Sランク冒険者
今回は短めです。
「失礼します」
そう言って部屋の中に入ってきたのは、長い銀髪をたなびかせた美しい女冒険者だった。すっと通った鼻筋に、心の内を見透かすかのように鋭利な瞳。白磁のように白く、透き通った肌は近寄りがたい雰囲気を感じさせた。冒険者の中では軽装で、革の装備の上から胸部を覆うプレートアーマーと籠手を身につけている。腰には、細身の片手剣(確かレイピアだったはず)が下げられていた。
知っている。ここの冒険者ギルドで彼女を知らない者はいないだろう。
名はソニア。この国にいる4人のSランク冒険者のうちの1人だ。所属していたSランクパーティーが一年ほど前に解散になって以来、ギルド直属の冒険者としてバーデルの冒険者ギルドに雇われている。
ラスロがしかめっ面でソニアを迎え入れる。
「ソニア君。今はロジェ君と話しているんだ。勝手に入ってこないでくれるか」
「ギルドマスター。私も無関係ではありません。いえ、無関係ではなくなります」
ソニアは悪びれもせず意味深なことをつぶやいた。
「どういうことだ?」
困惑した表情でラスロが尋ねる。
ソニアは薄く笑みを浮かべて、ラスロの疑問に答えた。
「そちらの……ロジェという冒険者が新しい迷宮を発見したそうですね? 私を迷惑がるギルドマスターの態度を見るに、彼が法螺吹きというわけでもなさそうです。とはいえ言葉だけで鵜呑みにすることはできませんから、誰かが確認する必要があります。ギルドマスターは、ギルド直属の冒険者に確認させようと思っていますよね? 違いますか?」
背筋が震える。まるでこちらの会話を聞いていたのかと思うくらい当たっていた。
ラスロは動揺しながらも小さくうなずいた。それを見てソニアはにっこりと笑う。
「そうですよね。であれば、新迷宮の存在を確認する仕事は私がいたします。特段拒否する理由はないと思いますが……いかがでしょう」
こちらの方を真っすぐ見つめるソニアの目からは何の感情も読み取れない。
ソニアの怒涛の畳みかけにラスロはしばし唖然とした後、何かを納得したように何度もうなずき、口を開いた。
「まったく……相変わらずがめついな、お前は」
「私には誉め言葉です、ギルドマスター」
皮肉を込めたラスロの言葉もソニアはどこ吹く風だ。
「いいだろう。Sランク冒険者のソニアに新迷宮の所在を確認する任務を出す。発見者のロジェ君を連れていって案内してもらえ。ロジェ君はそれでいいか?」
「……はい、それで構いません」
少し躊躇するが、
彼女にはどことなく不気味なところがあるが、悪いうわさは聞いたことがない。誠実で、礼儀正しい冒険者の模範ともいうべき存在であるとのことだ。
Sランク冒険者である彼女には、個人的な興味もある。断る理由は無かった。
「承知しました」
ラッセルの命令にそう言って一礼する彼女の姿は、冒険者とは思えないくらい様になっている。
「よろしくお願いします」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
こちらにも頭を下げてきたので、慌てて挨拶を返した。Sランク冒険者に頭を下げられる経験など後にも先にもこれきりだろう。
Sランク冒険者のソニアも加わって話が再開する。
この後は新迷宮の探索についての詳細を詰めてお開きとなった。決行は一週間後だ。
二週間近くゼダール大森林の中を探索していたので疲労がたまっている。一週間は羽を伸ばして休むとしよう。
この一週間は、特に何事もなく過ぎていった。最後の数日は5層~10層あたりで軽く探索したものの、それ以外の時間は存分に体を休めていた。すっかり疲労は抜け落ちて、体調は万全だ。
そして、再びゼダール大森林に足を踏み入れる時がやってきた。