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間章 ネコとバイクとクッキング

「臣護サーン!」

「ん……?」



 異界研で、久しぶりに一人で異次元世界に出ようと思っていたところに、俺の名前を呼ぶ声。


 そちらを見て――見なかったことにしよう。



「ちょっ、今視線合いましたよね!? 臣護サン、待って下さいよぉ!」

「……」



 馬鹿でかい声あげやがって。


 注目されてるじゃないか……ったく。



「なんだよ?」



 振り返る。


 近づいてきたのは、少し身長の低い若い男。


 神流原響(かんなばらきょう)


 この異界研の整備班の一人で、俺のバイクを勝手に弄る、迷惑な改造マニアだ。


 どうせまた、改造案内だろうな……。



「見てくださいよ! これ!」



 案の定。


 神流原が見せて来たのは、一冊の冊子。甘園エンジンの商品カタログだ。



「甘園の新商品! バイクにつけられる小型ジェットエンジン! どうですか!?」

「……」



 ジェットエンジン……。


 パンフレットに載せられた、その写真を見て……まずジャンボジェット機の翼についているアレを思い出した。


 あんな感じで火を吹くのだろうか……バイクが。


 ……いやいや、無理だろ。



「バイクにジェットエンジン積むとか馬鹿すぎる。そんなスピード出したら、ちょっとコケただけで即死だろうが」

「えー、ハンドルしっかり握ればいいんですよー」

「無理だ」



 断言する。


 俺はプロのモータースポーツ選手でもなんでもないんだぞ。というか、プロですらそんなの乗りこなせるわけがない。



「そんなことないっすよー。俺のバイクにはとっくに搭載しましたし」

「したのか……!?」



 流石に驚く。


 こいつ、自殺志願者か……?



「いやー、いいスピードでしたよ!」



 しかも既に乗りこなした後!?


 なんだこいつ。化け物か?



「……とにかく、俺はそんなのはいらない。絶対につけるなよ」

「えー、そうっすか? 臣護さんならこのくらい扱いこなせると思うんですけどねえ」

「無理だって言ってるだろうか」



 そんなスピードのモンスターバイクに乗るくらいなら、俺は普通に加速魔術を使って移動するぞ。


 ……でもあれ、とんでもない速度になるから身体にすごい負荷がかかって、連続使用すると身体中痛くなるんだよな。


 まあ、それは今はどうでもいいか。



「話はそれだけか? なら俺はもう行くぞ」

「あ、待って下さい。じゃあ、もう一つ」

「……なんだよ?」



 神流原が、いやに明るい笑顔を浮かべた。



「今日は俺も臣護さんにお付き合いしますよ。一緒にバイクで駆け抜けましょうよ」

「……は?」



 風を切りながら、道なき道を車輪が進む振動を感じていた。


 ……どうしてこうなったのだろう。


 いや。それ以前の問題か。


 バイクに乗っているのは、まあいいだろう。


 移動手段としては普通に使えるしな。


 ただ……隣を並走するもう一台のバイク。


 そちらに意識を向けるのも嫌だった。



「ひぃーやっほーぅい!」

「……」



 車体は、紅蓮に燃え盛るような赤色。


 細く長く鋭い。そんなシルエットだ。


 二人乗りの設計らしくシートが広く、そこに二人の男が座っていた。


 一人は、ハンドルを握る神流原。


 テンションが異様に上がっていて、さっきから無駄に叫んだりしている。


 そして、その後ろに座っているのは……コック帽をかぶった料理人。


 ――何を言っているか分からないだろう。


 だが、本当にそうとしか言えないのだ。


 まさにコック、という風体の男がそこにいた。神流原が連れて来たのだ。


 異界研の食堂のコック長だ。確か名前は、近藤(こんどう)武蔵(むさし)といった筈。


 何故かしらないが、近藤の口には×マークの書かれたマスクが着けられている。なんでも、料理に言葉は不要、だという意思表示らしいのだが……ここは厨房じゃないから外したらどうなのだろう。


 その二人が大型バイクに相乗りしている姿というのは……しかも場所が異次元世界というのだから……混沌、カオスだ。


 そもそも、こいつらSWの免許持ってたんだな……初めて知った。



「っていうのか、いいのか?」

「ん、なにがですか?」

「ここ、結構危険度高い世界だぞ。お前ら、武器一つも持ってねえだろ。どうするんだよ、何か出たら」

「それなら問題ないですよ」



 あはは、と神流原が気楽に笑う。



「……何が大丈夫なんだ」



 と、呆れて溜息をついたところで……目の前の岩陰から、巨大な影が飛び出してきた。


 ……おいおい。


 言った側から、これかよ。


 それは、まるで蛇と熊を賭け合わせたかのようなアンバランスな生き物だった。


 熊の上半身と、蛇の下半身。


 しかも、その隊長は優に百メートルを超えている。


 くそ……仕方ない。



「俺が片付けるから、どっか隠れてろ」

「いやいや、ここは俺らにカッコつけさせてくださいよ」

「何言ってるんだ。お前、こんなの相手にやれるわけ――」

「臣護サン。舐めすぎっすよ」



 神流原の眼が、すっと細められた。


 と、神流原のバイクの装甲が割れて、そこから何かが飛び出した。


 刀だ。


 黒い、鍔のない無骨な刀が、空中に投げ出されていた。


 それを、受けとめる姿。


 近藤がバイクから跳んで、空中で刀を掴んだのだ。


 そのまま、近藤は地面に着地すると、身を低くして駆け出した。その速さに、目を見張る。


 明らかに素人の動きじゃない。


 近藤はそのまま熊蛇の腹の下にもぐり込むと……地面を蹴った。


 その動きに合わせて、閃き。


 次の瞬間。


 近藤が再び地面に脚を付けて……熊蛇の腹が、一文字に裂かれた。




 ――ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!




 熊蛇が、大量の出血と共に絶叫を吐きだす。



「……なんだ、今の」



 正直……刀の振りが速すぎて、目で追えなかった。



「確かなんとか流暗殺剣術、とか言ってた気がしますね。師範代を名乗ることを許可されてるらしいです」



 暗殺剣術って……おい。


 どこのマンガだよ。


 しかもその師範代って……とんでもないんじゃないのか?



「っと、俺も負けてられないですね」



 言うと、神流原がハンドルにあるスイッチを圧し込んだ。


 甲高い音。


 なんだ、と思って音の元を探して……それが神流原のバイクの後輪付近からしてくることに気付いた。


 ……まさか。


 恐る恐る、それを見る。


 神流原のバイクに搭載されたジェットエンジンが、振動していた。



「ちょ、おま……待っ……!」

「ひゃはははははははは――!」



 止める暇もなく、ジェットエンジンから火が噴き出し、神流原のバイクが一瞬で驚異的な加速をして、俺を置き去りに熊蛇の下へと向かって行った。


 ……そのバイクの前輪と後輪のそれぞれ上の辺りから、巨大な刃が生えて来た。


 いやいや。


 なんだあのギロチンみたいなのは。


 さらに、側面から細い筒が飛び出す。おそらくは、機関銃の類。


 これはなにかの悪夢なのか……そんな俺の考えを馬鹿にするように、神流原のバイクが跳ねあがった。


 そう。


 文字通り、跳ねあがったのだ。


 バイクのタイヤが地面を蹴るように跳ね、その車体が宙に浮く。


 そして――その二つの車輪が、熊蛇の尻尾の上に着地した。



「さぁて! いきますかねえ!」



 ジェットエンジンがまた、火を吹く。


 熊蛇の尻尾の上を、バイクが疾走した。


 そうしながら、バイクの側面にある銃口から、大量の銃弾が吐き出され、それが蛇熊の体表を少しずつ傷つけていく。


 熊蛇の尻尾が神流原を振り落とそうと、大きく揺れた。


 しかし神流原は、それより早く自らバイクの車体を宙に飛ばしていた。


 そして縦回転なんてことをしながら地面に落ちていく。その過程で、バイク前後の刃が熊蛇の身体を何度も傷つけていった。


 無事、バイクは地面に着地した。どうしてあんな回転をしておいて無事に着地できるのだろう。意味が分からない。物理法則はどうした。


 熊蛇は、二人に痛めつけられて戦意を喪失したのか。逃げだそうとしている。



「逃がすか!」



 神流原のジェットエンジンに再び火が入る。


 加速が始まる直前、近藤が神流原の後ろに立った。


 ――って、立った!?


 そして加速する。


 近藤の身体は少しも揺らがない。


 どうしてあの加速の中で平然と立っていられるんだ!?


 俺の驚愕など知ったことではないと、二人の乗ったバイクは一瞬で熊蛇の背に乗り上げ、さらにそのまま頭の辺りまで昇ってしまった。


 熊蛇がそれを振り払おうとするが、遅い。


 バイクの機関銃から弾丸がばらまかれ、そのうち一つが熊蛇の片目を穿つ。


 苦しみもだえる熊蛇の頭上に、バイクから跳んだ近藤の姿が舞った。


 刀を逆手に構えて、近藤が熊蛇の脳天にその剣尖を向けた。


 そして――その黒い刃が、肉を貫き、骨を貫いた。そうして、致命的な一撃が熊蛇に与えられた。


 沈黙。


 遅れて、熊蛇の巨大な身体が……倒れた。地面が大きく揺れる。


 さらに遅れて、神流原と近藤が乗ったバイクが地面に降りる。


 ここで初めて、そのバイクのブレーキ音。



「ふぅ、すっきりしましたねえ」

「……」



 神流原と近藤が清々しそうに倒れた熊蛇を見上げた。


 その二人の姿を、俺は呆然と見つめていた。


 っていうか神流原、大分性格が変わってなかったか? ひゃはははははは、とか高笑いしてたし……。


「そうだ、近藤さん。どうせだしメシにしましょうよ。いいでしょ?」

「……」



 近藤が力強く頷き、刀を片手に熊蛇に歩み寄る。


 ……刀で調理するのか?


 あれ、なんだろう。


 おかしいな。


 なにがってそりゃ……なにからなにまで、全部今の状況がおかしいだろ。


 なんだこいつら……。



「臣護さんも食べますよねー?」

「……ああ」



 もうなんだか、考えたくもない。


 こうなったら自棄食いしよう。そうだ、それがいい。


 それで帰ったら、天利に愚痴をこぼそう。なんだか、今はすごくそうしたい気分だ。


 

 ちなみに流石コック長だけあって、満足な調理道具もないのに、出来あがった料理は上手かった。



「……神流原響。甘園エンジン専属SW、第一位。近藤武蔵。テレーズ社専属SW、第一位」



 パソコンのミニターに映るその情報を読みあげて、乾いた笑みを口元に浮かべる。


 帰宅して、気紛れであの二人の名前を調べてみたのだが……結果は、とんでもないな。



「なんでそんなやつらが整備班にいたりコック長してたりするんだよ……」



 崩れ落ちる。


 とんでもねえ大物達じゃねえか。


 そりゃ、道理で滅茶苦茶強いわけだよ……。






うん。作者、疲れていたんだ!

という言い訳。

ねむねむ。

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