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7-5




 空は、虹色。


 そしてそこから、沢山のこの世界とは異なる世界の生き物が降りてくる。


 それを、私は見上げていた。



「シア……っ!」



 その時、玄関の扉が開いて、陽一さんが駆け込んでくる。



「無事か!?」

「陽一さん……」



 慌て切ったその様子からして、この現象のことを知るなり、会社からとんできたのだろう。


 そんなに心配してくれたのだと嬉しく思う反面、陽一さんがこんな危険なところに戻ってきたということが悲しくてたまらない。



「来て、くれたんですね」

「当然だ」



 言い切って、陽一さんが私を抱きしめた。



「すぐに逃げよう。幸い、ここからあの虹色の空の範囲の外に出るのは時間はかからないから」



 その提案に……けれど、私は頷けなかった。



「シア?」

「陽一さん……」



 彼を見上げる。


 こんな私を好きでいてくれる、彼を。



「私は、貴方と出会ったこの街が好きです。ここにいる人々も、好きです。なによりここには、貴方との思い出がある」



 そんな場所を……守りたい、と。


 願う。


 今まで散々人の命を奪ってきた私が願っていいことではないとは思う。


 それでも、願わずにはいられないのだ。


 そして、動かずにはいられない。


 目を背けられない。



「陽一さん……私は、戦います。戦うことを、許してくれますか?」

「……」



 陽一さんはしばらく黙って私をみつめていた。


 けれど……。



「シア。俺は、お前に危ないことをして欲しくはないよ」

「陽一さん……」

「でも……そんな強い目をしているお前を止めることは、俺には出来そうにない」

「陽一さん……!」



 彼の背中に腕をまわす。



「でも、一つだけ条件がある」

「条件……?」

「俺も、一緒に行く」

「え……」



 そんな。


 そんなのは、駄目だ。



「陽一さん。貴方には戦う力が……」

「おいおい、あんまり舐めないでくれよ」



 にやり、と。


 彼が笑む。



「これでも、臣護と真正面から殴り合えるくらいには鍛えてるんだぞ?」



 ……そういえば、陽一さんは格闘技をやっていた時期があるのだったか。


 臣護と殴り合える、というのは、正直凄いと思う。


 あれで、臣護はいくつもの死線をくぐりぬけてきた、歴戦の強者だ。ただの殴り合いとはいえ、それでも彼と同等ということは、陽一さんの能力は決して侮れるものじゃない。


 でも、だからといって……戦場に、陽一さんを出したくはなかった。


 陽一さんの目を見つめる。


 強い光がそこにはあった。


 陽一さんは、私の目を見て私を止められないと言った。


 ――同じだった。


 私にも、こんな目をしている陽一さんを止められる気がしない。


 微かな笑みがこぼれた。



「陽一さん……」



 彼の身体に、手を当てる。


 ――肌で、ずっと感じていた。


 あの虹色の空が現れてからずっと、忌々しく、懐かしい感覚を。


 それは、魔力。


 あの虹色の空の向こうからアースに、魔力が流れ込んできていた。多分、あの空がある限り、アースは魔力世界になるのだ。


 その魔力を制御して、魔術を行使する。


 陽一さんの身体の機能を底上げした。


 それは、身体強化剤を飲むのと同じ程度の強化。



「……ん、なにか、したか?」

「これが、私の戦う力です」



 陽一さんは、少し考えてから気付いたらしい。



「魔術……?」



 頷く。



「あの空のせいで、今のアースには魔力があります。私は……この時だけ、魔術師の私に戻ります」



 出来れば、見ないで欲しい。


 私の魔術は、ひどく醜いから。



「私の事、嫌いにならないでくださいね?」

「大丈夫だ」



 陽一さんが、私にそっとキスをした。



「そんな心配することない。俺はずっとシアのことを愛してるよ。だから、加減なんてなしに、やってやれ」

「はい」



 公園に避難して、どうにか人々が落ちつきを取り戻し始めた。


 さっきまでは全員が全員ひどく混乱していたが、今はすすり泣く声や、誰かの名前を呼ぶ声、励まし合いの声、この状況の理不尽さに憤る声などは聞こえているものの、それでも比較的マシになった。


 ……さて。


 遠くの方で、大型生物が次々に倒れていくのが高層建築の合間から見える。


 アマリンの方は順調みたいだな。


 ここからじゃ大型生物の残りがどれほどか、詳細な数は把握できないが、おそらくすぐに大型生物の殲滅は終わるだろう。


 そうすれば、あとは雑魚の始末だけか。


 その段階に入れば人々の非難もしやすくなるかねえ。


 思いながら、公園に侵入してきた異形の群れを斬り伏せる。


 本来なら手榴弾でも使って一掃したいところだが、それじゃあ人々に不安を与えそうだし、何よりこれから何が起こるかも分からないこの状況では温存できるものは出来るだけ温存しておきたい。


 ……にしても。


 背中にちくちくと刺さる、畏怖の視線に辟易する。


 どうにも、オレは怖がられてるな。


 こんなに異形を斬りまくっているせいだろうか。


 別にいいけどさ……。


 でもこんなに頑張ってるんだから女の子にかっこいいとか言われたい。


 無理な夢かねえ。


 なんて馬鹿なことを考えながら、とりあえず今視界にいる異形の最後の一匹を始末する。


 しばらくは休憩出来るかな。


 そう思った、次の瞬間。


 激しい轟音。


 地面が大きく揺れた。


 何事か。


 音のした方向に視線を向ける。


 公園の少し外側。


 そこに、大量の土煙が立ち上っていた。


 何かが落下したのだ。


 すぐにそう判断し、身構える。


 空気が軋む。


 肌で感じた。


 これは……マズい。


 今までオレの味方をしていた流れが、急にそっぽを向いちまったようだ。


 まだなにも起きていないと言うのに、嫌な汗が背中を伝う。


 自分の心臓の鼓動や呼吸が、鮮明に感じられる。


 ――土煙が揺れた。




 刹那。




 オレは刀を交差させ、その交差した刀に、黒い剣が叩きつけられた。


 刀が潰れないように上手く衝撃を逃がす。


 その勢いのまま、俺は後方に跳んだ。


 なんだ、こりゃあ。


 目の前にあったそれの姿に、眉をひそめる。


 一言で言えば、黒い西洋甲冑。


 遠目に見れば、黒い人型に赤い瞳が輝いているだけのようにも見えるだろうか。


 ただし、その両腕は手ではなく、左右にそれぞれ剣がついているのだが。


 そんなものが、いた。


 そして、その身体から放たれる気配は、常軌を軽く逸している。


 本能が警鐘をならしていた。


 一対一でこれに挑むのは無謀だ、と。


 けれど……。


 ちらりと、公園の真ん中に集まっている、一般人を見る。


 逃げだせねえわなあ。


 苦笑し……オレは、身を低くした。


 逃げられないなら、いっそ……!


 突っ込む。


 右下から潜り込ませるように刀を振るう


 それに、黒甲冑は右腕の剣を突き出して、オレの刀をあっさち受け止めて見せた。


 剣はびくともしない。


 どんだけ馬鹿力なんだよ。


 内心で毒づきながら、首を狙ってもう片方の刀を振るう。


 それも、やはり黒甲冑の剣で防がれてしまった。


 刀が剣に圧し返される。


 その異様な力に、少しだけ怯んだ。


 こりゃ、あの剣にあたったらオレの身体なんてあっさり刺身だろうな。




眠い!

眠すぎてテンションがおかしい!


っていうかシアかわえぇ。陽一の野郎……!

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