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間章 最強の敵来たれリ・二


「いいか。お前は今、ちょっとおかしい状態なんだ」

「……?」



 天利が首を傾げた。


 俺が何を言っているのか分からない、という顔。



「わたし、おかしくなんてないよ?」

「自分でそう思ってるだけだ」

「……」



 と――。



「ふぇ……」



 え?


 いや、あれ?


 あの……ちょっと、なんだそれ。え、その目尻に浮かんでるのって……、



「ふぇえええええええええええええええええええん!」



 泣いたぁああああああああああああああああああ!?


 あの天利が号泣だと!?



「うぇええええええええええええええん!」

「お、おい!」



 いきなり泣き出すなんて、一体どういうことだ!



「しまつきがいじめるぅ!」

「ち、違っ……!」



 別に俺はいじめてなんか……っ。



「わたしのこと、おかしいっていったぁ!」

「それは事実だろうが!」

「うぇえええええええええええええええええええええええええええええん!」



 泣き声がさらに大きくなる。


 さらに地面に転がってじたばたし始めた。


 って、おい!


 スカートでそんなことしたら……!




 ――とりあえず、黒だった。




 じゃない!


 一瞬ぶっ壊れた自分の思考を殴り飛ばして、慌てて口を開く。



「じょ、冗談だ! お前はどこもおかしくない!」

「ふぇ……ほんとう?」

「ああ、本当だ!」



 何度も頷く。


 泣きやんでくれるならどんな嘘だってついてやるさ。


 とにかくもう、本当にやめてくれ。


 天利が泣くところなんて、なんだかあまり見たいもんじゃない。 


 堂々としている方が、天利らしい。


 それに……なんだか天利の泣き顔が……なんというか、なんと言えばいいのか。少し表現に困るが、長く見ていたらどうにかなってしまいそうな感じだった。



「しまつき、わたし、変じゃない?」

「もちろんだ!」

「わたしのこと、すき?」

「いやいや、どうしてそうなる」

「ふぇ……」



 だぁああああああああああああああああああああああ!


 泣くな!



「好きだぞ! ああ、大好きだとも!」



 なにか自分がとんでもないことを口走っている気がするが、そんなの知ったことか。


 もうこうなったら自棄だ!


 俺が叫ぶと、天利の顔が泣き顔から一転、ふにゃりと笑顔になる。



「えへへ~」



 頬を赤らめて、天利が俺に飛びついてくる。


 ……いや、飛びついてくる!?



「うぉっ!?」



 天利の体重が俺にのしかかる。


 ……別に重くないからいいけど、しかしこう……いろいろと密着……いや、なんでもない。



「わたしもしまつきのこと、だいすきー」

「そりゃ……どうも」



 天利の精神は今、子供だ。


 子供の大好きってのがどのくらいの度合いなのかは知らないが、まあ大したことはないだろう。


 ……だというのに。


 なんだろう。


 少し……驚いた。


 驚いた、でいいのだろうか?


 ……むぅ。



「しまつき~」

「何だ?」

「わたしね、しまつきのおよめさんになる!」

「ぶっ……げほ、かはっ!」



 むせた。



「い、いきなり何を言い出すんだお前は!」

「だめ?」

「だめとかいう以前の問題だ!」

「……」



 天利の目尻に涙が……、



「だから泣くなぁああああああああああああああああああああああああ!」



 もう子供なんて大嫌いだ!



「わかった! お嫁さんにでもなんにでもしてやるから、泣くな! な?」



 もしかしたら俺は今人間として底辺の辺りにいるのかもしれない。


 身体は大人で心が子供、なんて普通の状態じゃない天利を嫁にとか……なにやっているんだろうか、俺は。


 やばい俺の方がちょっと泣きそう。



「やったあ! わたし、しまつきのおよめさん!」

「……ああ。そうだな」

「じゃあちゅーして!」

「――!!!!!」



 いやいやいや!


 それは流石に駄目だろ!


 いくらなんても越えちゃいけないところだ!



「そ、それはまた、今度な……?」

「だめなの?」

「ああ。そういうのは、な」

「どうして? しまつき、もしかしてほんとうは、わたしのこと……きらい?」



 うわぁ。


 また泣きそうになってる。


 ……誰か今すぐ俺のこと殺しにきてくれねえかなあ。


 そんな馬鹿なことを考える。


 若干自分が情緒不安定になっているのを自覚していた。



「くっそ……!」



 こうなりゃ、もうやってやる!


 後で天利に殺される覚悟は決めたぞ!


 というかこれは治ったあと天利に記憶残るのか! それといつ治るんだ!?


 こんがらがる思考を頭の隅に追いやって、俺は天利の肩をつかんだ。


 無邪気な天利の瞳。


 くっ……!


 柄にもなく、顔が熱くなるのを感じた。


 どうにでもなれ!


 覚悟を決めて……キスをした。




 ――頬に。




 唇になんて出来るわけねえだろうが!



「やったぁ!」



 しかしどうやら、天利はそれで満足してくれたらしい。


 跳び跳ねて、俺に抱きついてきた。


 ……あー。


 天利って意外と胸……なんでもない。


 とりあえず満面の笑みで俺に頬をすりつけてくる天利は一旦置いておいて、冷静に考える。


 とりあえず、ヴェスカーさんからの手紙には、この症状は短時間のものと書いてあった。


 その短時間がどれくらいかは知らないが、どれだけ長くとも半日ということはないだろう。


 それだけの時間、俺は耐えられるのか?


 いろいろな意味で。


 ……誰かに助けを求めるか。


 いや、駄目だ。


 天利がこんな状態になっただなんて、天利自身、きっと誰にも知られたくはないだろう。一応、天利がこんな風になったのは俺の落ち度でもあるし、配慮しなくちゃならない。


 だとしたら、俺がすべきことは……どうにか天利が正気を取り戻すまでこの状況を誰にも知られないようにすることか。


 ……天利って、本当に金属生命体なんかよりずっと厄介な相手だよな。


 深い溜息が出る。



「しまつきー。こーらのみたい!」

「あー、いいぞ。冷蔵庫の中にあるから勝手に取れ」

「うん」



 好きなだけ飲んでくれ。


 飲みもの飲んでる間くらいは静かだろう。


 ばたばたと天利が冷蔵庫からコーラを取って来る。


 あ。そんな乱暴に持ったら……。



「待――」



 止めようとしたが、遅い。




 プシュァッ!




「うわぁっ!?」



 天利が缶をあけた瞬間、コーラが溢れだした。


 そして、天利の服をびっしょりと濡らす。



「うぁ……ふぇ、うぇええええええええええええええええええええん!」



 そしてやっぱり泣きやがったぁああああああああああああ!


 もう嫌だ! なにこいつ!



「泣くな!」

「ご、ごめんなさい。ひっ、ひぐっ、う、ぁああああああああああああん!」

「こんなの服は洗えばいいし零れたのは拭けばいいだけだ! 気にするな!」

「う……ん」



 こくり、と天利が頷く。


 ……疲れた。


 とりあえず布巾で床に零れたコーラをふき取る。カーペットとか敷いてなくてよかった。



「それじゃ、服は……俺のを貸すから、それに着替えてこい。あ、でもその前に風呂入れよ? 身体がべとべとになるからな」



 天利の着れる服を出してこよう、と寝室の方に向かおうとして……服の裾を掴まれた。



「なんだ?」



 上目で、天利が俺を見上げる。


 そして、笑った。



「しまつきもいっしょにおふろはいるよね?」



 ……なんですと?



誰が予想したかお風呂イベント。

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