追放したパーティは不幸な目(主観)に遭う
「っっ!! そっちへ行ったぞ!」
リッチの攻撃を避けながら、アランが叫ぶ。
「ぐう……!」
ベンディが大盾でミスリルゴーレムの攻撃を正面から受け止める。衝撃を殺しきれず、数歩後ずさってしまう。
アイアンゴーレムより軽いミスリルゴーレムの体だが、攻撃の威力はアイアンゴーレムと遜色ない。機動性と硬さはどちらもミスリルゴーレムの方がはるかに上であり、ミスリルゴーレムはAランクの魔物に分類されている。
シルファが魔法でベンディを援護するが、ミスリルゴーレムは気にする気配もない。
「くっ!」
発動速度重視の低威力の魔法では、ミスリルゴーレムに傷一つ与えられていなかった。
「なんでいきなり二体の魔物と鉢合わせるのよ!?」
リッチへと魔法を放とうとするが、アランを巻き添えにする可能性がちらついて魔法を撃てず、歯ぎしりする。
アランはリッチと、ベンディはミスリルゴーレムと戦っているが、危うい膠着状態が続いている。複数との戦闘になれていないシルファは二人の戦いどちらにも集中できず、的確な支援ができていない。
「きゃああっ!」
リッチの魔法がシルファを襲う。アラン一人ではリッチを抑えきれておらず、後方のシルファにまで攻撃の手が及んでいた。
シルファは防御魔法でリッチの魔法攻撃を防ぐが、その間ベンディへの支援が止んでしまう。
ミスリルゴーレムの重く、速い打ち込みにベンディがじりじりと後退していく。正面からは受け止めず上手くいなしてはいるものの、ダメージは着実に蓄積していっている。反撃する機会を与えられないほどの猛攻に、ベンディの顔がゆがむ。
「アイスバレット!」
ようやくリッチの攻撃が止み自由になったシルファが、ミスリルゴーレムに向けて氷の弾丸を3つ放つ。弾丸はミスリルゴーレムに直撃し、直撃した部分を中心にその体を凍り付かせる。
「うおおおお!!」
ミスリルゴーレムの動きが鈍くなり、それを好機と捉えたベンディが雄たけびを上げながら戦棍を振るう。
全身全霊を込めた渾身の一撃はミスリルゴーレムの体を大きくへこませるが、痛みを感じないゴーレムは止まらない。左腕の一撃が、ベンディを迷宮の壁面まで吹き飛ばす。
しかし。
背後から迫ってきたアランが、赤熱した刀身をミスリルゴーレムに叩きつける!
激しく火花が散り、ゆっくりとミスリルゴーレムの体に長剣がめり込んでいく。ついに体を両断しきり、ミスリルゴーレムが力を失い倒れる。
「はあ、はあ……」
アランがリッチから離れていた間は、シルファが絶え間なく魔法を浴びせかけ、リッチをけん制していた。短時間での複数の魔法行使に、シルファの息が上がり、肩が激しく上下する。
リッチがさらに攻め立てようとしたところで、横から邪魔が入る。アランの剣から生成された火球がリッチの元へと向かっていた。リッチは土の壁を生成してそれを防ぐが、違う方向からはベンディが距離を詰めている。
大盾を構えた突進をもろに食らったリッチは体勢を崩され、戦棍によって頭をつぶされ息絶えた。
リッチの体が魔力に戻って空中に拡散していく。
それを見届けた三人は、戦いが終わったのを確認すると一斉に膝をついて倒れこんだ。シルファは杖を手放して、壁にもたれかかっている。アランは大の字になって寝転んでいる。ベンディは武器こそ手に持ったままだが、腰を下ろして足を三角にして座り込んでいた。今新たに魔物が襲い掛かってきたら三人はなすすべなくやられてしまうだろう。
「し、死ぬかと思った……」
「ああ、よく倒せたな……」
「…………」
三人とも、ひどい有様だった。来ている服はボロボロで、体にもいたるところに傷がついている。ベンディの大盾はミスリルゴーレムの攻撃によって少しへこんでいる。
しばらくの間へたりこんでいた三人は、回復すると転移魔法陣のところへと戻り始めた。
「今日は、これまでにしようか……」
「そうね……」
「……異論はない」
普段は反発するシルファも、今回ばかりはそれをするだけの気力が残っていないようだ。
帰る道中は三人ともほとんど無言だった。
◇
迷宮から冒険者ギルドに帰ってきたパーティーは、併設されている酒場で愚痴を吐き出していた。
「とんだ災難だったわ!」
シルファがジョッキに注がれた酒を豪快に煽り、乱暴に机に叩きつける。
「そうだな」
ベンディが肯定する。
「深層探索初日にこれだもの……せっかく邪魔なやつが消えてせいせいしていたところだっていうのに」
(もしかしたらロジェの言っていたことは本当だった? いえそんなはずないわよね。あんな役立たずが、そんな能力持っているわけないもの)
「これからどうする? 深層に潜るのはいったんやめておくか?」
黙々と酒を飲んでいたアランが口を開く。
「は? あり得ないでしょ。こんな事早々起こるわけないわ。今回は運が悪かっただけよ」
「同感だ。深層に潜って早くAランクの魔物に慣れるべきだ」
シルファとベンディがそろって反対意見を述べる。
「わかった。今後も深層探索は続けていく。だが一週間は休みにしよう。各々疲労がたまっているだろうし、ベンディの大盾も修理しなきゃならない。それでいいよな?」
ベンディとシルファがうなずく。シルファは少し不満そうだが、口には出さない。
もし、今回のことで懲りて認識を改めていれば、三人がさらにひどい目に遭うことはなかっただろう……。