運命
現在、6月7日
東京都新宿区、西口地下広場
賽の掌から転がり落ちた二つの正六面体は、片方は「災」、もう片方は「死」と書かれた面が天を向いて静止した。彼は難しい表情のまま押し黙った。
「死」の出目は以前と変わっていなかったが、もうひとつは「憂」ではなく、「災」の字が美命を見上げている。
「何か良くないことを示しているんですね?」
賽は顎に手を添えて、少し考えてからゆっくりと口を開いた。
「一概にそうとも言えない。少なくとも、出目が以前と違うのは君の運命が変わっている証拠だからね」
「……そういえば、前に賽さんが言っていた、寿命が見えない人と出会いました」
賽は少しも驚くことなく「そうか」と頷いた。
「その人は自分の体に霊を憑依させることができるそうです。どうして俺と彼女を引き合わせたのですか? 賽さんが俺たちに何をさせたいのか、理解できません」
「私は何もしちゃいない。運命がそうさせたんだ」
賽はそう言って微笑む。彼はまるで教師のように、いつも発言に含みを持たせる。
「神保町のあるムスビ書房という所に行くといい」
「……そこに何があるか、どうせ教えてくれないんでしょう?」
「行ってからのお楽しみということで」
賽はあしらうようにふっと笑ったあと、苦しそうに咳き込んだ。目の下の濃い隈と、不健康に窪んだ頬のせいで、初めて彼に会った時よりも随分老けて見える。
「体の具合、悪いんですか?」
「心配してくれるのかい? 大丈夫、自分の運命は自分一番分かっているよ」
賽は華奢な方を上下させながら言った。
「では、私はこれで失礼するよ」
そう言って賽は立ち上がり、4年前と同じように美命の視界から遠ざかる。賽の言っていたムスビ書房という場所に何等かの答えがあることを信じて、美命は彼を見送った。