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私は、人間になりたい  作者: 黄田 望
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Episode1 【 アオハル 】


 携帯の目覚ましが鳴り響いている音で目が覚めた。

 昨晩は遅くまで起きていたせいか瞼が重く、窓から差し込む朝日が眩しい。

 なんとか手探りで携帯を見つけ出して鳴り続いている鬱陶しい目覚ましを消す事に成功した。


 「こらァァアアアッ!? (まなぶ)ッ?! 目覚ましなってるの気付いてるならさっさと降りてきなさいッ!!」


 ・・・母親の目覚ましを止める方法は、言う事を聞く事が1番の解決策である。

 俺は起き上がらない体に鞭を打ちながら起こして洗面台に向かう。

 まだ瞼が完全に開かないせいか、壁に頭をぶつけたり足の小指をぶつけたりと災難が連続で続いた。


 「ついてねぇ・・・」


 本当、朝からついてない。

 まぁ遅くまでゲームして寝不足になっている俺がすべて悪いのだが。


 「やっと来たわねッ! お母さんもう仕事に行かないといけないから戸締りお願いね!」

 「う~ん・・・姉ちゃんは?」

 「朝早くから大学に行ったわよ! 何でも今は人工知能のプログラミングを組み立てるので忙しいとかなんとか」

 「ふ~ん」

 「それじゃ、お母さん行くから! アンタもあんまりゆっくりしてると学校遅刻するわよ!」

 「はいはい。 分かってま~す」

 「はぁ、本当に分かってるのかしらこの子は。 それじゃ行ってきます!」

 「いってらっしゃ~い」

 

 そうして母はまるで漫画やに登場する女子高生のように焼いたパンを口に咥えながら仕事に向かっていった。

 近所の人ならいざ知らず、どうか同級生に見られない事だけを心から願う。

 

 「さてと、テレビテレビと」


 朝食の用意されたテーブルに置かれてあるリモコンでテレビをつけると丁度キャスターが挨拶をする場面が始まる所だ。

 今日は2122年の7月18日。

 気温も汗が滲み出るくらいまで暑くなり、天気予報からもすでに初夏が始まっていると報道されている。

 確かに、この数日で随分と暑くなり、夏の風物詩、セミの鳴き声も聞こえて来ていた。



 ◆ ◇ ◆ ◇


 天気は文句の言いようがない晴天だ。

 雲一つなく強い日差しが浴びせる太陽がより一層眩しさが目立つ。

 睡眠不足の人間には刺激が強い日和だな。


 「おっす荒井! おっはひー!」

 「健人!」


 突然、背後から飛びついてきたのは友人の博識 健人(はくしき けんと)

 頭の良さそうな眼鏡を掛けて、雰囲気からも勉強が出来る奴だと思われるが・・・バカだ。


 「おいおいどうしたお前?! 目が死んだ魚みたいになってるぞ? もしかして・・失恋?」

 「なんでだよ。 っていうか恋もしとらんわ」

 「なんだとッ! お前高校生になって最初の夏なのに恋もしとらのかッ?!」


 健人は驚いたような表情を浮かべると見せかけだけの眼鏡をキランッと光らせる。


 「じゃあ、あれだな。 今から恋をしよう」

 「バカかよ。 っていうか恋なんてそんなすぐに出来るもんじゃねぇだろうが」

 「何言ってんだよ! 俺達高校せいだZッ! 青春の真っ只中だZッ! ならどうする? そうだ。 恋をするんだ」

 「お前の青春は安直すぎんだよ。 好きな事をして過ごすのも青春の1つだろ」

 「じゃあ荒井の好きな事は?」

 「ゲーム」


 聞かれた事を率直に答えたはずなのに、何故か健人からは哀れみな目を向けられた。

 

 「お前・・高校生の青春をゲームで使い潰す気なのか?」

 「そうだと言ったら?」

 「俺がお前をぶっ飛ばしてでもアオハルに巻き込んでやるッ!!」

 

 握り拳を空に突き上げ、俺にとって凄く大きなお世話な決意を決めた。


 「だいたい、恋って言っても気になる女子なんていないし」

 「ダウトッ!」


 健人は俺の前に立ち塞がり、指をさしてきた。


 「お前はすでに、恋をしているッ!!」

 「え? なんでそんな自信満々に言い切れるの?」

 「ふっふっふ、聞いて驚け見て笑え!」

 「その理由に笑う要素あっちゃダメだろ」


 俺のツッコミをフル無視して、健人は学校の正門前にいる1人の女子生徒に指をさした。


 「あの御方を見て恋をしない男子高校生なぞ存在するわけがないからだ!!」


 健人が指をさした女子高生とは、学校の有名人である1つ上の先輩だ。

 名前は小糸 花恋(こいと かれん)さん。

 成績優秀、スポーツ万能、さらにスタイル良し顔良しの現役モデル!

 高校卒業後には女優業を始めるという噂が絶えない完璧令嬢。

 そんな彼女を一目見ようと正門周辺には男女問わずの生徒が彼女を遠目で眺めている。


 「まぁ、確かにあの先輩を気にしない奴はいないだろうけど。 あんな高嶺の花を狙う奴なんて陽キャぐらい・・って、健人?」


 気が付くとさっきまでいた筈の健人の姿が何処にも無い。

 周囲を見回しても姿が見えない中で、マナブは小糸花恋の周囲がざわついている事に気が付いた。


 「・・・まさか」


 そう、そのまさかだった。

 健人は周囲に立つ生徒達を押しのけ、小糸花恋の目の前に立っていた。

 そして、大声で言い放つ。


 「小糸花恋先輩ッ! もし良ければこの俺と! 一生残る夏の思い出を作りましょう! だからッ! 俺とお付き合いしてください!!」


 周囲の生徒達が騒ぎ出す。

 男子生徒は健人に対して、憎悪と敬意を。

 女子生徒からは黄色い声援と悲鳴を。

 朝から学校は一番の盛り上がりを見せていた。

 これだけヒートアップした中で、普通なら告白された側は断りにくい場面ではあるだろう。

 だが、我が校の完璧令嬢はそんな出来事は日常茶飯事だ。

 表情一つ変えず、小糸花恋は言い放った。


 「ごめんなさい」


 この日、俺の友人は勢い任せの告白によって、アオハルが終了した。

 

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