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精霊の夢 -IF STORY-  作者: ミチ
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第1部 もしも兄貴の能力が発動していたら

完結済み小説の精霊の夢のIFが書きたかったので書きました。

第13部 直面する絶望で、兄貴に声を掛けられなかったら、というものです。

 俺は目が覚めると4月7日になっているのが分かった。


 ここは自分の部屋で、電子時計が4月7日と表示している。オニの能力で時が戻ったのだろう。


「あなた、緋色の鳥に完全に囚われてたわよ。風子はあなたを完全に閉じ込めて、自分のものにする気でいたの。幻にはリルの能力も通じないし、困ったわね・・・」


 あのとき鳥に食べられた後、俺はスカイボン特有の異次元空間に囚われていたのか。てっきり解放されたものだとばかり思い込んでいたが・・・。


 どうやら風子は自分の名前を呼ばせた後にあの緋色の鳥を発動させ、俺が隙を見せたところで、ぱっくんとおいしく食べられたようだ。あのとき既に攻撃が始まっていたのか。というか、始まっていたと考えるのが普通であるべきだったんだ。


 どうしたものか・・・。名前を呼んでしまったらその時点で終わりか。ならイレギュラーがあれば攻略できるのではないか?例えば、通常通り登校した場合は先ほどのような、一緒に帰って襲われる話になるが、仮に朝直接お出迎えに行ったらどうなる?幻は能力発動時にしか出せないだろ。流石に。となると本物とご対面できるできるから、そこで一気に勝負をつけるか?


 いや、待て。そもそも倒す必要があるのか?倒してしまったら再起不能になる可能性だってある。精霊への攻撃が人間に、人間への攻撃が精霊にも通るのは岩谷と戦ったときに分かったことだ。 


 となれば一つ結論として出されるのは、風子と関わらないこと。


 蜜月の時を過ごしたあの世界を作ってしまえば、兄貴と対面できなくなってしまう。風子との関係性もそうだが、兄貴が自害していることを防ぐことが1つの目標ではなかったか。


 俺を牢獄に入れるくらい風子は俺のことが好きで、浮気されているのがデマと分かった今、俺は風子との付き合いよりも兄貴を救うことの方が優先的ではないか?


 いや、兄貴を救うというのは烏滸がましい。兄貴は自分の決断で死を選んだ。こんなに生死に対して一生懸命な人間を、弟であるというだけで関与していいのか。


 分からん。


 分からんことだけは確か。


 でも、兄貴には俺が養ってでも生きてもらう価値があり、俺にはその覚悟がある。


 兄貴が死んだことで多くを学ぶことになったが、父親や母親、兄貴の涙を見たくない。


 風子とは付き合わない。ここからは兄貴を救う物語だ。


 俺は布団の中で寝ているリルの頭を撫でた。触感は無い。布団から出て部屋を出る。台所で水を飲む。ルーティーンだ。


 本来ならば「朝からうるせえ」と兄貴に怒られている朝だが、今回はそんなことは無かった。恐らくまだ寝ているだろう。


 今のうちにリルで心を変形させるか?



 ・・・


 ・・・・・・


 いやなんだか急に安心した。なんとかなる。リルで心を変形させずとも、兄貴は生きるだろう。死ぬかもしれないけれど。


 なんだ、何で不安だったのだろう。


 悩む必要なんて無い。時が解決するし、オニの能力で時は戻し放題だ。解決能力も格段に向上している。


 朝飯を食べて、登校するぞ!


* * * * * * * * * * * * * *


「おはよう。小学校に引き続き、また同じクラスだな」


 と、松山実生(まつやまみう)に言われる。 俺は挨拶を返して、実生と適当に雑談する。中学時代は、実生が何故男子の中で俺に対してだけ優しいのか、などと言う議題で意見を出してる輩が居たものだ。


 俺は挨拶を返して、実生と適当に雑談する。中学時代は、実生が何故男子の中で俺に対してだけ優しいのか、などと言う議題で意見を出してる輩が居たものだ。青春だ。まあその輩が茶化してきただけだろうから、今後その話が出てきても気にしなくて良いだろう。鈍感系じゃないから。ほんと。


 その後の授業はやはりつまらなかった。それが1日の授業を終えての感想だ。就職活動の時に一般常識を勉強していたことを思い出す。その時のように一人で勉強するなら良い。しかし授業として束縛された時間、空間で勉強するなどとても耐えられない。


 いや考えるな。既に授業は終わったのだ。部活動見学に行けるのだ。行こう、吹奏楽部へ。ここでもやり直すことはある。あの先輩方と。そして後に入学してくる後輩と。まあなんとかなるだろうけど。


 着いた。大体教室2つ分の広さで、天井も高い。


「お!鶴ケ谷君じゃなーい。本当に入部してくれるんだね!」


 音楽室から部長が出てきた。この人は確か学校一のマドンナとかなんとか言われてたな。色白で長い髪と肌が綺麗で、身長は低過ぎず高過ぎず。話している姿は可愛く・・・おっと、これは懐かしさからくるものだ。他意は無いはず。


「どうもこんにちは。なんとかフルートとして入部したいですねー」


 この吹奏楽部での俺の失敗は、変な言動が主な原因のはずだ。中二病的な。はー恥ずかしい。だが誰も知らないのだ。堂々としよう。


 吹奏楽部にはフルートやトランペット等のような楽器があるが、この学校ではそれぞれの楽器の纏め役をパートリーダーという。俺は部長からフルートのパートリーダーの場所を教えられた。


 音楽室を出て近くの教室へ。


 いた。パートリーダー。あの先輩からまともに指導を受けた記憶は無い・・・と思ったが、丁度思い出した。あの先輩はもともと良い人だったが、俺が変な言動をし始めたから避けていったような気がする。


 まあ、なんとかなるだろうけど。


 俺はガチャリと教室の扉を開けた。この学校の吹奏楽部は普通教室を借りて練習を行っている。そして人が少な過ぎる為、いくつかのパートが同じ教室に居る。ここにはフルート、クラリネット、サックスの人が居るようだ。


 挨拶をしてフルートの場所へ向かう。周りに新入生らしき人が居ない。こんな田舎の弱小吹奏楽部に即入部しようと足を運ぶ奴は俺くらいのようだ。それでもそのうち、小学校の頃の馴染みのある吹奏楽部の連中が来るのだろうが。


「お、鶴ケ谷じゃん。フルート以外はやる気ある?」


 この声はフルートのパートリーダーを務める菊川きくかわ先輩だ。実生みうと同じでカッコイイ系の先輩だ。小学校の吹奏楽部で既に顔見知りの為、今更この人に対して自己紹介を行う必要は無いだろう。


「どうもー。フルート以外はありません」


 この人との練習内容はあまり覚えていない。覚えていようがいまいが、折角やり直すのだから今の俺の全力をもって付き合っていけば良いのだろう。しかし性格が性格だからか全く自信が無い。最悪リルに慰めてもらおう。


「やっぱそうだよね。でも最悪フルートやらせてもらえない可能性もあるから、他の楽器のとこにも行ってね。今はフルートを吹いてても良いけど」


「はい!ありがとうございます」


 自分で持ってきたフルートケースを開いて気付いた。


 ・・・今の俺、口の感覚とか諸々が中学生だから、まずはその感覚に慣れるところからか。難儀だな。俺は溜息を吐いて練習を始めた。


* * * * * * * * * * * * * *


 今の俺の顔を表現できる顔文字を見つけたい。練習を2時間やって自分の無力さがよく分かった。全く納得のいく音が出ない。頭がハッピーになる。その上もう帰らなければならない時間だ。まあなんとかなるか。


 部活を見学している人間は通常の部活をしている人間より早く帰ることで、迷惑を掛けるんじゃない、ということを言われている。なので帰る準備をする。最初の挨拶をした後で先輩がどこかへ行ってしまったので一人で練習していたが、今日は新入生が一人二人来たくらいだった。初日だから仕方が無いだろう。


 教室を出て音楽室にいる先輩に会釈をして昇降口へ。下駄箱で靴を履き替えていると声を掛けられた。


瑚珀(こはく)!ちょっと!」


 この声は聞き覚えがある。声の主の顔を見ると、そいつは照れ臭そうに手紙を渡してきた。


「今周りに人居ないから、今これ読んで」


 お、おう、と戸惑った返事をしつつ手紙を広げる。この声の主は、俺の人生において最初で最後の、そして初恋の彼女だ。名は千景風子(ちかげふうこ)。童顔の可愛い系女子である。一途だから浮気とか絶対無いからね、という手紙の文章が印象的だった。今広げている手紙にも書いてある。手紙を要約すると、付き合いたい、ということだ。返事はOKで構わないだろうか。当時はフラれて半年引きずったから、相当俺も彼女のことが好きだったはずだ。正直7歳年下の人間と付き合うのは申し訳無いが、仕方無い。身体は中学生だ。問題無い。


「都合つくなら一緒に帰る?」


「うん!」


 やはり風子の笑顔は風子だけだな。他人と比べるのはおこがましい。


 * * * * * * * * * * * * * *


 帰り道、かつて風子と歩いていた道を風子と歩く。人通りが少なく静寂に包まれたその道には、ただ二つの影が重なって歩いている。


 俺は安心しきっていた。何故か。何かの話から兄貴の話になったのだが、うっかり口を滑らしてしまった。


「兄貴も後1年くらいで死ぬから、なんとかしないとなあ」

「え!?」


 言った後で滅茶苦茶焦った。人の未来が見えていることをここで伝えてはいけない。俺はしどろもどろになりながら何故かを話した。


「いやあ、兄貴がそろそろって言っててね~」


 我ながら辛い言い訳だ。そろそろってなんだ。しかも人に話すことでもない。


「死ぬなんて悲しいよ!私からも何か言うよ!」

「いや、大丈夫でしょう。なんとかなるよ。妄言かもしれないし。風子から言わずとも俺がなんとかするかもしれないし」


「そんな。死んだら何にもならないよ!」


 そのとき、風子の身体から鳥が飛び立ったのが見えた。


「鳥を出した!?」

「やっぱバレた?気にしないで。その安心感には絶対理由がある」


 風子の目は燃えていた。







精霊の夢が個人的に好きなので、何年も擦り続けたいですね。

では。

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