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6-2


 フィーア大陸北部。その中央部にある、巨大な城に私はいた。



「っ、報告! 先刻に蜂起した反乱軍が、警務魔術師の大隊を撃破!」

「……なんだと?」



 報告は、突然団結して反乱を起こした一部貴族と一般人によるもの。


 反乱自体は珍しいことではない。


 愚昧な輩が錯乱するなど、平時でもよくあることだ。


 下らん、取るに足らない些事。


 まあ、一部貴族がそれに加わるというのは、ひっかかるところはあったが。


 警務魔術師一大隊でも差し向ければ、間もなく鎮圧出来るだろう。所詮は魔術も使えぬ弱小共だ。


 ……そう、思っていた。


 だが――実際はどうだ。


 逆に、やられた?



「どういうことだ」

「それが……連中、どうやら不可思議な道具を使っているらしく、魔術師でもない癖に、小さな鉄の塊を高速で飛ばしてきたり、巨大な炎を生み出したりと……それによって、警務魔術師が……」

「――鉄の塊……炎……」



 魔術師でもないくせに、そんなことができる?


 ……心当たりが、一つあった。


 少し前にも似たようなことに遭遇したことがある。


 あの時は、王宮に侵入した何者かがそれを使っていた。雷を放つ手套。


 つまり……アースの兵器?


 何故、こんなところにアースの兵器が流入している……。


 解せんな。


 だが……事実は事実として受け止めるしかあるまい。



「状況は?」

「反乱軍は現在、この城に向かって進行中です!」

「……残りの警務魔術師と、政務魔術師を半数、出させろ」

「は……ですが、それでは城の守りが薄くなるのでは?」

「構わん。今は城より鎮圧――殲滅を優先しろ」

「第八席がそうおっしゃるのであれば……了解いたしました!」



 一度、深く頭を垂れて、報告した魔術師が部屋を出ていく。


 それと入れ替わる様に、また別の魔術師が飛び込んできた。



「第八席!」

「……今度はなんだ?」

「他の地方、お呼び他の大陸より、魔術による報せが入りました! 現在、全ての大陸の全ての地方で、ここと同様の大規模な反乱がおきている模様です!」



 ――それを聞いて、思わず思考に一瞬の空白が生まれた。


 馬鹿な……。



「……それは、なんの冗談だ?」



 思わず、乾いた笑みがこぼれる。



「恐れながら……事実です」



 魔術師が、苦渋の表情で告げた。


 ……どういうことだ。


 ここと同様の反乱が、マギの全土で?


 明らかに、尋常ではない。


 しかも、警務魔術師の大隊一つを撃破するだけの戦力をそれぞれが持ち合わせているとなれば……。


 事態は、既に最悪と呼べる域にあった。



「……どういう、ことだ」



 なにか、悪い夢を見ている気分だった。



 フィーア大陸は、私の生まれた大陸だ。


 だから、この戦場を選んだ。


 自分の手で、自分の生まれた場所を変えたいと思ったから。


 私は、お姫様ほど大きな器はないけれど……自分が生まれ育ったこの大陸くらいなら、変えて見せたい。その一翼を、担いたい。


 その想いを胸に――私は拳を握り締めた。


 大丈夫……。


 やれるはずだ。ううん、やらなくちゃ、駄目だ。


 自分になんども言い聞かせていた。


 ……大陸にはそれぞれ、中央に巨大な城がある。そこが、それぞれの大陸の中心地であり、要だ。


 つまり、そこさえ落とせれば、大陸を落としたと言っても過言ではない。


 既に反乱軍は、城がある城塞都市を目前に迫っている。


 城砦都市はその名の通り、都市そのものが城塞のように堅牢に作られた、巨大な街。


 そこに住むのは、貴族と魔術師。


 普通なら、魔術の使えない人々が侵攻できるような場所じゃない。


 けれど、私達にはアースの兵器が、反乱軍全員にとまではいかずとも、数多く渡されている。


 M・A社――ヴェスカーさんが供与したものだ。


 戦い慣れていない下手な魔術師よりも、兵器一つを手にしたただの人のようが、余程戦力になる。


 さっきの警務魔術師の大隊も、ほとんど被害もなく撃破できた。


 ……その戦いを思いだして、少しだけ、気分が悪くなる。


 これは戦争だ。


 だから……当然人が死ぬ。


 まだ私は戦いには参加していないけれど……それでも後方からその光景を見ているのは、いい気分ではなかった。


 そしてもしこの戦いに飛び込めば、私ももしかしたら――。


 でも……それでも。


 臣護には、人殺しなんてしてほしくない、って言われたけれど。


 退くわけには、いかなかった。いざとなれば……その覚悟を決めてでも。


 反乱軍の先頭が、城砦都市の外縁をまるまる覆う城壁にある大きな城門を爆破した。


 巨大な爆発に、あっけないほど簡単に城門が吹き飛んだ。



 城から、城下を俯瞰する。


 城門が破壊され、そこから反乱軍が流れ込んできていた。


 対して、警務魔術師と政務魔術師の混成軍隊がそれを迎え撃つ。


 各所で、戦いの余波が見て取れた。


 建物が吹き飛ばされ、燃えあがり、死体が積み上げられ、それを誰かが踏みつけ進む。


 城砦都市内部は、あっというまに戦争の臭いに満ちた。


 風に、血が濃く混じる。



「……圧されているか」



 舌打ちする。


 魔術師側の前線が、徐々に城へと押し込まれている。


 たかがアースの兵器ごときに、どれほどてこずっているのだ……!


 魔術師の端晒し共が……。


 これ以上黙って見ていても、こちらの被害が増えるばかり。


 仕方がない。


 私は壁にたてかけてあった大剣を掴むと、そのままそれを壁に思いきり叩きつけた。



「なにを!?」



 近くにいた魔術師どもが喚くが、知ったことか。


 私の攻撃によって壁が吹き飛び、大穴が開く。



「終わらせてやる……!」



 叫んで、私は空に飛び出した。



 城塞都市に入って、私は真っ直ぐに城に向かっていた。


 お姫様に、城を真っ先に制圧するように言われていたから。一緒に何人か、アースの兵器を持った人達がついてきている。この少数部隊で城を制圧できるか不安だけれど、これだけの戦力が都市部に放出されているのだ。城に残っている魔術師は、それほど多くはないだろう。


 これなら、いけるかもしれない。


 そんなことを思った、刹那のことだった。


 城の付近で、建築物が吹き飛んだ。


 比喩表現ではない。


 建物が空に打ち上げられるかのように吹き飛んで、瓦礫になって降り注いでいるのだ。


 しかも一度や二度ではなかった。


 次々に建物が空に吹き飛ばされていく。その度に地面に振動が伝わる。


 まるで巨大な何かが暴れ回っているようだった。



「なに……あれ……」



 思わず、呟いていた。


 その破壊の嵐のような現象が、高速でこちらに近づいてきていた。



「っ――逃げて!」



 それは、完全に本能からの行動だった。


 私は、思いきり横に跳んだ。


 一瞬遅れて、目の前にあった建物が吹き飛んだ。


 瓦礫が辺りに降り注ぐ。


 他の人達がどうなったのか、なんて気にしている余裕はなかった。


 舞い上がった土埃で視界は閉ざされていたけれど、その中でどうにか瓦礫を避けながら、私はその姿を見つける。



「――ふん」



 氷の刃を連想させる、冷ややかな声だった。



「避けたか……なるほど、多少はやるようだ」



 徐々に土煙が晴れて、はっきりとその人の容姿が確認できるようになる。


 女性だった。


 その手には、とても人間に扱えそうにない巨大な剣。彼女はそれを、片手で苦もなく持っていた。



「……っ!」



 咄嗟に、右に一歩ずれる。


 と、その私の横を掠めるように、何かが通過した。


 彼女が大剣を振るった、と認識したのは、直後。


 その剣は、私の後ろにあった建物の壁にぶつかり、その衝撃で建物そのものが吹き飛んだ。さらに、地面までもがひびわれた。



「――っ!」



 激しい震動に、転びそうになる。



「これも避ける……ふん。貴様、何者だ?」



 彼女が大剣を肩に担いで、突き刺すような眼光で私を見据えた。



「人に名前を聞くなら、先に自分からでしょ?」



 自分でも、こんな軽口が叩けたのは意外だった。


 大丈夫。


 このくらい、どうってことない。


 辺り一面瓦礫の山だろうと。


 その瓦礫の下で、さっきまで一緒にいた人達が潰されているとしても。


 ――私は、戦えるから。



「ふん。いいだろう、名乗ってやる。円卓賢人第八席、アミュレ=エイグイト=オーグだ」



 円卓賢人……!


 お姫様からこの大陸に来ていることは聞いていたけれど、まさかこんなに早く遭遇するなんて……っ。


 なるほど。だったらさっきのあれこれも納得だよ。


 円卓賢人なら、街一つ吹き飛ばすくらい朝飯前だろうしね……。



「それで、貴様。名は?」

「……アインスリーベ=クレニアレスト=ヴォルシン」

「ではヴォルシン」



 第八席が、目を細めた。


 次の瞬間。



「まずは貴様を砕く。その次はこの大陸に蔓延る害虫共を。そしてその次は、この世界に存在する全ての汚物を」



 破壊の暴風が、吹き荒れた。




んー、どう場面をスライドさせていくかなあ……。


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