6-13
王軍総勢千の魔術師を引き連れ、我は王宮に上陸した。
「これは……」
「酷いものですな……」
両脇に控える第二席と弾三席が、そんなことばを口にした。
なるほど、確かに酷いというのであれば、これは酷い。
崩れ落ちた建物。破壊しつくされた魔術加護。倒れ伏す死体。
酷いものだ……。
本当に――このような無様を晒すなど、酷く下等な連中めが。
賊軍に敗北し、マギの中心である王宮をここまで破壊されるなど……唾棄すべき愚か者どもめ。
しかも、この死体の数……少なすぎる。
多くが逃げるか、あるいは捕まるかしたのであろう。
逃げる、捕まる。
は……なんとも優秀な魔術師だことだな。
「第二席、第三席……」
「はい……」
「すぐにでも賊軍の討伐に――」
「違う」
勘違いをするな。
我が今命ずるのは、そんなことではない。
「更地にしろ」
「……は? あの……」
「王。今……なんと?」
ふん。
こ奴らの耳は節穴なのか。
「このような敗北を刻んだ土地など我に相応しくない。いっそ全て壊し、更地にして、新しい王宮を立て直せ。そう言っているのだ」
我の言葉に、二人が動揺を見せる。
「で、ですが王……王宮は、歴代の王が在した地。そのような事をしてしまって、構わないのですか?」
「構わん」
即座に答える。
こんなこと……迷うこともないだろう。
「時代が変わるのと、これも同じだ。古く汚れたものは不要。新しく潔白なものこそが至上なのだ」
「まったく同意見ですね、父上」
若い女の声。
効き憶えのあるものだった。
「――っ、ルミネスウェニア姫!」
突如として我らの目の前に、まるで幻影であるかのように現れたのは、ルミネスウェニア。
我の実の娘……第二王女。
全員で五人いる子の中で、最も優秀な者だ。
「ご無事でしたか!」
「止まれ」
ルミネスウェニアに歩み寄ろうとする第二席を制する。
と同時、我は魔力弾をルミネスウェニアに放った。
「な――王。なにを!?」
「黙れ。見てみよ」
我の視線の先。
魔力弾はルミネスウェニアの腹を貫き……そしてルミネスウェニアには傷一つなかった。
魔力弾が、ルミネスウェニアの身体を通り抜けたのだ。
「これは……!」
幻の類、か。
魔力は、感じぬな。ということは、やはり……。
「流石は父上。今回の件、既に気づいていましたか」
ルミネスウェニアは不敵に笑みと、肩を竦めてみせた。
「これだけ大規模な反乱だ。そんなことを画策し、そして実行に移せる人物など……貴様以外おるまい」
「これは……また随分と評価していた代散るようで。嬉しい限りですね。立体映像越しに言われたというのが残念でならない」
我の言葉に、第二席と第三席、それに背後に控える王軍の魔術師達も、ようやく気付いたらしい。
その顔に、驚愕が浮かぶ。
「まさか……!」
信じられない、という顔で第三席がルミネスウェニアを見た。
それに対して、ルミネスウェニアは鋭い笑みを浮かべる。
「ご明察の通りだ、父上。妾が今回の反乱の首謀者に相違ない」
口調が変わる。
こちらを小馬鹿にするような、そんな声。
「ふ。どうだ、マギの王。自分の世界をこうもあっさりと覆された気分は」
皆の驚く顔に少しばかり得意顔で、ルミネスウェニアは首を傾ける。
「覆された? 何を言っているのだ、貴様は」
「なに?」
マギが決して、覆されてなどいない。
大陸を奪われた。王宮を壊された。
だからどうした。
そんなことは、些細なことだ。
「ルミネスウェニア。我がこうして息をしている限り、マギは覆らぬ。盤石で在り続ける」
「……よくもまあ、この場面でそんな自信たっぷりに言えるな。自分で言うのもなんだが、妾以上に不遜なところを見ていると、貴様が妾の実の父なのだと実感する」
少しばかり目を丸めて、ルミネスウェニアが言う。
そして、軽い溜息を零すと……再び口元に鋭利な三日月を作った。
「まあ、そう言うのであれば、こちらもそれなりの態度を見せよう。そういえば父上。先程面白いことを言っていたな。ここを更地にする、とか」
「それがどうした?」
「なに。娘としては、父にそんな手間をかけさせるのは心苦しい。というわけで……妾がそこを綺麗にしてやろう」
――空を見上げる。
ふん……あの小娘め……。
次の瞬間――王宮は巨大な爆発に飲み込まれた。
†
海が、盛り上がる。
水面に浮かびあがったのは、一枚の鉄板のような形状のもの。
ただ、それはとてもではないが鉄板などとは呼べなかった。
何故か。
一辺が優に二千メートルは超えているそれは、鉄板などというかわいらしいものではないからだ。
そしてその巨大な、鉄の島とも呼ぶべき物体の平らな表面に、変化が現れた。
ところどころ装甲に溝が入ったかと思うと、その溝に合わせて、いくつもの突起物が飛び出してくる。
重低音と共に現れるのは、大量のビルのような建築の数々。
百や二百ではきかない。まるでそれは、一つの都市のようであった。
さらに、島の中心に、周囲と一線を画したものがそり立つ。
城。
それを形容するならば、恐らくそれが最も相応しいのだろう。
九つの尖塔を外周に配置し、その尖塔を繋ぐように作られた高い鉄壁。そこに囲われた山形の造形。
鉄によって築かれたそれは、禍々しいようで、しかし洗練された、無骨からくる美しさも兼ね備えていた、
と――その城の九つの尖塔に、大量の小窓のようなものが開く。一つの門につき五十といったところか。
その小窓から、何かが空に向かって飛び出す。
遠目には、小鳥の群れにも見えるかもしれない。
けれど、それは小鳥などではない。
それよりももっと大きく、凶悪なものだ。
――ミサイル。
およそ四百五十のミサイルが一斉に空へと放たれる。
それはそのまま、ある方向を目がけて飛んだ。
この人口島から東にある小さな孤島――王宮に、だ。
ミサイルの弾速は、簡単に音を越えた。
そしてあっというまに王宮の上空へと到達。
と――ミサイルが全て砕ける。
いや、違う。
砕けたのではない。
ミサイルの外側が割れて、その内側から何かがばらまかれたのだ。
爆弾、だ。
一つのミサイルにつき五百以上もの小型の――しかしながら冗談では済まない破壊力を秘めた爆弾。
四百五十発に、かける五百。つまり、二十二万五千発もの膨大な量の爆弾が、雨のように王宮へと降り注ぎ……。
そして、巨大な爆発が王宮を包みこんだ。
姫ーっ!?
というか、うん。ちょっと超展開しちゃった!