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新迷宮を発見する

 後ろから魔力反応が急接近してきている。


 転がって魔物の攻撃を避ける。次の瞬間、俺のいた場所から地を震わすような轟音が響き渡る。


 魔物の正体は見当がついている。


 オーガだ。人を優に超す身長に、筋骨隆々とした肉体が特徴のオーガが、その手に持ったこん棒を振り下ろしてきたのだ。


 すぐさま立ち上がり、魔物の方へ向き直る。やはりオーガだった。


 剣はすでに抜いている。大ぶりの直後で相手の動きが硬直している隙をつく!


 <魔力操作>で強化された膂力でもって振るわれた剣がオーガを捉える。だが、分厚い筋肉の鎧に阻まれて内臓までは届かない。


「ちっ!」


 浅い。


 生半可な攻撃ではオーガにかすり傷しか負わせられない。


「ゴァァアアア!!!」


 オーガが咆える。傷をつけられたことに怒り心頭のようだ。


 オーガの腕が無造作に振るわれる。怒り任せの攻撃を避けるのは難しくない。余裕をもって回避するが、一抹の恐怖はぬぐえない。


 人の胴体ほどの太さがあるオーガの腕は、直撃したら即死だ。受けることはできない。


 分厚い筋肉に攻撃を防がれるのならば、筋肉がない、薄いところを狙えばいい。


 オーガから距離をとりつつ、短剣を投げつける。短剣はうまくオーガの左目に突き刺さり、大きくのけぞらせた。


 剣に魔力を奔らせる。剣に刻まれた魔法陣に沿って流れた魔力は一つの魔法を形作った。


 剣先で火球が生成され、オーガに向かって放たれる。火球はオーガに直撃すると、オーガの全身を燃え上がらせた。


 熱に苦しむオーガを見据えながら、距離を詰めていく。


 剣を両手でしっかりと握りしめ、勢いそのままに切っ先をオーガの胸へと突き立てる。それでも分厚いまな板を貫通することはできないが、再び剣に魔力を流し込む。


「グ、グガァァアア!?」


 炎がオーガの体内を焼き尽くす。抵抗することもできずオーガは息絶えた。


 オーガが倒れ落ちる。つられて倒れそうになり、慌てて剣から手を放す。とてもじゃないがオーガの体重は支えきれない。


 オーガの死体が粒子となって空間に消えていく。魔物の肉体は魔力で形成されていて、死ぬとこうして魔力に戻っていく。


 残されたのは、魔力の結晶体である魔石だけだ。


 一応回収しておこう。魔石を拾って、ポーチに入れる。


「ふう……」


 迷宮からの魔力を探知してほかの魔力反応への注意がおろそかになっていた。少しの間だけだが、その少しの間の油断が命取りになるほど魔物が密集している。これから先、魔物との遭遇を避けきれないこともでてくるだろう。


 オーガはCランクだから俺一人でもなんとかなったが、近くにはBランクの魔物もたくさんいる。


 一層気を引き締めていこう。


 迷宮への道中、何度か魔物との戦闘があったが、いずれもオーガ以下で苦も無く倒せた。


 そして、ついに迷宮の姿をこの目に捉えた。


 目に映る迷宮の姿は、古びた小さい建物でしかない。だがこの下に何十階層もの巨大な迷宮が形成されているのだ。


 「魔力索敵」でその存在は確信しているものの、いざ目にするとやはり安心してしまう。


 迷宮は本当にあったんだ。俺が、初めて見つけたんだ。


 湧き上がる感慨に体の震えを抑えきれないが、落ち着け。


 オーガの一件がある。喜ぶのは、今じゃない。付近の魔力反応を確認しながら、慎重に歩を進める。


 迷宮の入り口にたどり着いた。


 中に入ると、部屋の真ん中に下へと続く階段があるのが見える。もう、この建物が迷宮だと断定していいだろう。


 さっさと街に戻って、このことを報告しよう。


 踵を返そうとしたその時、思い出す。そういえば、迷宮は発見されると領主の管轄下に置かれて、領主の兵隊が一足先に迷宮を探索するのだと聞いたことがある。「浅層」にある宝箱はほとんどとりつくされて、冒険者にとっては何の魅力もなくなるとベテランの冒険者が言っていた。


 今なら、自由に迷宮を漁れるんじゃないか……?


 迷宮産の魔道具はどれも非常に貴重で、高価なものらしい。装備できるのはAランク以上の冒険者か、国お抱えの特別な騎士くらいだとか。


 強欲かもしれないが、少しだけ、少しだけならいいだろう。今迷宮に潜るのは危険だが「魔力索敵」があれば問題ないはずだ。


 うん、そうだな。まだこれが迷宮であると確定しているわけじゃないからな。もうちょっと調べてみないと。


 地下へと続く階段を下っていく。


 迷宮内部の壁は淡く発光していて、地下でも物がはっきりと見える。


 階段を下りきる。一層に着いた。


「バーデルの迷宮とほとんど変わらないな」


 幅10メートルほどの通路が一直線に伸びていて、突き当りで左右に分かれている。いつも潜っていた迷宮都市バーデルの迷宮と同じだ。聞く限りではどの迷宮もこんな感じらしいが。


 もちろんこれから先の通路は全然違うだろう。手元にはいつものように迷宮の地図があるわけではない。来た道を忘れないようにしないと、戻れなくなってしまう。


 魔力の反応が薄いほうの道を選んで進んでいく。


 完全には魔物との遭遇を避けられず、何度か戦闘を挟んだが問題なく倒して魔石を回収した。


 宝箱は……割とあっけなく、すぐ見つかった。


「……罠じゃないよな?」


 あまりにあっけなさ過ぎて罠かと警戒したが、宝箱がトラップになっているなど聞いたことがない。これは正真正銘、お宝が封じ込められている箱だろう。


 おっかなびっくり開けるが特に何事も起こらず。


 宝箱の中には、一振りの直剣が鞘に納められて眠っていた。


 剣を宝箱の中から取り出す。軽い。鞘から抜くと、不思議な輝きを放つ刀身が顔をのぞかせた。材質は何だろうか、ミスリル……? ミスリルを見たことがないからわからない……。


「なんか凄そうだな……」


 刀身には、魔法陣が事細かに刻まれている。今の技術じゃ、とてもこんなふうには加工できないだろう。俺が持っている剣より、はるかに多くの情報が精密に刻み込まれている。


「凄腕の魔法使いでも、解析できないんだろうな」


 俺が持っている剣などの広く出回っている魔道具は、迷宮産の魔道具を解析して作られている。とはいっても一部を解析して模倣するのが精一杯で、量産品と迷宮産(オリジナル)には歴然とした差がある。


 ……俺にはどちらもさっぱり理解できないが。


 ま、仕組みが全く分からなくても魔力さえ流せば使えるのが魔道具のいいところだろう。魔石があれば自分の魔力を流す必要すらない。


「!」


 魔力反応が近づいている。早くここを後にしよう。


 だがどうやら、魔力反応は前後両方から近づいているようだ。つまり、どちらかとの衝突は避けられない。


 近づいてくるにつれて詳細もわかってきた。


「まずいな」


 どちらも、Bランク相当の魔物だ。


  


 


 


 

 


次回! 迷宮で発見した魔道具が火を噴く!(比喩)

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