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6-5



 王宮外部から、反乱軍は下宮へと侵入した。


 王宮周辺の警備網は、私が内部から解除したので、そこは特に問題はない。


 問題は、ここからだ。


 これだけ大勢で上陸すれば、当然王宮の魔術師にはすぐ見つかる。


 ――案の定と言うべきか。


 その時、魔術によって、王宮全体に甲高い警報が響き渡った。


 まあ、見つかることなんて元から承知の上だ。



「進め!」



 号令と共に。


 反乱軍は、雄叫びをあげ、怒涛となって王宮に攻め入った。


 まずは、下宮。そして中宮までを落とすのが、私達の役目だ。


 上宮は、他に人がいる。


 遠く、上宮の影は、下宮からでも見ることができた。


 臣護さんに、呆れられないようにしなくちゃ……。



「鼠か……」



 警報の音に、円卓に座っていた四人が顔をあげる。


 一人は、鬱陶しげに。


 一人は、愉快そうに。


 一人は、無感情に。


 そして己は……妙な焦燥を感じていた。


 侵入者に対する感情ではない。確かに王宮に侵入者など極めて珍しい事態だが、それはこの焦燥の正体ではない。


 では、なんなのだろう?


 ……分からないが、今はそれを悠長に考えている暇はあるまい。



「己が行こう……ワータイム、貴様もだ」

「あん? ふざけんな、なんで俺様が。そんなの末席のガキに任せとけばいいだろうが」



 末席……シュレヴィルムか。


 円卓の彼の席を見る。そこは、空いたまま。


 大方、あの姫君のところだろう。



「いないのだから、代わりに貴様が来るしかあるまい?」

「……そりゃ命令かよ?」

「そうだ」

「は!」



 ワータイムが、大げさに肩を竦めた。



「おいおい、命令なんてよしてくれ! そんなのききたくって円卓賢人になったんじゃねえっての!」



 まったく……。



「貴様というやつは……もう少し円卓賢人としての自覚を持ったらどうだ?」

「自覚ねえ。そりゃどういうもんなんだ?」

「マギの為、王の為に命を賭けて戦う覚悟」

「うわ、くっだらねえ!」



 途端。


 空気が、ざわついた。



「くだらない、と言ったか」

「おいおい勘違いして殺気ぶつけてんじゃねえよ。違ぇよ。王の為結構。だがな、俺ぁ命を賭けるつもりなんて毛頭ないぜ。そんなもん賭けなくたって全員ぶっ殺してやるってんだよ」



 面倒くさそうに言って、ワータイムは羽虫でも払うかのような仕草を己に向けて見せた。


 本当に……どうしてこんな輩が円卓賢人になれたのか、理解に苦しむ。



「ともかく――」

「報告します!」



 と、円卓堂に、魔術師が一人飛び込んできた。



「なんだ、想像しい」

「反乱でございます!」



 なにかと思えば……。



「そんなこと、既に気づいている。貴様にはさっきの警報が聞こえなかったとでも言うのか?」

「違います……!」



 魔術師の顔は、青い。


 尋常な様子ではなかった。



「この王宮だけではございません。全大陸で、同時に大規模な反乱が起きたとのことです!」

「なん……だと?」



 これか……!


 先程から、咽喉の奥に引っ掛かった、妙な感覚の正体は。


 全大陸、および王宮で同時に発生する反乱。


 それだけで、状況がどれほど重大なものか、一瞬で理解できた。


 ただごとではない。



「あははっ! なんだか面白そうなことになってるんですねぇ!」



 オリオスが、手を合わせて新しい玩具を手にした子供のような笑みを浮かべる。



「……」



 その隣に腰を下ろすテイラーは、目を瞑り、沈黙を貫いていた。


 そして、ワータイムは……、



「はん! んだよ、そりゃ。害虫駆除かと思えば、こりゃ立派な狩りになりそうじゃねえか。だったら話は別モンだ。行くぜ!」



 立ち上がり、そのまま円卓堂を出て行った。


 急にやる気をだしたか……理由が少し不謹慎な気もするが、まあ、今回はよしとしよう。



「オリオス。テイラーは上宮に残っていてくれ」

「いいですよぉ。あ、でもお土産に死体の一つ二つくらい持って帰ってきてくれてもいいですからねえ?」

「……」



 オリオスの言葉は無視して、テイラーの無言を肯定と受け取り、己はワータイムのあとを追った。


 ……一体この状況は、どういうことなのだろうか。


 とりあえず、ワーテルに向かった王の身が心配だ……。


 いや。


 心配するなど、己程度がそんなことを思うなど、おこがましいことか。王達ならば、どんなことがあっても切り抜けられるだろう。



 カチン、と。


 隣にいるイェスが、小さなスイッチを押しこんだ。


 直後。


 円卓堂が、内側から炸裂した。


 紅蓮の業火が溢れだし、円卓堂の瓦礫が散った。



「……やはり、これはどうかと思うのですが」

「甘いね。やるなら徹底的にやらなくちゃ」



 円卓堂があった場所からは、炎と黒い煙が立ち上っている。


 中に第四席と第五席がいたことは、既に確認済みだ。第六席と第七席は中宮の方に向かったらしい。


 この爆発では、流石のあの二人でも……。


 見知った人物が死んだと言う事実に――そして、自分達が殺したという事実に、少し、胸が締め付けられる。


 ……いや。


 こんなんじゃ、駄目だ。


 これは戦争だ。マギを変える為の。


 その為に……今は、情けなんていらない。


 僕は……姫様の理想に付き従い、そしてそれを見定めていくと、決めたのだから。その決意を、今更揺らがせることなんて、許されるわけがない。



「それじゃ、これで円卓賢人を二人とった、と――いうわけでもなさそうだね」



 イェスの言葉と同時。




 空から、巨大な瓦礫が落ちて来た。




 いや、落ちて来た、という勢いではない。これは……叩きつけられた、と表現すべきだ。


 地面も、瓦礫も、粉々に砕ける。


 僕たちは、その場から直前に飛び退いていた。



「あら。避けられちゃいましたねえ!」



 声は、空から。


 見上げれば、それには異様な光景。


 瓦礫が、浮かんでいた。


 爆発によって舞い上がった無数の瓦礫が、そこだけ時でも止められたかのように、空中に静止しているのだ。


 そして、その瓦礫の上に立っているのは……。



「こんにちはー、シオン君。いや、キミ意外とエグいことしますねえ! なにしたかは分かりませんけど、いきなり爆発って!」

「っ……!」



 愉快そうにそう言う女性は、円卓賢人第四席、リーゼロッテ=フォウァ=オリオス。


 そしてその隣にいる男性は、円卓賢人第五席、オルフ=フィヴ=テイラー。


 二人の姿に、驚愕する。


 あの爆発の中を、どうやって……!



「驚いてますねえ? でも、あのくらいで円卓賢人の上位席を殺せると思ったら大間違いですよぉ! 伊達に第四席や第五席を名乗ってませんよ!」



 笑う第四席。



「にしてもシオン君が裏切るとは! いや、世の中分からない者ですねえ! 面白い面白い! そちらの子は確かルミネスウェニア姫がどこからか引っ張ってきた魔術師ですねえ! おや、シオン君も姫の側近ですし……もしかして、あの姫様が今回の反乱の首謀者だったりするんですかあ!」



 不意に。


 第四席と第五席の立っていた瓦礫が――落下する。



「おおっと!」

「……」



 二人は、それにさして動揺することもなく、瓦礫からひらりと跳んで、地面に着地した。



「ふむ! いきなり魔術が使えなくなったのですがどういうことでしょうね!」

「知りたいならさ……」



 イェスが、右手の短剣と左手のインドラを構える。



「かかってきなよ。貴方を負かした後、ゆっくり教えてあげる」

「それはそれは、楽しみですねえ!」



 どうやら、第四席の相手はイェスがするらしい。


 だったら、僕は……。


 第五席と向き合う。


 彼は、薄く開いた目をこちらに向けていた。


 そして――。




 戦いが始まった。




いっきに登場人物が増えた……。

第四席いい性格してるね!

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