迷宮産の剣はヤバかった
今回は短めです
前方からはミノタウロス、後方からはアイアンゴーレムが近づいてきている。どちらもBランクの魔物で、俺が一人で戦うのはきつい相手だ。
目的の物はすでに手に入れた。あとは帰るだけだ。どちらも同じくらいの強さなら、来た道を戻るべきだろう。
決断したら、即行動だ。もたもたしていると、両方を相手取ることになる。
ミスリル?の剣を抱えて、全速力で来た道を駆け抜ける。ルートはちゃんと覚えている。問題ない。
次の角を曲がったところにアイアンゴーレムがいるな。
アイアンゴーレムの体はその名の通り鉄でできている。<硬化>の魔法も相まって、その体はまさに鉄壁と言えるだろう。生物の体ではないから火の魔法も効きづらい。俺の攻撃手段では有効打を与えられない。
代わりに動きは遅いほうなので、この剣を持っていなければ逃げ切れる可能性に懸けるところだが、早速試させてもらおうか。
角を左に曲がった矢先、アイアンゴーレムの方に拾った剣の剣先を向ける。アイアンゴーレムはまだこちらに気づいていない。
剣に魔力を流し込み、魔法を発動させる!
………………。
何も起こらない。
アイアンゴーレムがこちらに気づいて、重く足音をとどろかせながら近づいてくる。
「何も起こらねえのかよ!」
なんだ、何か使い方を間違えたのか? それとも壊れているのか? いや、よくみたら刀身がうっすら光っている。魔法を射出するんじゃなくて剣に魔法が付与されるタイプか。珍しいが、何度か同じようなものを見たことがある。
「うおっ」
ゴーレムが繰り出した攻撃を避ける。一撃の威力はオーガより大きい。食らったら即死は免れない。
ゴーレムの動きは鈍重だが、それはあくまでもほかのBランクの魔物と比べてであって、その重量に反して俊敏だ。
攻撃が掠るだけでも大惨事になるので、完璧に躱さなければいけない。回避するだけで精一杯で、反撃ができない。
「くっ」
ゴーレムの攻撃を避けながら苦し紛れに振るった剣は、ゴーレムの腕をすり抜けた。
「!?」
まるで手ごたえがなかった。空振っただけかと思ったが、ついでゴーレムの腕がずり落ちた。
きれいな断面が見える。
俺が、斬ったのか? 分厚い鉄の腕を切断したはずなのに、まるでスライムでも斬ったかのような手ごたえだった。
ゴーレムも理解が追い付いていない。しばらく短くなった腕を振り回してやっと、自分の腕がなくなったことを理解したようだ。
この剣に込められた魔法は、切れ味を上げる魔法か……? 尋常じゃない効果だ。
再び剣を振るう。
ゴーレムの胴体も、いとも容易く両断してしまった。
アイアンゴーレムの体が魔力に戻って拡散していき、魔石だけが残される。
ひどく現実味がなかった。幻覚でも見ていたかのようだ。
恐る恐る魔石を拾う。魔石はしっかりと手元に収まった。安堵した。今のは本当にあったことだ。
「これが、迷宮産の魔道具か……」
剣を立ててまじまじと見る。
これだけやばい魔法なら、信じられないほど高価なのも納得だ。誰だってこの剣を欲しがるだろう。俺でもAランクの魔物を単独で倒せそうだ。
気を取り直す。いつまでも放心してはいられない。ミノタウロスが迫ってきている。
この剣があればどうとでもなる気はするが、戦わないに越したことはない。
そこからは気が抜けるくらい一方的だった。帰り道の途中で出会った魔物はことごとく一刀で切り伏せていった。
迷宮の外へ出る。
よし。
迷宮都市へ帰って、新しい迷宮を発見したことを報告しよう。
何でも斬れる剣(何でも斬れるとは言ってない)
次回、追放した冒険者パーティー視点