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ギルドマスターに新迷宮のことを報告する

 冒険者ギルドに備え付けの酒場に、一人の女冒険者が入ってくる。途端に周囲がざわつく。


 彼女の美貌に見とれるもの、彼女を方を見ながら仲間の冒険者に耳打ちするものなど様々だが、彼女は自分に向けられた視線の一切を無視して歩き出す。


「少しいいか?」


 彼女の目に留まったのは、ある噂話をしている3人の冒険者だった。彼女に声をかけられた彼らは驚いて素っ頓狂な声を上げる。


「うお!? な、何か用か、いや用ですか」


「かしこまらなくてもいい。聞きたいことがある。今話していたことの詳細を教えてくれないか」


 三人の冒険者は顔を見合わせた。「なぜそんなことを?」とでも言いたげな顔だ。リーダー格らしき冒険者が代表して発言する。


「は、はあ。なんでも、先日パーティーを追い出されたロジェっていう冒険者がゼダール大森林で迷宮を発見したみたいで、ちょっとした騒ぎになっていたんです。今はギルドマスターと話をしているはずです」


「その冒険者のランクは?」


「Bだったはずです。でも実際はもっと下だとか言われてましたが……」


「ふーん……」


 冒険者の話を聞いてしばらくの間考え込んでいた彼女は、「ありがとう」と短く例の言葉を言って足早に酒場を去っていった。


「いったい何だったんだ……?」


 三人、そして周囲の冒険者は終始困惑していた。





 ゼダール大森林から街に戻ってきた俺は、すぐさま冒険者ギルドへと直行した。


 受付嬢に事情を話して、ギルドマスターを呼んでもらう。


 2階にある応接室で待っていると、ドアが開いてギルドマスターが入ってきた。


「やあロジェ君。私がこの迷宮都市バーデルの冒険者ギルドの長、ラスロだ。にわかには信じがたいが、ゼダール大森林で迷宮を発見したそうじゃないか? その話、詳しく聞かせてもらおう」


 こちらも挨拶を返し、反対側に座ったギルドマスターと向かい合う。


 ギルドマスターのラスロは、初老の男性とは思えないくらいにがっしりとした体つきで、眼光鋭くこちらを見つめている。元は有名な冒険者だったらしく、一癖も二癖もある冒険者をまとめる長としての貫禄が彼には備わっていた。


 俺は街を出てから、迷宮を発見して、帰ってくるまでの経緯をすべて彼に話した。……迷宮で発見した剣のことは隠したが。


「ふむ……嘘は言っていない、と」


 そう言ってラスロは握っていた手を開き、つかんでいたものを机に置いた。


 机に置かれたのは、大きい宝石が一つつけられたネックレスだった。注視すると、非常に小さい魔法陣が描かれているのが見える。何らかの魔道具であることが伺えたが、ラスロの口ぶりからすると……。


「それは、いったい何ですか?」


「これは、相手が嘘をついているかどうかを判定する魔道具だ。相手が嘘をついた場合は、この宝石が熱くなるようにできている」


 そんな魔道具の存在は聞いたことがなかった。間違いなく迷宮産だろうが、おそらくその中でも超貴重なものだろう。


「なぜギルドマスターはこんなものを?」


「驚いただろう? 私が冒険者だったころに深層で見つけたものだ。これの存在はごく少数の者しか知らない。もし君が嘘をついているのなら、これの存在は知らせず適当に追い払ったところだが……どうやら本当のことを言っているようだから信頼できると判断した。周りには言いふらさないでくれよ?」


 首を何度も大げさに振ってうなずく。


 ラスロは満足げな顔をした後、真剣な表情に切り替わって話をつづけた。


「しかし「魔力索敵」とは驚いたな。遠くの魔力を感知することができ、おおよその種類も見分けられると……そんな能力は聞いたことがない」


「俺も、自分以外でこの能力を持っている人を知りません」


「そうだろうな。それほど希少で有用な能力を持っているのにパーティーを追放されるとは災難なことだ。新迷宮を発見した以上は、どうでもいいことかもしれんがね」


「はは、そうですね」


 迷宮を発見した功績は、迷宮を完全に踏破したのと同じかいやそれ以上の功績だ。迷宮がある地域の領主から与えられる懸賞金は、一生遊んでくらしても使いきれないだろう。


「だが、ね」


 ラスロが重々しく言葉を発する。


「君の言っていることが本当だということはわかったが、それだけでゼダール大森林に迷宮があることを断定するわけにはいかない。君が勘違いしている可能性もないわけではないからな。大勢の人員を導入する前に一応、ギルド側の人間が確認する必要がある」


「はい、それはわかります」


 俺の言っていることを魔道具が保証してくれているとはいえ、それだけで判断するには新迷宮の発見というのは大事過ぎる。


「ギルド直属の冒険者に向かわせたいところだが、君の案内が必要だな」


 冒険者ギルドには通常の冒険者とは別に、ギルドが直接雇っている冒険者が存在する。だいたいがAランク以上で、受ける人がいない、あるいは失敗した人がいる依頼を受ける役割を持つ。依頼達成の報酬に加えて毎月の固定給ももらえるので成りたがる人は後を絶たない。


「酷なことを言うようだが、もう一回ギルド直属の冒険者に同行して迷宮に行ってもらってもいいかな?」


「それは別に構いません。「魔力索敵」があれば魔物との遭遇は最小限に抑えられます。腕利きの冒険者が同行してくれるとなれば、心配はいりません」


 俺の言葉にラスロは安心したように笑みを浮かべた。


「そうか。それなら問題は、誰を向かわせるかだな。誰か手が空いているやつで適任なのは――」


 コンコンというノックの音とともに、「失礼します」という言葉がドアの向こう側から聞こえてくる。


 ギルドマスターの返事を待たずにドアが開けられて、一人の女冒険者が部屋の中へと入ってきた。




次回、ヒロイン?登場

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