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7-10



 身体が、ビルの壁面に叩きつけられた。



「ぐ……っ」



 内臓全部が潰れるような感覚。


 ゴーストで身体全体を強化しているから、破裂とまではいかないが……それでも、ダメージは大きい。骨も普通に折れたりしているが、そこはゴーストでなんとかカバーできる。


 私はそのままビルの壁を突き抜けて、その内部に転がりこむ。


 オフィスビルらしく、中には何台ものパソコンが並んでいる。 


 転がっていた私の身体は近くのデスクにぶつかって、それを大きく吹き飛ばすことでようやく止まった。


 即座に身体を起こす。


 と……私の開けた壁の穴が、勢いよく砕ける。


 私より遥かに大きなものが、突っ込んできたのだ。


 それは竜の頭。


 巨大な顎がこちらに向かって開かれる。


 慌てて私はビルの奥の方に飛びずさった。


 そして入ってきた方向とは逆の方向にある窓を、瞬時に作り出したナイフを投げて砕くと、そこから外に飛び出す。


 五階の高さから空に飛び出す。


 ……改めて、自分の身体に感謝した。


 よくもまあ……ここまで戦って無事なものだ。


 先程、私は竜の尾に叩かれ、その威力でビルの五階に叩き込まれたのだ。私でなければ普通にミンチになっている。


 空に飛び出した私は、背中に翼のようなグライダーを作ると、そのまま地面に向かって滑空する。


 その私の背後で、私の叩きこまれたビルが倒壊した。


 そうして、五匹の竜が姿を見せる。


 ――咆哮。


 ……うわぁ。


 空気がびりびりと渋れるように震えるのを感じて、溜息を吐きだす。


 どうしよ、これ。


 無理だって。


 普通にあの黒甲冑なみに硬いんだよ、あれ。


 さっきから攻撃してるのに、鱗の一枚もとれやしない。


 それが五匹だ。


 動きがそれほど速くないのは、救いだけれど。


 そういえば、と。


 ふと思い出す。


 何か前にやったゲームで、こんなのあったなあ。


 竜をハントするゲーム。


 その中でも特にでかい竜を倒すステージがあるんだけど……なんか、私今それリアルでやってるよね。


 しかも五匹。


 あと舞台は現代の都会。壊滅状態だったりね。


 あはは、笑えない。


 そんなことを思いながら、近くにあった二階建てアパートの屋根の上に着地する。


 ゴーストを刀にして、下段に構える。


 とりあえず、アレも試そうかな。


 刀に赤い霞が収束していく。


 私の体内の有機液体金属の濃度が薄れ、意識が朦朧としてくる。


 余計なものが削ぎ落され、頭の中に、ただ戦うということのみが残る。


 高濃度まで圧縮されたゴーストの刀を手に、私は屋根を蹴った。


 一番近くにいる竜の喉元まで飛び上り……刀を振るう。


 轟、と。


 風が渦巻き、赤い斬撃が刀から放たれる。


 それは竜の咽喉に吸い込まれるように命中し……鱗数枚を撃ち砕いた。


 ……鱗、数枚。


 なんて強度だろ。


 いっそ感心すらしながら、私は地面に下りた。


 陰りが差す。


 視線を上げると、今攻撃した竜とは別の竜が、前足を起こし立ち上がるような姿勢をとっていた。


 ……あ、マズ。


 即座に離脱する。全速力だ。


 次の瞬間。


 私がいた場所に、竜の体重が乗った足が落ちた。


 地面が激しく上下し、道路は跡形もなく砕ける。近くに立っていたビルが揺れに耐えきれずに倒壊した。


 衝撃で舞い上がる濃い土埃の中から、私は空に飛び上った。


 爪先を何かが掠める。


 遅れて、土煙が轟風によって吹き飛ばされた。


 これもまた、別の竜が尻尾を振るったのだ。


 その一振りで発生した風にのるように、グライダーで私は空高くまで舞い上がった。


 そこで私は、今度は槍を作り出した。


 槍は槍でも、刺突に特化した突撃槍だ。


 その穂先に、ゴーストが圧縮されていく。


 グライダーも分解され、槍の一部となった。


 当然、翼を失った私は、急速に落下していく、


 ――その落下の勢いこそ、望むところだ。


 私は槍をしっかりと両手で構え、一直線に落ちて行った。


 そう。


 竜の額へと。


 落下の勢いに、槍の一点の貫通力、さらに……。




 穂先が炸裂する。




 穂先から螺旋状に放出される赤い霧。


 それは槍を包み、その貫通力を強化する。


 そして……衝撃。


 なによりも最初に感じたのは、腕の骨が砕ける嫌な感触。


 次いで、別の何かが砕けた。


 鱗、だ。


 竜の額にある鱗が砕け、その下の肉へ、骨へ……そうして脳に、槍が突き刺さる。


 そこで限界を迎えた槍が砕け、ゴーストになって私の内側へと戻っていく。


 私は、落下の勢いを全て両腕で受け止めたせいで腕の骨が粉々に砕け、さらにそれで急襲しきれなかった衝撃で身体じゅうが悲鳴をあげる。


 ――竜の身体が、崩れ落ちる。


 いくら竜全体から見れば小さな槍と言えども、それが脳に突き刺されば無事ではすまない。


 ……生物の体の構造がアースと基本同じでよかった。


 これで頭に脳がなかったりしたら、目も当てられなかった。いちかばちかのかけだったけれど、私の勝ち、みたいだ。


 竜が崩れ落ちて、私も地面に投げ出される。


 私はとりあえず両腕の骨をゴーストで無理矢理くっつけて、補強した。


 力技の治療。その痛みたるや……普通に骨折しただけの方が、断然マシだ。


 他にもボロボロになった身体のいたる場所を動けるようにしていく。


 そうしてようやく、私は立ち上がった。


 一匹、倒した。


 けれど……残り四匹。


 しかも、あの目。


 お仲間をやられて、怒り心頭といった目だ。


 私の身体を、竜の咆哮が打ちつけた。


 ……ああ、もう。


 こんなの、どうすりゃいいのよ。


 私、何回も自分の腕ブッ壊したくないわよ……。



「……魔界が、アースに……!?」



 眩暈がした。


 なんて、こと。


 こなければいいと。


 永遠にこなければいいと望んだ未来が、ここにあった。


 俺が心底恐れる事態。


 馬鹿げてる。


 なんの冗談だ。


 ありえない。


 そう笑い飛ばしたいくらいだ。


 でも、俺にそれを知らせたじじいの目は真剣そのもので……そもそもじじいはこんな達の悪い腐った冗談をつくような人間ではない。


 ならば、やはり……これは現実か。



「どうして、こんな時に……!」



 まるで、狙い澄ましたかのようだ。


 よりにもよって、俺がアースを離れている時に。



「しかも、どうやら……お前が住んでいる街に、魔界は出現したらしい」

「――!」



 気付けば。


 強く握りしめすぎた俺の拳から、血が出ていた。



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