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7-8

 虹色の空が、今までにない強い鼓動を放つ。


 現れたのは――巨大な杭。


 否。


 その姿が徐々に虹色の空から這い出すにつれて、その正体が見えて来た。


 根、だ。


 幾重に絡み、様々な太さで伸びたそれは、まるで木の根。


 杭に見えたのは、その根の、ほんの先端の部分のみ。


 奇妙な光景だった。


 空から、木の根が出ているのだ。


 それもゆうに街一つほどを覆うのではなかという範囲で。


 その表面は、金属質な銀色に包まれている。


 と……その根から、何か細かいものが無数に降り注いだ。


 異生物。


 人の形をしているものがある。


 獣の形をしているものがある。


 虫の形をしているものがある。


 植物の形をしているものがある。


 アースの常識から全く外れた形をしているものがある。


 そんな、まるで統一感というものを感じられない生物群が、降り注いだ。


 そのほとんどは地上に落下した衝撃で潰れてしまうが、一部は落下に耐えきり、地上での活動を始める。


 そんな光景を、今ここに生きている人間全員が見上げ、愕然としていた。


 それは……あまりにも、絶望的な光景だったから。



 気付けば、トリガーを引いていた。


 雷光が遥か遠くまで撃ち出され、空から飛び出す根を捉え……弾かれた。


 っ……駄目、か。


 舌打ちを零す。


 この光景からして、明らかに、この現象にはあの根が深く関わっている。


 だからあの根をどうにか出来れば、と思ったが……あの巨大さに加えて、まともな強度でもなさそうだ。


 生半可な攻撃では通用しない。



「なんですかね、あれ」



 隣でバイクにまたがった神流原が一見冷静に……けれどその口元を引き攣らせて、呟く。



「そんなの、私だって知らないわよ……」



 こちらに向かって降ってきた生物をレールガンで吹き飛ばす。


 他にもいくつか異生物が落ちてくるが、それを誰かが撃ち落としている。



「とりあえず……なんだか、いつまでもここにいたら、まずそうね」



 私がそう言った瞬間、私達がいるマンションから数百メートル離れた位置にあるマンションの上に、巨大な――本当に巨大なダンゴムシのような生物が振ってきた。


 マンションはもちろん、圧し潰される。


 ……うん。



「無理ね、これは。逃げましょうか」



 そう言っている間にも、巨大生物が次々に降ってくる。


 とてもじゃないが……これは、殲滅なんで出来ない。


 すくなくとも、これだけの面子じゃ。



「どこに逃げても、絶体絶命な気がするんですけどね」

「そういうこと言わないでよ」



 いや、私だって少しそう思ったけど。


 というか……どうしよう。


 背中、冷や汗でびっしょりだ。



「とにかく、殲滅は諦めて、さっさと一般人助けて、私達も逃げましょ。これはもう私達だけでどうこうなることではないわ」



 ちらり、と。


 先程黒甲冑に殺されたSWの亡骸に視線を向ける。


 そして、それだけ。


 一瞬見ただけで、私はもうその亡骸には見向きもしない。


 顔は、しっかり覚えた。


 冥福を祈るのなら、後でいい。


 今は冷たくても、残酷でも、死体になんかを構ってはいられないのだ。



 空の根から降り注いできた異生物は、公園にも例外なく降り注ぐ。 


 それらを、地面に届く前に私の朽敗魔術が侵し、そしてそれらは空中で灰の粉末となって散る。


 朽敗魔術。


 生物の身体を、細胞の単位から破壊する魔術だ。


 実のところ、これの基礎は治癒魔術と共通している。


 治癒魔術は細胞を活性化させて、傷の回復を促進させたりするもの。


 けれど朽敗魔術は……細胞を限界以上まで活性化させ、自壊を引き起こさせる魔術。


 本当に、醜い魔術だ。


 とても治癒と根幹を同じ所に持つとは思えない。


 けれど今は……その力に、少しだけ感謝した。


 それがあるからこそ、私は今、ここにいる人々を守れているのだから。


 灰が降り注ぐ中、私はこちらに歩み寄ってくる皆見明彦に視線をむけた。


 あの列車のような乗り物に一般人を収容することは無事に出来たらしい。



「おーう、シスター。お疲れさん」

「……準備は?」

「いつでも行けるらしいぜ」

「なら、すぐにでも行ってください」



 言うと、皆見明彦が目を丸めた。



「行けって……もしかしてシスター、残る気?」

「ええ」

「……本気かよ?」

「本気も本気です。私は、残って出来るだけ敵の数を削りましょう」



 すると皆見明彦は軽く溜息をついて、頭を掻いた。



「まあ、シスターがそう言うならわざわざ止めたりしねーが、大丈夫なのか?」



 心配されて、ふと苦笑する。


 戦いにおいて、私が心配されるなどとは思いもしなかった。


 虐殺の魔女とまで呼ばれたこの私が心配されるなんて、少し滑稽だろうか。



「大丈夫さ。シアには、俺もついてるからな」



 ぎゅっ、と。


 陽一さんが、不意に私の手を握り締めた。



「……あれ、なにこのラヴ空間」

「俺とシアはラヴラヴだから仕方ないだろう」

「……陽一さん」



 そんなことを言われると、恥ずかしい。



「かー! あれか、愛の力は偉大ってやつかよ! これならオレがいちいち心配するまでもねえかな!」



 皆見明彦が地団駄を踏みながら言い放つ。



「ちくしょうもう心配なんてしてやらないからな!」

「かまいませんよ。元から心配などして欲しいとは思っていませんから」

「クールなシアもまたいいな」



 ……あの、陽一さん?


 嬉しいんですけど、もう少し空気を読んでください。


 いえ、本当に嬉しいですよ?



「もういい! オレ帰る!」



 どこに帰るんでしょうね。


 乱暴な足取りで皆見明彦は列車の運転手に一言二言かけてから、そこに乗り込む。


 列車が発進する。


 それが去るのを見送って……陽一さんの腕が、腰にまわされた。



「で、本当によかったんだな、残っても」

「はい」

「逃げても誰も責めないと思うんだがなあ」

「すみません。私は……それでも逃げたくないんです。強情者なので」

「そっか。なら、まあ行くか。もしかしたらまだ、逃げ遅れてる人とかいるかもしれないしな」

「そうですね。ならば、そういう人達を、すぐにでも助けてあげなくては」



 二人で視線を合わせ、少し笑むと……私達は、灰の上を歩きだした。



 葬列車の上に落ちて来た異生物は、殆どがその装甲にへばりつくように潰れていく。


 葬列車自体は、流石の装甲の厚さで、びくともしない。


 けれど時々、落下しても生き残る異生物がいるので、私はそれを適当に切り落としていく。


 目の前に異生物が落ちて来た。それを手にした剣でぶった切る。


 真っ二つになった異生物は私の両脇を掠めて、そのまま背後に消えた。


 ……葬列車の進路は、街の外に向いている。


 どうやら現在、自衛隊の地上戦力がこの虹の空が覆っている範囲を包囲しているらしい。まずは一般人をその包囲の外に連れ出すのが最優先だ。


 このまま順調に行ければいいけど……。 


 ――その刹那。


 脇のビルの壁が砕けて、その瓦礫の中から何かが飛び出してきた。


 ……うわぁ。


 今の私は、全力で嫌そうな顔をしているだろう。


 それは、また……ひどいものだった。


 大きく裂けた口。


 そこに覗く鋭い牙。


 紅蓮の瞳。


 黒い鱗におおわれた身体。


 地面をしっかりと掴む四本の脚。


 四足の竜、と。


 まあ、そう形容すればいいだろうか。


 全長十メートルはあろうかという生物が、葬列車の前に現れた。


 これ……言わなくても、やばいよねえ。



『……通せんぼかしら』

「……はあ」



 仕方ない。


 私は剣をしまうと、巨大な斧を作り出した。


 それを肩に担いで、葬列車から跳んだ。


 そのまま、竜の顔面近くまで飛び上り、斧を投擲。


 斧は竜の顔面にぶつかり、その鱗を数枚削って弾かれた。


 これまた、堅い。


 私の攻撃が癇にさわったらしい。


 竜が鼓膜が裂けるほどの方向を上げて、私を見た。



『佳耶……まさか』

「そゆこと。私が引きつけとくから、お先にどうぞ」



 こんなのの相手、私くらいしか出来ないだろうしね。


 皆見も強いけど、流石にこれは無茶だろう。



「まあきっちり後で追い付くから、気にしないでいいよ」



 わざと軽く言う。



『……そう。分かったわ』



 余裕がある状況でないのは雀芽もよく分かっているのだろう。



『気をつけてね』

「はいはい」



 葬列車が再発進する。


 ……さて。


 これは……うん。


 目の前の竜を見上げ、嘆息。


 頑張ろ。


 意気込んだ、次の瞬間。


 背後のビルが砕け、そこから目の前の竜と全くおなし生き物が二体、新しく現れた。


 さらに空から二体、竜が落ちてきた。


 計五体。


 …………あー。


 頑張ろう。


 ほんと、死なないように頑張ろう。


あれ、なんだろこの絶体絶命っぷり。

やりすぎたな。うん。

それでも自重はしない!

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