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7-14


 視線の先にいるのは、巨大な蛇と、竜が四匹。



「麻述。まず、あの蛇からやるわよ」

「了解」



 天利の指示に、私はチェーンソータイプの大剣を取り出した。


 刃の回転音が響き渡る。



「派手な武器ね……」

「そりゃ、ほら。戦いは勢いだから。ノリは大切でしょ?」



 天利は肩を竦めると、微かに笑った。



「なら勢い任せであの蛇、さっさと叩き潰しましょ」

「だね」



 二人で頷き合って……そして、私達は同時に駆け出した。


 一歩ごとに、身体中に痛みが伝わる。


 それでも、動きは淀みはしない。


 ……でも。


 隣を走る天利を見る。


 よくもまあ、平然とした顔が出来るものだ。


 さっきまで心臓すら止まっていた癖に。


 私と違って普通の人間の身体の癖に。


 鎮痛剤も使ってない癖に。


 普通だったら痛みで身体なんて動かせるような状態ではないだろう。


 ……強いなあ。


 めちゃくちゃ、強いな。



「先、行くわよ」



 天利が加速した。


 っ、まだスピード出せるの?


 どんだけ馬鹿げた運動神経してるんだ。


 いっそ呆れながら、私は右に跳んだ。


 遅れ、そこを竜の尾が叩く。


 私はその竜の尾の上に飛び乗った。


 すると、竜の尾が勢いよく振りあげられて、私の身体が勢いよく空高くに打ち上げられた。


 大剣を両手で、思いきり振りかぶる。


 そして……投げた。



 背後で激しい土煙があがる。


 竜の尾が振り下ろされたのだろう。


 そんなことは知ったことではない。今はそちらに構う暇などないのだから。


 迫るのは、蛇。


 ……じわり、と。


 胸の奥で、熱い炎が迸った。


 怒りだ。


 身体中を蝕む痛みの分だけ、その炎が強い輝きを放つ。


 よくも、やってくれたな……。


 絶対に、百倍返しにしてやる!


 その意思を胸に、飛び出す。


 迷わず、蛇の懐に潜り込んだ。


 私に、蛇の片頭が襲いかかってくる。


 それを身を軽く捻って回避。


 私はもう一方の頭に、レールガンの銃身を向けた。


 そちらの頭が、牙をむき、私に喰らいつこうとしてくる。


 その刹那。


 トリガーを引く。


 雷光が、蛇の口内に襲いかかった。


 だが――。


 蛇の頭は、はじけ飛ぶこともない。


 ただ牙の数本が欠けたくらい。


 口内に攻撃して、これだけのダメージか。


 舌打ちする。


 けれど……まあ、いいか。


 蛇の片頭は、レールガンを口内に受けた衝撃で大口を開けたまま空を向いていた。


 ――麻述とは、何の打ち合わせもしていない。


 しかしまあ、気が合うのだろう。


 ナイスタイミング、だ。


 その時。


 空から、何かが振ってきた。


 高速回転するそれは……刃がチェーンソーになった、大剣。


 それが、開いたままの蛇の大口の中に飲み込まれる。


 上顎と下顎が、裂ける。


 大剣の回転刃は、そのまま蛇の咽喉の奥深くまで潜り込み……緑色の血液が、驚くくらいの量噴き出した。


 大剣そのものの重量に刃の回転、落下の速度、さらに口内という比較的柔らかい部位への命中。


 それらの要素が、この結果を生み出していた。


 ――と。


 また、空から何かが落ちて来た。


 それは蛇の咽喉に突き刺さった大剣の柄の上に。


 麻述だ。


 麻述が大剣の柄の上に立ったのだ。


 衝撃で、大剣がさらに蛇の奥深くまで突き刺さる。


 と同時に、麻述の足から、嫌な音がした。


 骨の折れる音だ。


 一瞬だけ彼女の表情が歪み、しかしすぐに跳んで、私の横に着地した。


 蛇の肩頭が、地面に倒れる。


 その口内に突き刺さる大剣が霧になって麻述の身体に染み込んでいく。



「……大丈夫なの?」

「なにが?」



 きょとん、と。尋ねられた。



「なにがって……脚」

「ああ」



 麻述が、軽くジャンプして見せる。



「大丈夫。骨折れてもゴーストで補強できるから。それに今更骨なんて言っても……ぶっちゃけ、もう全身の骨の七割は粉々になってるよ?」



 ……それは、そんなあっさり言うことなのだろうか?



「人間離れしてるわねえ」

「でしょ? まあ、そのお陰でいろいろ無茶出来るわけですよ」



 と。


 無事な方の蛇の頭が、甲高い悲鳴を上げた。


 それは悲しみなのか、怒りなのか。


 区別はできない。


 だが……。



「やっぱり、片方潰しただけじゃ駄目か」

「みたいだね」



 二人で後ろに跳ぶ。


 竜の前足が私達のいた場所に下ろされる。


 さらに、他の龍が顎を開けてこちらに首を伸ばしてきた。



「面倒ね、まったく!」

「同感」



 舌打ちして、その竜の顎も避ける。


 避けざまにレールガンをその口内に放っておいた。


 だが……まあ、案の定、とでもいうのか。


 無傷。


 牙の一欠けすらない。


 全くの、無傷だ。


 ……ていうか、さ。


 あっちのほうでなんか一匹竜の死体っぽいのがあるんだけど……。



「あれ、麻述がやったの?」

「うん、そうだけど?」



 ……強すぎる。



「ちなみにどうやって?」

「いや、普通に身体中がぐちゃぐちゃになるくらいに高い位置からゴーストで加速しながら頭をブチ抜いたんだけど?」



 ……聞かなきゃよかった。



「ぶっちゃけこの戦い終わって身体の検査するときが怖くて堪らないんだよねえ。うん、多分しばらくは流動食なのは確定でしょ? あはは」



 ほ、本当に聞かなければよかった……!


 それは笑って言うようなことじゃないでしょう!?



「ま、それはいいとして……今はあの蛇に、とどめさしにいこうよ」

「……そう、ね」



 改めて、蛇を見る。


 蛇の叫びはとまり、無事な頭が、私達を睨みつけていた。


 私達は、竜の方も警戒しながら、蛇に跳び出そうとして――、




 巨大な爆発が、竜達を、蛇を、襲った。




「……は?」

「……へ?」



 麻述と私の、間の抜けた声。


 なに、今の。


 どこから……。


 視線を巡らせる……までもなかった。


 気付けば、辺り一帯。


 そこらじゅうに。




 武器を構えた人々が……SWが、いた。




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