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ソニアとゼダール大森林を探索する

「おはよう、ロジェ」


 ソニアは、この前会ったときと同じ革の装備に胸部を覆うプレートアーマー、そして腰に下げられたレイピアを身につけている。ぎゅうぎゅうに詰められた背嚢を背負っている点だけが以前と違っていた。


「おはようございます、ソニアさん」


 こちらも似通った装備だ。革鎧に、火球を出す魔法が使える剣。背中には、これまた限界まで敷き詰められた背嚢がある。


 新迷宮で見つけた剣は宿屋の自分の部屋に置いてきた。これから危険なゼダール大森林に行くことを考えると持っていきたいが、彼女に怪しまれるのはまずい。「魔力索敵」もあるし、Sランク冒険者の彼女がいるので身の安全は大丈夫だろう。


「ソニア、でいい。私たちは同じ冒険者だ」


 彼女は敬称付きで呼ばれるのが苦手らしい。Sランク冒険者を呼び捨てにするのは少し気が引けるが、本人の意思を尊重しよう。


「じゃあ……ソニア」


 彼女の動きが止まった。予想外とでも言いたげに目を見張っている。


 おかしいな。彼女の希望に沿ったはずなんだけど。


「まさか、なんのためらいもなく呼び捨てにするとは思わなかった。こう言うとほとんどの冒険者は挙動不審になるのだがな……」


 しまった。遠慮が足りなかったか。


「すみません」


 謝るとソニアは慌てて訂正した。


「いや、いいんだ。呼び捨てで呼ばれた方が楽なのは事実だ。気にしなくていい。ただ、『呼び捨てにしてくれ』と言ったときに慌てる冒険者の反応が面白くてな。それが見れなかったのは残念だ」


「え?」


 俺のことをフォローする流れで彼女の本音が漏れ出てしまっている。


 言い切った後に失言に気づいた彼女は左手の先を口元にあてて口をつぐんだ。


「いい性格してますね……」


 意外だ。噂では真面目で誠実だと聞いていたのに。


「何のことかな? あと丁寧語は使わなくてもいいぞ」


 彼女はとぼけて知らないふりを決め込むようだった。


(大丈夫かな……)


 ソニアに対するうさん臭さが増しつつも、彼女との新迷宮探索が始まった。





 出だしは不安を感じるものだったが、探索は順調に進んでいった。


 手に持ったゼダール大森林の地図には、迷宮があると思われる位置に印がついている。前回の探索で歩いた時間から計算したおおよその距離と、コンパスで測定した方角をもとに迷宮の位置が推定されている。


 方角さえ合っていれば、<魔力索敵>で迷宮の位置は探れる。前回とは違い、迷宮があることはわかっていて、そのおおよその位置もわかっている。ソニアという心強い(少し胡散臭いが)Sランク冒険者もいる。


 魔物と遭遇することもなく、三日が過ぎていった。

 

「しかしすごいな、<魔力索敵>とやらは。ギルドマスターからは聞いていたが、予想以上だ。全く魔物と接敵しないじゃないか」


 背の高い木々に覆われて真昼間なのに薄暗い。そこら中に生い茂る草をかき分けながら道なき道を進んでいく。


「まだそこまで魔物がいないからね。もうそろそろ魔物の数が一挙に増えはじめると思う。そうなったらさすがに全部避けきるのは無理かな」


 前回とは違って迷宮への道を最短距離で進んでいるので、もうかなり迷宮の近くまで来ている。<魔力索敵>で感じる魔物の密度から判断しているので、正確にはわからないが。


「<魔力索敵>の範囲はどれくらいか聞いてもいいか?」


「うーん、感知する魔力の大きさにもよるけど、普通の魔物とかだと1キロメートルくらいまでなら」


 ソニアは無言でこちらの方を向いた。目が合ったまま数秒沈黙が続く。探索してもう三日が経つが、いまだ彼女と目を合わせるのにはなれない。彼女の鋭い目で見つめられると、心の内を見透かされるように錯覚してしまう。


「……それは、本当か? にわかには信じがたいのだが」


 彼女の目には、珍しく困惑の色が見られた。


「本当だよ。迷宮なら、10キロメートル離れててもわかる」


「……そうか。疑ってすまないな」


 受け入れるまでに少し時間を要したが、彼女は俺の言葉を信じてくれたらしい。


「いいよ別に。それが当然の反応だろうし」


 ギルドマスターのラスロは嘘を見抜く魔道具でこちらの言葉を真偽を判定したが、普通の人には俺の言っていることは狂人の戯言としか受け取れないはずだ。彼女は俺のことを信用してくれているのだろう。


 このあとも探索は怖いくらい順調に進んでいった。迷宮に近くなって魔物の密度が大きくなっても奇跡的に魔物と遭遇することはなかった。


 そして、出発してから5日後に俺は再び迷宮へとたどり着いた。











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