大な魔力を内包していることが判明しています。その魔力量ですが、計測不能です」



 計測が出来ないほどの量、ということか。



「現状で想定できる最悪を述べさせてもらいます。この柱はマントルに届き次第、そこで内部に蓄積した魔力を開放すると思われます。するとどうなるか」



 スクリーンの中の柱から、魔力を示すと思われる紫色の波紋がマントル内部に放たれる。


 それが、急速にマントル内部を埋め尽くしていった。



「放たれた魔力はマントル対流によって地球全体のマントルを埋め尽くします。まず、この時点で地球の機能が何らかの支障をきたし、地上の大半が間もなく人間の住めない領域になることが推測されます」



 その説明に、場の空気が冷える。


 説明は続いた。



「さらに、マントル内を埋め尽くした魔力は地球の中心、核を破壊します」



 スクリーンの中の地球が、真っ黒に染まる。


 それは、終わりの色だった。



「これが、明日にでも地球を襲う運命です」



 誰もが息を呑む。


 あまりに唐突な、地球の終末の報せ。



「まだこの想定は続きます。地球崩壊に伴い、巨大な爆発が起きます。普通ならばそれで終わるのですが、ここに魔力が混じることで、その結果がどうなるか……予測は困難です。ですが、個人的な見解から言わせてもらうのであれば、これだけの魔力が地球の爆発と共に宇宙に放たれれば、この銀河系にある五割以上の星が崩壊すると思われ、それだけ大量の星々が一気に崩壊した時、何が起きるか。それはもしかしたら、銀河系どころか、宇宙の終わりということすらあり得ます」



 世界の終わり。


 そんなフレーズがよぎる。


 仮定に仮定を塗り重ねたかのような話だったが、俺にはそれが、真実に思えて仕方がなかった。



「以上で、現状の説明を終了します。それでは」



 スクリーンの映像が消える。


 そのスクリーンの前で事態の説明をしていたヴェスカーさんのもとに、俺は歩き出した。



「ヴェスカーさん」

「ああ、臣護君か」



 声をかけると、どこか疲れた様子のヴェスカーさんの顔がこちらを向く。



「よくこんな短時間に、あれだけのことが分かりましたね」



 ヴェスカーさんはつい先程までマギにいたから、恐らくはヴェスカーさんの部下がこの情報を調べあげたのだろう。



「優秀な部下が多いからね」

「……それで、これからどうなるんですか?」

「さて」



 ヴェスカーさんが肩を竦めた。



「M・A社としては今回の件の解決に向けての協力は惜しまないが、各国の動きは一企業の社長には知りようもない。この予測も各国に公開してはあるのだが……さて、その重い腰がいつ上がるものか」



 ……つまり、国家ってやつはこの緊急時にほとんど役立たずってわけか。



「アースの欠点だね。国という機構が複雑になりすぎていて、動きが鈍い」



 確かに、これがマギだったら王の――今で言うならルミニアの一声でありとあらゆる戦力が投入されるのだろう。



「困ったものだよ。マギでの戦争を終えて、つい十数分前にアースに帰ってきて、その直後にこの状況。頭が痛い」

「俺もですよ」



 タイミングが悪すぎる。


 いくらなんでも、《魔界》がこの時期にアースに現れるなんて。



「……君と翁は、《魔界》を以前から知っていたのだね」

「――ええ」



 問われ、頷く。


 《魔界》という呼称を使った以上は、ヴェスカーさんもじじいから以前俺達が《魔界》に遭遇したという話を聞いたのだろう。多分、俺が天利の病室に行っている間にでも。



「もっと前にそのことを聞かせていてくれれば、とは言わないよ。今更それを言っても仕方がないし、そこは君と翁の考えがあったのだろうし」



 その割には、視線に若干、恨めしそうな色が混じっているのだが。



「ただ、この戦い。一番前に出て戦うのは、君や翁だ。その覚悟は、決まっているのかい?」

「それなら、一応は」



 力ある者の義務、だとかそんな高尚なものではない。


 出来るからやる。


 それだけだ。



「勝てるかい?」

「勝ち負けはともかく、まあ俺とじじいは十中八九死ぬでしょうね。その死ぬタイミングが、一体どこなのか。問題はそこでしょう」

「……また随分と、自分の死を軽く言うものだ」

「怖がることなら、もう散々してきたんで」



 《魔界》の悪夢で、何度これまで飛び起きてきたろう。


 そう。恐怖心なら十分すぎるほどに味わってきた。


 これ以上はないさ。



「大切な人達を遺して逝ってしまうのかい?」

「遺せるなら、十分でしょう」



 全部消えてしまうよりかは、幾分マシだ。


 ……そうか。


 ああ、白状しよう。


 正直迷っていた。


 この戦いに、俺はどう臨めばいいのか。


 でも今の会話で気付いた。




「――俺は、遺すための戦いをするんですよ」




 自分は馬鹿だと思う。


 こんな、自分に何の得もない、損ばかりの選択をするなんて。


 でも一度選んでしまったのだ。だから、仕方ない。


 それに、まあ……悪くないよな。こういうのも。



「……なるほど。なら、もう私はなにも言わないよ」

「そうして下さい」



 どうせ何を言われても、この意思を曲げる気はないし。


 ヴェスカーさんは、微かに寂しげな笑みを浮かべた。



「そういえば、他のやつらは?」



 ヴェスカーさんだけがこっちに来ている、ということはないだろう。



「リリシアとアイさんが私と一緒に戻ってきているよ。流石に他は、マギをすぐに抜けだせはしないからね」



 まあ、王権を奪い取った直後にその戦いに参加した面子がアースに出向くなんて、無理か。



「あの二人は今、病室に行っている」

「……そうですか」



 誰の病室か、と問う必要はなかった。



 ベッドに臥す悠希を見て、私は耐えられずに病室を飛び出した。


 廊下に飛び出して、誰かにぶつかる。


 明彦だった。



「っ……明彦!」

「……どうしたよ、アイアイ。そんな泣きそうな顔して」



 少し不自然な笑顔で、明彦が言う。



「だって、悠希が……!」

「ああ、大変なことになってんなあ」



 明彦の手が、私の頭に置かれた。



「まあ、そんな顔するなよ。そんなんじゃ、アマリンに情けないって怒鳴られるぜ?」



 くしゃ、と。


 撫でられて、髪が乱れる。



「アマリンなら大丈夫さ。今はそう信じて、アマリンが戻ってくるこの場所を守ろうぜ。な?」

「……」



 そうだ。


 明彦の言う通り。


 こんな悲しんでいるばかりではいけない。


 それじゃあ、本当に悠希に怒られてしまう。


 目尻に溜まった涙を拭う。


 そして、顔をあげた。



「……行こう。明彦」

「おう。行こうぜ、アイアイ」



 目の前が真っ暗になったかのように感じる。


 どうにか、倒れるのだけは免れる。


 ……ベッドの上に横たわる、佳耶。


 その身体は、どこまでも傷だらけ。


 佳耶の状態を誰かが説明してくれているが、ただ、絶望的な状態、ということくらいしか理解できなかった。


 虚脱感。


 次いで、荒れ狂う怒り。


 奥歯が砕けるのではないかというほどに噛み締める。


 よくも佳耶を……!


 病室の窓の外。


 虹色の空と、そこから生える根。そして柱を睨みつける。


 叩き潰す。


 そう決めた。


 何に代えてもあれだけは滅ぼす。


 私は、静かに病室を出た。






すげえこじつけ……。

専門知識もなにもないので、正直そういうことに詳しい方が読んだらおかしい点は多々あると思います。

とりあえず大切なのは、このままじゃ世界が終るよ、ってことですね。

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