7-11
レールガンで群がる大蛇を貫く。
肉片や緑色の血液が飛び散り、壁や天井、床にへばり付く。
そしてその残骸を押し流すように……さらなる蛇の群れ。
キリがない……っ。
私は背後にレールガンを向けると、引き金を引いた。
そこにあるのは、階段。そしてそれをふさぐ大蛇の死体。
死体の一部が砕け散る。
っ、邪魔な……!
死体は、もう大分ボロボロになっている。
私が前からくる大蛇を撃ち抜きながら、この死体を撤去しようとして何度もは射撃しているのだ。
でも……この死体、上手くどけられない。
というか、死体になったら、なんだか生きている時よりも硬くなった気がする。
そういう性質でも持っているのだろうか。
ああ、もう!
「面倒臭い……!」
ついでにすごいピンチじゃないのよ!
舌打ちとともに、さらに死体に雷光を叩きこむ。
そうして……やっと、だ。
やっと死体が砕け、その向こう側に通じる。
よし……っ!
すぐさま、私は階段を駆け降りた。
そして……階下。
そこに、蛇が群がっているのを見つけた。
「――っ!」
咽喉が引き攣る。
階段を、これ以上降りられない。
というか、最悪だ。
状況を打開したつもりが……さらに自分の首を絞めることになるなんて。
これで、大蛇が……上下から襲ってくる。
私は踊り場で、二方向からやってくる蛇を睨みつけた。
逃げ場は、ない。
私は片手でレールガンを構えると、もう片方の手でナイフを引き抜いた。
まず、一匹。
全身をバネのようにして、蛇が飛び出してきた。
身を屈めて、脚を思いきり突きあげる。
私の爪先が蛇の顎の下をとらえ、その巨体の進路を僅かにずらす。
そのせいで、蛇は踊り場の窓を突き破り、そのまま外に落ちて行った。
……あ。
それを見て、ふと閃いた。
馬鹿げた作戦。
作戦とすら呼べない蛮行。
けれど……やる価値はある。そう思った。
下から蛇が数匹、這い上がってくる。
丁度いい。
私は口元に笑みを浮かべると、踊り場の窓枠に腰を下ろした。
「……来なさい」
私の言葉が理解できた、というわけではないだろうけれど。
一斉に、蛇が私に襲いかかってきた。
その戦闘の一匹の額に、ナイフを投擲する。
ナイフが突き刺さり、その蛇が生命活動を停止する。
しかし死体になっても、それは勢いのままに私に襲いかかってきた。
私はその死体に……しがみついた。
蛇の腹に滑り込むように腕をまわし、しっかりと掴む。
そうして、その死体と共に、空に飛び出した。
腹の中身が全てひっくりかえるような感覚。
虹色の空が視界に移りこんだ。
直後。
私は、蛇の腹を蹴っていた。渾身の力を込めた脚で。
死体の落下速度が上昇し、そして私は……死体を蹴った反動で、飛び下りた階から二階下の階段の踊り場に飛び込んでいた。
激しい衝撃。
全身を殴りつけられるかのようだった。
踊り場に飛び込んだ私の身体はそのまま、階段を転げ落ちる。
頭だけはぶつけないように守りながら転がる。
そして、床につく。
「っ、く……ぅ!」
視覚が真っ赤に染まったような錯覚。
全身の痛みを誤魔化すために奥歯を軋むくらいの強さで噛み締めて、よろよろと立ち上がる。
周りを見るが、蛇の姿はない。
……ここには、いない、か。
安堵して、溜息をつく。
レールガンを肩にかけなおすと、私は歩きだした。
……っ。
足首を捻ったらしい。
熱い痛みに、歩きずらい。
それでも休む暇なんてあるわけもない。
私は自分の身体に無理をいわせて、階段を降りはじめた。
途中で蛇に遭遇すると言うこともなく、私はそのまま無事に一階にたどり着いた。
そして、エントランスホールに入る。
……そこに、いた。
蛇が。
たった一匹の蛇が。
けれどその蛇は……他のものとは比べ物にならないくらいに、大きい。
しかもその頭は二つに分かれ、尾が四つ。
頭と尾の付け根は、球根のような、気味の悪い丸い胴がある。
これ……親玉?
乾いた笑みが、口元に浮かぶ。
これはまた……強そうなことで。
一歩、後ずさる。
こんなものの相手、わざわざしてられない。
まだ見つかっていないし、さっさと逃げてしまうに限る。
……そう思った端から、不運が起きた。
天井から、小さな礫が一つ、落ちて来たのだ。
私はそれが地面に落ちる前に受け止めようと手を伸ばし……掌の上に礫が落ちる。
ほ、と。
胸をなでおろし――もう一つ落ちてきた礫が、地面とぶつかり、かつん、という小さな音をたてた。
――っ!
ぶわり、と。
冷や汗が背中から噴き出した。
そっと、視線をあげる。
お願い、気づいてないで。
そう祈りながら、私は…………二つ頭の四つの瞳と、視線を交わせた。
あー……。
次の瞬間。
私の身体を、巨大な尾が横から打ちつけた。
咄嗟に尾が打ちつけられた方向とは逆に跳んで威力を軽減させたものの、それでもその威力は強大で……。
身体がエントランスホールの壁に叩きつけられた。
†
「行くわよ、隼斗」
「おう」
私達は葬列車に乗りこむと、そのまま全速力で危険区域に突入した。
既に生きた人間はほとんどが避難を終えたらしく、街中にあるのは、異生物の息遣いばかり。
ちらほらとその異生物と戦うSWの姿が見える。
「……また、戦う義務もないのに、皆よくやるわねえ」
「そりゃ俺達もだろ?」
「違いないわ」
隼斗と笑い、葬列車を街の中心部目指して進ませる。
とりあえうは、残っている一般人の捜索。それに負傷したSWの回収。そこらへんが私達の役目ね。
いざという時は速射砲を使って敵を倒すことも出来るし。
ただ……街中であんな馬鹿みたいな威力のものを使ったら、流れ弾で普通にビルとか倒壊しそうで怖いのよね。
もう街がこんな悲惨な状況になってしまった今となっては、今更なことかもしれないけれど。
そんなことを考えていると……不意に。
目を疑う光景が、目の前に現れた。
え……?
「おいおい……なんだ、ありゃあ」
隼斗が呆然と呟く。
私も、呆気にとられていた。
私達の視線の先。
この街の異界研がある。
そしてその門から……信じられない人数のSWが、街中へと駆け出していた。
――《門》を利用して、世界中からSWがこの街に集結しているのだ。
もはや日本の跡形もない。