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6-11





 縦、横、斜め、あるいは弧を描き、時に直角すらも形づくる魔力刃が、放たれる。


 避ける隙など与えはしないと言わんばかりの、細かな網のような面の攻撃。


 私は刀に魔力を込めると。その一部を切り開き、そこに身を飛び込ませた。


 この魔力刃は、強度はそれほどではない。剣速と範囲、数は驚異的だが、逆を言えばそれ以外の点は畏れるほどのものではない。


 つまり、刃の強度が足りていないのだ。


 だからこうして、私の刀に負ける。


 元々、第六席の斬撃魔術は個人戦闘向きのものではないのだろう。


 対集団、あるいは後方からの支援に優れたものだ。



「ふむ。強いな……名はなんという?」



 第六席がそんなことを聞いてきた。


 ……名前を聞くくらいに余裕がある、ということかしらね。


 また、舐められたものだ。



「貴方が地に伏した後に教えてあげるわ」



 第六席が絶え間なく放ってくる魔力刃を切り払いながら、地面を蹴る。


 一息で、彼我の距離を詰める。


 そして、下から上に向かって刀を振るう。



「己の魔術にはこういった使い方もある」



 それを……第六席は、素手で弾いた。


 いや、違う。


 ただの素手ではない。


 その手は、薄く輝く魔力の刃を、爪のように纏っていた。


 斬撃魔術を、肉体に固定したものか。


 私の刀を弾いた所から見ると、どうやらその強度は、敵に放って使うよりも高いらしい。


 っ……。


 危険を感じて、身を引く。


 前髪を何かが掠めた。


 魔力刃だ。


 刀を弾いた手とは逆の手にもまた、魔力の爪が形成されている。


 それだけではない。


 肘や膝、爪先にまで、魔力に寄る刃が生えていた。


 全身凶器、なんて言葉が浮かんだ。


 勘違いしていた。


 個人戦闘向けの魔術ではない?


 とんでもない。


 むしろこの魔術は――、



「貴様の刃と己の刃。どちらが上か、競ってみるか?」



 ――なによりも個人戦闘向きの魔術だ……!


 第六席が膝を撃ちあげてくる。


 膝から生えている刃を避けて、さらにこめかみに放たれた刃を刀でいなすと、さらに打ち込まれた肘の魔力刃を受け止める。


 一撃一撃が、重い……っ!



「そちらにばかり気を取られていていいのか?」



 な……!


 気付けば、第六席の腹の辺りに小さな射出型の魔力刃が作り出されていた。


 それが、私に放たれる。


 刀でどうにかするには間に合わない。


 咄嗟に、私は手に魔力を込めると、それで魔力刃を殴り壊した。


 十分に魔力を纏わせることが出来ず、魔力刃を砕くことはできたものの、私の手の甲が軽く裂ける。



「やるものだ……」



 刀と魔力刃の打ち合いがまた始まる。


 頭、腹、首、腿、脇、胸などを狙ってくる魔力刃を片手で構えた刀でどうにか弾き、いなし、防ぎ、時には避ける。


 さらに合わせて放たれる射出型の魔力刃をもう片方の魔力を纏わせた手で砕く。


 拮抗状態――ではない。


 ゆっくりとだが……私が押されていた。


 剣の腕では負けない。


 だが、刃の数が違いすぎる。


 私が刀一本に、拳一つ。それに対して第六席は両腕と両肘、両膝の六本の魔力刃に加え、射出型の魔力刃を複数。


 流石に……追いつけない。


 このままじゃまずいわね……。


 私は一旦、第六席から距離をとることに決めた。


 後ろに跳躍する。


 と……、



「逃がさん」



 それを、第六席が追って来る。


 まあ、そうそう逃がしてはくれないでしょうね。


 予想していた第六席の行動に対して私は……刀を投げつけた。



「――!」



 まさか武器を投げるとは思っていなかったのか。


 一瞬の動揺を見せて、第六席は刀を弾く。しかし、その一瞬で私は既に第六席との距離を大きくとっていた。


 刀が、私から離れた位置に落ちて、地面に突き刺さる。



「武器を捨てるとは……正気か?」

「思い込みね」

「……なに?」



 私の言葉に、第六席が訝しむような表情をする。



「誰が、私の武器があの刀だけと言ったの?」



 確かに、魔導水銀刀は、私の愛用する武器ではある。


 だが……それだけ。


 愛用しているからといって、それだけしか使えないといわけではないのだ。



「ふむ……ならば、次の武器を出すがいい」



 あら、そこで待ってくれるの?


 なるほど。正々堂々、というやつだろうか。


 ……でも、残念。



「武器ならもう出しているわよ」

「なに?」



 呼吸を整える。


 身体の隅々にまで、意識を行き渡らせる。


 魔力を……感じた。



「私の武器は……」



 私は、前円卓賢人第四席、高速魔術戦闘で《黒》すら凌駕すると言われた、ヴェスカー=ケシュト=アルケインの一人娘。


 ならば……父の業を、私が学んでいないわけがない……!


 ――刹那。




「私の武器は、この身そのものよ!」




 私は、第六席の背後にいた。



「……っ!」



 それに気付いて、第六席は振り向きざまに肘の魔力刃を振るってくる。


 それを、受け止めた。


 灼熱の炎を灯した手で。


 手だけではない。


 私の身体そのものが、巨大な炎によって覆われていた。


 魔力刃が、魔力の炎によって溶解する。



「ぬ……!」



 と、私の炎が、姿を変える。


 今度は、激しい炸裂音を放つ……紫電。


 それを、第六席の顔面に叩きつけ――られない。


 私の一撃は、第六席が交差させた両手の魔力刃によって受け止められていた。


 でも――、



「遅い」



 第六席の頭上に巨大な氷の杭が三本現れる。



「ふ、ん……!」



 それは、第六席に届く前に射出された魔力刃によって砕かれてしまう。


 その破片が飛び散る中……私は氷の杭のおかげで生まれた第六席のほんの僅かな隙をついて、蹴りをみまった。



「っ、ぐ……ぉおお!」



 それを、彼は片腕を盾にすることで防いでみせた。


 骨を砕く感触が、脚から伝わってきた。



「言っておくけれど、私は敵には優しくはないの。まだ骨の数本はもらっていくわよ」



 言って、加速魔術で第六席の背後に回り込む。


 そこから、魔力弾を放つ。


 至近から放たれた魔力弾を、第六席が無事な方の腕で薙ぎ払う。


 ……その腕を、素早く掴んだ。



「ぐ……っ!?」



 触れるだけで、魔力の雷は相手を苛む。


 私はそのまま掴んだ腕を……膝で叩き折った。



「っ、く、ぁ……っ!」



 これで、両腕。



「舐め、るな……ぁっ!」



 第六席が、射出型の魔力刃を数十同時に放ってきた。



「別に、舐めてなどいないのだけれど」



 全身を覆う雷が消え、代わりに腕に魔力を集中させる。


 そのままありったけの魔力で、飛んできた刃を全て、打ち砕いた。


 砕かれた魔力刃の欠片が舞い散る光景は、どこか幻想的だ。


 そんなことを想いながら、横に跳ぶ。


 一瞬遅れて、私のいた場所にギロチンのような魔力刃が落ちる。



「っ、何故だ……!」



 第六席が、苦々しげに言う。


 今の一撃を避けられたことにたいして、ではないだろう。



「己には、敗北は許されないのだ……王の為、マギの為に!」



 自分が圧倒されていることに対する言葉。


 ……。



「マギの為、ね……貴方は、一体なにが、本当にこの世界の為になるのか、分かっているの?」

「当然だ! 魔術によって、王によって導かれ、この世界は繁栄するのだ!」



 本当に、どうしようもない。


 円卓賢人なんて言っても、これでは所詮、何も知らない偽善者の集まりではないか。


 本当に……馬鹿馬鹿しい。



「貴方が私に勝てない理由は、たった一つ……たった一つの理由なのよ」



 それは、至って単純なもの。



「己が、貴様に勝てぬ理由、だと?」

「そう」



 その理由とは――、




「無知」




 文字にすれば、たった二文字。



「無知であるが故に、貴方は私には勝てない。貴方達は、一体自分達の無知でどれだけ多くの人々を苦しめてきたのか、一度、きっちり知った方がいい」



 しかしその意味は、ひどく重い。


 もちろん、私が何もかもを知っていると言うわけではない。私だって、知らないことはたくさんある。


 けれど、そんな私から見ても、無知なのだ。


 いや、無知なのは、まだいい。


 けれど彼らはそのままだった。


 自分達が無知であるという自覚もなく、上辺だけ取り繕われた現実を信じ、それ以上のことを知ろうともしなかった。


 そんな馬鹿な連中に、私は負けてやるわけにはいかない。



「無知、だと……?」

「そう。そしてそれは、無自覚の悪になる」



 だからといって、もちろん私達が正義、だなんて、そんなことを言うつもりは毛頭ない。


 私達だって、こんな戦争を起こして……それだけでも、きっと十分な悪だ。


 それでも少なくとも……悪として、悪なりの、信念は持っている。


 そしてそれは、根底から勘違いしている相手にどうこうされるような、半端なものではない。



「っ、ならば……!」



 第六席の周囲に、厖大な魔力が渦巻いた。


 それが、魔術を成す。


 魔力刃。


 それも、十や二十ではきかない。


 百、二百……あるいは、千に届くかと言うほどの、大量の刃が整然と並び立った。



「己を倒して見せろ! 己が勝てぬと、そう言ったからには!」



 第六席の瞳は、充血しきっていた。


 おそらく、本来以上の実力の魔術を行使した反動だろう。


 それだけの覚悟をもって、私に立ち向かってくるというのか。



「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



 全ての魔力刃が、放たれる。


 隙間がないくらいの、まるで壁が迫って来るかのような、そんな攻撃。


 けれど……第六席。貴方は、失念している。私がいる場所に、何があるのかを。



「――天地悉く、――」



 私の手に握られているのは、先程手放した、魔導水銀刀。


 これを手にする為に、私は狙ってこの場所に移動してきたのである。


 刀を上段高くに構える。


 魔力が集う。


 目の前には、大質量による過剰威力の魔術。


 それでも心は乱れず、ただひたすら、穏やかに魔力を収束させた。


 自分でも驚くくらいに、完璧を越えるほど完璧に、速く、強く、鋭く、魔術が構築されていく。


 そして――。




「――切り裂け!――」




 これまでで最高の大斬撃が、第六席の魔術を掻き消した。



「な……」



 呆然とする第六席の懐に、素早く潜り込む。


 そして、その腹に、魔力をのせた拳を叩きつける。


 一瞬の静寂。


 遅れて、彼の身体が、ぐらりと地面に倒れた。



「リリシア=メデイア=アルケイン。それが、私の名前よ」



 約束通り、名前を告げる。


 まあ、聞こえてはいないでしょうけれど。



なんかマギをフルボッコしているだけになってきた……大丈夫。これか一転二転する……はずだから!

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