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死神とドグマ  作者: 結城 光
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決行

 同日、6月15日


「目的は飽くまでも三上大聖の父、三上三蔵の居場所を訊き出すことだ。それ以上のことはしない」

「ああ、分かってる」


 気性の荒い倭に、もう一度念を押す。

 月人は、倭の隣に立っている長い黒髪の女を見る。

 ()()()を三上に渡す役目を果たした女だ。万が一のために同行させることにしたが、素性が知れないために油断はできない。

 教団内での階級は中級で、名前は確か……日河だったはずだ。


「平時の選別は一般信徒もしくは初級幹部が行うが、今回は相手を鑑みて俺たち三人で行う。春日、千里眼を使って三上大聖の居場所を割り出してくれ」

「はいよ」


 気怠そうに返事をして日河の手を取り、霊気の感触を確かめる。

 倭は、人や物が放つ霊気を頼りに透視をすることができる、千里眼と呼ばれる霊能力を使うことができる。

 霊能力者によって霊気の質は異なるため、霊気が籠められた物は、千里眼を使えば発信機になるという寸法だ。

 日河の話では、お守りに自らの霊気を籠め、発信機として三上大聖に持たせたらしい。


「あんたの霊能力はなんなんだ?」


 倭が日河に訊ねる。

 日河は、倭と月人を挑発するように微笑み、髪を耳に掛けた。


「試してみる?」

「……遊びじゃないんだ。必要な情報は共有しておきたい」


 月人がにべもなく言うと、日河はつまらなそうに口を尖らせた。


「ここで私が力を使ったら、施設が燃え尽きることになるよ?」


 日河は、自分が火を発生させることのできる能力を保有していることを暗に言っている。発火能力(パイロキネシス)の持ち主か……。

 扱い難いタイプの霊能力者を指揮することになってしまったと、月人は目を伏せた。


 倭は、首を少し下に向け、目を瞑り、こめかみに人差し指を押し付けている。

 いよいよ、千里眼を用いて日河の霊気を探り始めたらしい。


 眉根が寄り、固く瞑られた瞼は痙攣し、指先が白くなるほど強く押し付けられている。

 額に汗が浮かび始め、段々と呼吸も荒くなっている。


「どうしてこんな地味な能力者が上級幹部なの? 私の能力の方が……」

「お前と馴れ合うつもりはない。不用意に近づくな」


 月人は、日河を睨みつけ、倭が三上大聖を捜し出すことをじっと静観した。


「……見つけたぞ。やつの傍にもう一人霊能力者がいる」


 倭は、息を切らしながら言った。深く呼吸する度に、盛り上がった大胸筋が上下していることが、ティーシャツ越しにでも分かる。


「よし、車を出そう」


 三人は素早く黒のバンに乗り込んだ。運転席には月人、助手席には倭、後部座席に日河が座る。

 助手席で倭が千里眼を使いながら、月人に道案内をする。ルームミラーをちらりと見ると、日河が退屈そうに窓の外を眺めている横顔が映っていた。


 三上大聖が居ると思われる場所は、虎ノ門の外れにある雑居ビルだった。


「ここの三階から、こいつの霊気を感じる」


 倭は、日河を一瞥して言った。


「よし、降りよう。準備はいいか?」


 月人が目配せすると、二人は頷いた。

 倭は、ダッシュボードからスラッパーを取り出し、月人に手渡した。革製の靴ベラのような形状をしていて、一見地味な見た目だが、やや膨らんだ先端部分には鉛が入っているため、攻撃力は馬鹿にならない。


「念のためだ。持っとけ」


 月人は、念のためだ。と心の中で呟き、スラッパーをズボンのポケットの中に押し込んで車を降りた。

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