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 地面に倒れて、空を見上げる。ゆっくりと、琥珀が世界を包みこんでいく。


 そんな透き通った空とはまったく正反対のように、俺の頭の中では釘を金槌で撃ちつけられるかのような激痛がのたうっていた。頭だけじゃない、力技で魔力を圧縮したせいで身体中どこも重症だ。



「綺麗な空よね、本当に」



 歩いてきた天利が俺の横に腰を下ろす。



「皆見とアイはどうしたんだ?」

「気絶してる。皆見は両腕変な方向に曲がってるし、アイは脇腹に穴空いてたけど止血しておいたから……まあ、あと二時間は死なないでしょ」



 そう言う天利も、随分な有様だ。


 裸足の脚からは皮膚を剥がれたように大量の血が滲み、腹や肩が露出して痛々しい傷が晒されている。



「俺達が生きているうちに助けがくればいいんだがな」

「そうね」



 ここまでやったんだ、どうせならちゃんと生きて帰りたい。


 助けが遅かったので失血死、なんてのは笑い話にもならないぞ。



「……」

「……」



 穏やかな沈黙。


 それを破ったのは、俺だった。



「なあ、」



 どうせ暇なんだ。会話で暇を潰すのだって、悪くない。



「この世界に来て、まだ二時間くらいしか経ってないんだぞ?」

「……嘘ね」

「嘘じゃないさ」



 俺だって驚きだがな。


 まさかそれだけしか時間が経ってないなんて……それほどにこの二時間は密度が濃かったってことだろう。


 まあ、何度も死にかければ嫌でも密度は濃くなるだろけどさ。


 倒れこむように、天利の上半身が倒れる。


 二人で並んで地面に転がる形だ。



「あー。身体中痛い……泣くわね、これは」

「泣け」

「嫌よ」



 どっちだよ。



「不思議よね。こんな傷、普通の人間ならショック死してたっておかしくないでしょ」

「まあ、俺達は頭がどっかおかしいように作られてるからな」



 でなければSWになんてならないし、こうして生き残っていられない。


 一説じゃ強化剤の副作用は強化作用がゆっくりと身体を変異させていくとも言われているが、案外その辺りも関係しているのかもな。


 そんなのはどうでもいいことだけど。



「あんたね、そこで少しは気の利いた言葉の一つも言えないの?」

「気の利いた言葉ってどんなだよ?」



 天利は少し考えてから、



「私が強いから平気なんだよ、とか?」

「なんで俺がそんなこと言わなくちゃいけないんだ」



 そもそもそれは気が利いてるのか?



「駄目ね」

「駄目で結構。そういうのは皆見に任せておくよ」



 俺に気遣いとかは向いてない。



「ま、あんたはそれでいいのかもね」

「どういう意味だ?」

「別に?」



 にやりと笑って、天利は俺の顔を見た。



「ただ、あんたは普通に、そのままぶっきらぼうで捻くれてたほうが似合ってるって思っただけよ」

「そうかい」



 自分でもとことんそう思うよ。



「ねえ?」

「なんだ?」

「帰ったら、デートしようか?」

「……は?」



 なんだこいつ。


 頭おかしくなったか?



「いや、皆見が私とデートしたいっていうから、それなら嶋搗ともデートしないと不平等かな、と」

「馬鹿か」



 溜息が口から出た。


 なにが、不平等かな、だ。



「そんなところで平等にされても嬉しくない」

「つれないわね」



 大体デートって、皆見もなに言ってるんだか……。


 命懸けの戦いの後だぞ。そんな呑気なことでいいのか。


 ……いや。いいのか。


 これが、SWの、俺達の生き方なら、それで間違いはないんだ。


 どんな状況でもデートの約束をとりつけるのが皆見の生き方で、俺や天利や、アイにだってそれぞれの生き方がある。


 それを通すことが、正解なんだろう。



「だいたいデートなんてする必要はないだろう」

「なんで?」

「いつも二人で異次元世界に言ってるじゃないか。デートならそれで十分だ」

「……」



 呆けたような表情。


 それが一瞬後に、盛大に崩れた。



「っ、ぷ、はははははははは! は、お腹が、身体中が痛い! あ、あんた馬鹿じゃないの!? あはははは!」



 目じりに涙すら滲ませながら、天利が大声で笑いだした。


 そんな腹の底から笑うもんだから、身体中の傷口が開いてしまう。



「な、なんだ?」



 ホラー映画に出てきても十分に通用するような天利の様子に戸惑う。


 なにがそんなにおかしいんだ?



「あんた、異次元世界に一緒にって……そんなのデートって言わないわよ。っふふ、それどんな血生臭いデート?」



 ……そうなのか?


 世間一般的に、別に男と女が気軽に一緒に出かけたら、それをデートって呼ぶんじゃないのか?



「辞書にだって、異性と出かけることがデートって書いてあるぞ?」

「天然か! あんた実は天然なのね!? 普通、そんな字面通りに受け取らないって」



 意味が分からん。



「く、ふふ……あー、おかし」



 俺の理解の届かないところで大爆笑していた天利が、ようやくその勢いを治めた。



「でも、そうね」



 いつの間にか手にした空気砲を俺に突きつけて――おい、なんでそうなる――天利はもう片方の手で目尻に溜まった涙を拭う。



「それが、私達にお似合いのデートか」



 ばん、と。


 手の動きだけで銃弾を放ったようなジェスチャー。



「なら嶋搗。私達は、これからももっとデートをしましょう」












「でも、ここまで危険な世界はもうやだ」

「全面的に同感させてもらうとも」







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